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異世界の落としもの、返却いたします  作者:
一章『遺愛の指輪』

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十三話

「なっななな……」


「ああぁぁリオン君なんて羨ましいことをっ!」


「メルヴィエさん、うるさい」


「だってだってぇっ! 私が同じことやろうとすると物凄く嫌そうな顔するのに……」


「ところ構わず抱き着いて体中まさぐられれば誰だってそうなりますからね? ってか引き剥がそうとすればするほど鼻息荒くなるし、怖い」


「それは……愛が少し多めに溢れちゃうだけよっ」


「やめてホントに……」


 そんなやりとりが間近で行われている中、葵に導かれるがまま細い腰へと手を回したリオンは、その中性的な美貌を驚愕と混乱に染め、初心な乙女のように耳の先まで紅潮させて言葉にもならないようなことを口走ってはわなわなと唇を震わせる。

 見た目だけは付き合いたての恋人のような光景だが、当の本人たちは天と地ほどの温度差があった。


「密着面積が多ければ多いほど魔力を効率よく貰いやすいんですってば」


「まぁ、端から見たらただのバカップルだけどな」


「イケメンに抱きしめられるとか役得です」


「お主も大概欲望に忠実じゃな」


 軽口を叩き合う葵たちは、地球での貞操観念が軸になっている為、こんな場面であっても通常運転だ。葵に至ってはリオンの体温を感じながら温かいなぁなどと寄り掛かる始末。類い稀なる美貌を持ちながらも、その境遇故に異性と触れ合うことに一切縁の無かったリオンが、今この瞬間にどんな思いをしているかなどとは微塵も考えていなかった。


 息を吸えば甘く魅惑的な香りが鼻を擽り、カッと顔がほてるのを感じて呼吸が止まりそうになる。艶のある髪の隙間からちらりと見えるうなじは部屋の灯りを弾くような白さで、たちまち首から肩にかけて伸びるなだらかなラインに目が釘付けとなってしまった。

 回廊で成人した男を軽々と抱き上げ走り抜けた人物とは到底思えない華奢な体躯。あの時はとにかくいっぱいいっぱいで考える余裕も無かったが、こうして改めて触れ合ってみると、力を強めたら壊れてしまうのではないかと思うほど頼りない細さをしている。


 リオンはまともに化粧をした葵の姿を今日初めて見たが、自分の魅力を活かす化粧を施した彼女は非常にタチが悪いと感じていた。元々持った見目の幼さをあえて隙として残したまま、『女』としての妖艶さを引き立たせており、ずぼらで男らしい普段の彼女とは対極と言ってもいいほど女性らしいのだ。女性に慣れた男であっても目を引かれるだろう今の彼女に、恋愛どころか触れ合うこともなかった純情青年のリオンが意識せずにいられるはずもない。


 今まで知らないでいた感情が、理解した途端にぶわりと溢れて身の内を焦がす。羞恥というだけではないそれに、もうどうしていいやらわからず、リオンは自分の胸にすっぽりと収まって寛ぎ始めた葵に視線を落としながら涙目になった。


「お嬢、リオンが泣きそうになってるから。早く済ませてあげて」


「えっ、なんで?」


「いいから、早く」


「はーい」


 だんだんと顔色がおかしなことになっているリオンに気づいたノヴォは、ため息を一つ零しながら、リオンの腕の中でまったりとする葵を急かした。


 リオンを座椅子代わりにしているかのような体勢だが、葵は特に顔を赤らめることなく眠そうにあくびを一つすると、ゆるゆると瞼を閉じてリオンから魔力を勝手に引き出し始める。

 途端にリオンの体内がゾワリと粟立ち、思わず顔を顰める。女性特有の柔らかさにあわあわと頬を赤らめていたリオンも、体内から魔力が抜き出される気持ちの悪い感触にキュッと目を瞑り、葵を抱きしめていた腕にも自然と力が入る。


「《解析》」


 葵はリオンの温かさを背中に受けながら、掌に乗せた指輪に視線を落として短く言葉を紡いだ。一瞬指輪が淡く光ると、葵の脳内に指輪の立体映像と共に硝子板のようなものが現れ、次から次へと情報が刻まれていく。


 使われた素材や作られた世界の名前、付与されている魔術のみならず、指輪が辿ってきたであろう軌跡までが事細かに抜き出され、ずらりと並べたてられる。葵は瞼の裏に焼き付けられたそれを、しげしげと眺めながら必要な情報だけを拾っていった。


 身体のどこかに文様が浮かぶ、鑑継の中でも後継に選ばれる者のみが扱える術のひとつが、この『《解析》』である。あらゆるものの情報を丸裸にし、一切の隠蔽を許さない。まさに神の瞳のような万能さを持った術だ。


 数多の世界にも似たような魔術はあるが、どれもこれも表面をさらう程度の情報しか抜き取ることができない。しかし彼女の持つ『《解析》』は、そこにあれば何でも情報を抜き出すことが可能であり、それを阻止する手立ては今のところ魔力を封じるくらいしかない。たとえ封じられたとしても、葵の肉体は空気中から魔力を集めることができる特異体質の為、実質彼女が十全に術を行使できないのは、魔力の少ないこの地球のみである。

 途方もない量の魔力を身の内に蓄えられ、尚且つそれをしながら狂わずにいられるという稀有な体質となったリオンを傍に置くことで、そんなデメリットも解消され、実質今の葵はこの地球、【龍脈の源泉】のある屋敷以外でも一定の魔術を使いこなすことができるようになったというわけだ。


 ただし、魔法を使うとなったら今のように必ずリオンとどこかしら接触していなければいけないのだが。


「ふんふん……なるほどねぇ」


 葵はバッグからメモ帳とペンを取りだすと、サラサラとペン先を走らせて手に入れた情報を書き写していく。内容はわかりやすく必要な部分のみに留め、書き終えるとメモを破いてロウへと渡した。


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