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異世界の落としもの、返却いたします  作者:
一章『遺愛の指輪』

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六話

「葵さん」


「ん?」


「さっきはその、すみません」


「えっ、なにが?」


「止めに入れなくて……俺、男なのに……情けないです」


 どうやら彼は、葵と岡崎のやりとりを仲裁できなかったことを悔やんでいるらしい。

 けれどもそれを横で聞いていたノヴォは、いやいやと大げさなくらい首を振りながらそれを否定する。


「ダメダメ、女同士のいざこざに男が首を突っ込むと余計に話がこじれるんだから」


「そう、なんですか?」


「特にあの女みたいなタイプはヤバいね。下手すれば俺たちまで変な執着されかねない」


「執着……? 確かに執念というか、葵さんに関しては邪気に近いものを感じましたけど」


「ははは、邪気ね。言い得て妙だわ、それ。ああいうタイプはな、気に入ったもんはなんでも手元に置いておきたがるんだよ。目の届く範囲に上物と自分にとって安物だと思うもの、両方置いて自分自身の価値を知らしめたいのさ。だからこそお嬢はあいつにとって上物である俺たちを下がらせた。見つかれば絶対面倒なことになるからってね」


 ノヴォはそう鼻で笑いながら、赤信号を見て緩やかに車の速度を落とす。


 今日がクリスマスということもあるのか、道がいつも以上に混み合っていてなかなか先に進まない。ノヴォは余裕の無い表情を浮かべると、時計を見ながらチッと舌打ちをした。


「あー、約束の時間まであとちょっとか……ロウ爺を待たせるとかヤバい。ったくあの女がごちゃごちゃ絡んでくるから……」


「ロウ爺……?」


「大事な取引先の重役。大丈夫だと思うよ。ロウ様、私に甘いもん」


「そりゃそうだけどさぁ……部下には厳しいんだって、マジで」


 彼はハァと深く息を吐きながら苛立たしげにハンドルを指でトントンと叩くと、すぐさまカーナビの電源を入れる。軽く操作すると、今まで沈黙していたカーナビが渋滞の少ない横道を検索して音声で案内し始めた。その無機質な声が流れる度に、リオンが怯えるようにビクリと肩を震わせオロオロとノヴォと葵に視線を向ける。


「くくっ、リオン、大丈夫だよ。害はないから」


「あー、俺もここに来たばっかの頃はそんな感じだったなぁ……なんか懐かしいわ」


 感慨深く呟かれたノヴォの言葉に、リオンはすんなり流せない違和感を感じて首を捻る。今の言葉を聞くに、彼はまるで……そう思い葵の方を見ると、彼女は言いたいことを理解しているように笑顔でコクリと頷いた。


「ノヴォはね、リオンと同じ異世界人なんだよ」


「ノヴォが……異世界人?」


「うん。彼は父さんが連れてきた異世界人。詳しいことはロウ様を交えて話そう」


「は、はぁ……」


【落としもの】としてこの世界にやってきたリオン。葵の話を聞く限り自分以外に異世界人はいないものだと思いこんでいたのだが、リオンの横に居る男はこの世界の人間ではなく、リオンと同じ異世界人だという。

 その割にはこんな得体の知れない鉄の箱をいとも簡単に動かし、この世界にも非常によく馴染んでいることが窺える。いったいどういうことなのかと葵を見やるも、彼女は流れゆく景色を眺めたままそれ以上口を開こうとはしない。


 仕方なくリオンも外の景色に目を向ける。元居た世界とはまったく違った文明、見たこともないようなものばかりが並び、道行く人々は戦など遠い過去なのだと疑いもせず、ただ今を思い生きている。


 宝石のようなイルミネーションが輝くビル街を美しいと思いつつも、息をする度に流れ込む淀んだ空気が息苦しく感じる不思議な世界。天を突くような街並みを眺めながら、本当に異世界に居るのだという実感がヒシヒシと湧いてくるのを感じて、リオンはキュッと唇をきつく結ぶと、目的地までひたすら窓の外を眺め続けた。



 辿り着いたのは閑静な高級住宅街の中にひっそりと佇む料亭だった。


「クリスマスらしさの欠片もない所で悪いな。ここ、ロウ爺の好きな店なもんでよ」


「個室があって料理が美味しければどこでもいいよ。ね、リオン?」


「えっ? えぇ、まぁ……」


 拙い返事をしながらも、クリスマスとは何ぞやと首を捻るリオンを見て軽く笑う。彼にとっては馴染みのないイベントだ。祭りのようなものだと説明すると、興味があるのかないのかわからない顔をしながら、へぇと小さく呟いた。

 仲居の後に続き案内されるがまま建物の中へと入ると、すぐにお座敷へと通される。そこには葵にとって馴染み深い人物が穏やかな笑みを浮かべていた。


「葵や、久方ぶりじゃのう」


「はい、ロウ様。お待たせして申し訳ございません」


「そんなに堅苦しくせんでいい。昔のようにロウ爺ちゃんと呼んでおくれ」


「駄目です。連れに示しがつかないじゃないですか」


「そうかのぅ」


「そうですよ、もう」


 座敷に腰を下ろしていた小柄な老人は、深く刻まれた笑い皺を更に深くしながら葵を微笑ましそうに見つめる。まるで溺愛する孫に向けるようなそれに照れくさくなりつつも、後ろで居心地悪そうにしていたリオンを紹介してからロウの向かいに腰を下ろした。


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