十四話
「ロウ様の想像通り、今回のこれは当たりですね」
「『イゾルティア』か……聞いたことのない世界じゃな。素材にヒヒイロカネじゃと? ただの金属ではないとは思っておったが、これまた……結婚指輪にしては随分と仰々しいのう」
「このルビーもかなりの質だし、素材自体はどれも一級品ですねぇ。何より……これ、完全に呪具化してます」
「あー、やっぱりかぁ」
「……道理で人がバタバタと死ぬわけじゃわい」
『呪具化』という言葉に反応したロウとノヴォは、先ほどと打って変わり陰鬱な面持ちをしている。どうやらあまり良い情報でないらしい。その場に漂う重い空気を肌で感じつつも、恐る恐るといったようにリオンが疑問を口にする。
「あの……呪具化とは?」
「あぁ、ごめんごめん。リオンには説明してなかったね。アーティファクト、異世界からの【落としもの】には基本的に『魔道具』と『呪具』の二種類あるの」
「魔道具と呪具ですか……」
リオンはそういいながら無意識のうちに自身の首にかけられていた小ぶりの鍵に手を伸ばし、キュッと握り締める。
以前はリオンを縛る首輪の魔道具であったそれは、リオンが元の世界に戻る為のアイテムとして、葵の手により異界に繋がる扉に合うようなサイズの鍵に再構築されていた。しかし今は使用した時とはさらに雰囲気を変え、アクセサリーのような小ささに作り直されている。
鑑継の文様持ちだけが使える《構築》という術だそうだが、《解析》と《分解》の術を経てようやく使用できるものらしい。
対象の理を知り、一度真っ新に戻してから作り変える。それはまさに神の御業だと思わずにはいられないが、それをやってのける葵はどこ吹く風とばかりに涼しい顔をしていた。
「世界によって呼び方は様々だろうけど、私たちの間では、君が付けていた『隷属の首輪』みたいな魔力回路を内蔵した物を『魔道具』、元々なんの力もない物が、人の強い想いと魔力を浴びて力を持った物を『呪具』って呼んでるの。この指輪は『呪具』の方だね」
「これが……」
一見すると繊細な作りの美しい指輪というだけだが、葵の《解析》では呪具と化していることがありありと示されている。どんなにぞんざいに扱われても傷一つつかなかったのは、どうやらこの指輪が呪具化した影響らしい。
「呪具っていうのは、込められた想いによって効果も強さも変わるっていう面倒くさい物でね。魔力を流さないと使えない魔道具と違って、魔力のないこの地球でも十分に効果が発揮されちゃうとこが厄介なの。地球に住む人は、ほとんど魔力に免疫がないでしょ? だから余計に被害が大きくなったりするんだよねぇ……」
「そんな危ないもん地球に置いておけないだろ? だから俺たちが商売ついでにあちこち巡ってはそれっぽいもんを見つけ次第、即回収してるってわけ」
魔力があるのが当たり前な他世界と違って、どういうわけかこの地球は魔力というものが極端に薄い。そのおかげで魔物という存在はレイスのようなもの以外、ほとんどといっていいほど現れない。しかしその分他世界からの干渉を容易く受けてしまうと言うデメリットを抱えているというのだから、世の中そうそううまくいかないものである。
この世界に【落としもの】とやらが多いのはそういう理由なのかと、とりあえず納得したリオンは、葵の掌で硬質な輝きを放つ美しい指輪に目を凝らす。
確かによくよく見てみれば、指輪から妙な気配が感じられる。しかしこれといって見た目に変化がないところがいやらしい。
「世間でいわくつきの物なんて呼ばれてるもんのほとんどは【落としもの】が関わってるんだ。死を呼ぶダイヤモンドだったり死をもたらす花瓶だったりな」
「死ぬものばっかりじゃないですか……」
「言ったろ? この世界じゃどんな小さな【落としもの】でも被害が大きくなりすぎるんだよ。まだ魔道具は魔力を流さない限り安全なんだが、呪具はそうじゃないからな」
ちなみに、世間でいわくつきの物として有名になってしまったものに関しては、歴代の鑑継の文様持ちが似たような材料を集めて贋物を《構築》し、本物となんら遜色ないそれを本物とこっそりとすり替えることで事なきを得ているという。そうでもしないといつなんどき被害を及ぼすかわからないからだ。
贋物を贋物と知らず褒め称える者たちには大いに同情するが、死ぬよりはよほどマシだろうというのが葵とロウたちの意見であり、それを今しがた聞いてしまったリオンも同意見だった。
「この指輪の効果は『選別』。指輪に相応しくない者が身に付けた時、効果が発動して罰を与えるようになってる。魔力が溢れる異世界だったら怪我する程度の呪いだけど、この地球では効果が強く出すぎちゃってるみたいだね」
この地球で起きた七人の死。持ち主の経歴も死に方もバラバラだが、一貫しているのは死亡者がすべて男性であり、尚且つ指輪を身に着けたこと。
罰を与える対象をどういう基準で選別しているのか、それは指輪の持つ意味だけに視点を当てればなんとはなしにわかる。しかしまだ確証はない為、誰もが思ってはいても口にはしなかった。
「この指輪の持ち主の名前はジークフリード・オルティアス。オルティアス公爵家の次男で『イゾルティア』の中でも大国の『アーク』ってところで騎士団長をやってたみたい」
「そんなことまでわかるんですか?」
「まぁ、この指輪の記憶をさらえば大抵のことはね。……持ち主の彼はもう亡くなってる。死ぬ間際に彼が抱いた想いが指輪に宿り、なにかの弾みで【理の隙間】に落ちてこの世界へと運ばれてきた……って感じかな」
「ふむ、ではやはり……」
「『イゾルティア』に行くしかないってことですね」
葵は持っていた指輪をコロリと掌の上で転がしながら小さく頷いた。




