表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の落としもの、返却いたします  作者:
一章『遺愛の指輪』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/31

一話

ようやく第一章です。のんびりした展開ですがよろしくお願い致します。

 


 世間はクリスマス一色に染まり、テレビやラジオ、はたまた有線でさえシャンシャンと鈴の音が鳴り響く二十五日の夜。葵はとうとう出勤の最終日を迎えていた。


「いやぁ今日で最後なんだねぇ、鑑継君。寂しくなるねぇ」


「……はぁ」


 就業時間も残り僅かとなった頃、丁度私物の入った段ボール箱をデスクの上によいしょと置いた時、視界の端の方から心にもないような言葉が葵の耳に届く。


 そのどこかねっとりとした声を発したのは、美人な同僚である岡崎美香(おかざきみか)の好き勝手を散々許していた人物、係長の高梁田(たかやなだ)だ。愛妻家のおじさまが多い中で独身であり、誰から見てもあからさまな態度を取ることから、歳の割に係長止まりなのは、もはやお察しだろう。

 彼は大人しく見た目に頓着しない葵よりも、秘書課の人たちと何ら遜色ないような美しい容姿の岡崎ばかりを贔屓し、彼女に嫌われたくないばかりに本来彼女が受け持つべき仕事を葵に押し付け続けた人物だ。


 視線を向けるまでもないとダンボールに目を向けたまま適当に相槌を打った葵は、表情を隠す眼鏡の下でスッと目を細める。

 でっぷりと肥えた腹を摩り、今にもはち切れんばかりのワイシャツに汗を滲ませながらもヘラヘラと笑みを浮かべている高梁田は、葵の素っ気ない返事に怒ることなく、何故か得意げになってペラペラと言葉を続ける。


「いやぁ、若いのにご両親の後を継いで骨董商になるんだって?」


「はぁ」


「その若さでちゃんとした目利きができるのかい? 鑑定なんて一朝一夕にできることじゃないだろう? あれよあれよと身ぐるみ剥がされてどこかに売られるなんてことにならないようにねぇ」


「ご心配なく」


「それに君はほら、岡崎君と違って無愛想だから接客には向いていないだろう? そんな子が親の事業引き継いで上手くやっていけるのか、僕なりに心配してるんだよ。はははは」


「やだぁ係長、急に私を引き合いに出さないで下さいよぉ」


「岡崎君は可愛いし気を遣える良い子だからねぇ。鑑継君には今後の為に是非とも岡崎君を参考にしてほしいねぇ」


「もー、それは言い過ぎですってばぁ」


 総務課の華と呼ばれる岡崎がそう言ってはにかむように笑いながら頬に手を当てる。その仕草ひとつするだけで彼女の小動物のような愛らしさが増し、高梁田はそんな彼女を見て満足げに相好を崩すと、岡崎と葵を見比べるように視線を行き来させていた。


 砂糖菓子のような甘い美貌と庇護欲を誘う空気を持つ岡崎は、その純粋培養されたような雰囲気とは裏腹にかなりの毒花で、とりあえず金を蓄えていそうな独身でいて自分に甘い相手なら、たとえ自分好みでなくとも粉をかける性質であるらしい。守備範囲は相当広いらしく、その中に高梁田のような脂っこそうな人物も入るのだから、懐が広いというべきか否か非常に迷うところである。


「葵ちゃんが居なくなるなんて寂しいな。ずっと一緒に働けるかと思ったのに……本当に辞めちゃうの?」


「まぁ」


 岡崎はぱっちりとした瞳を潤ませながら俯くと、悲しいとばかりにスンと小さく鼻を啜る。その仕草でさえ計算されているのだろう。自分の容姿の良さを理解した上でのこれは、男性だったらなんとかしてあげたいと思わせてしまうものがあった。

 しかし彼女はそういったものを利用して何人もの女性社員を追い詰めては辞職させており、それを知っている葵にとっては、彼女の演技などうすら寒いことこの上ない。


「葵ちゃんは私と離れて寂しいとか思わないの?」


「別に」


「そんな、私たち友達でしょ? あんなに仲良くしてたのに、なんでそんな冷たいこと言うの?」


「鑑継君、そんな言い方は無いんじゃないのかい? せっかく岡崎君が君に気を遣っているというのに」


(こいつら本当に面倒くせぇ……)


 上から目線かつ一方的に話を振ってくる彼女らに、思わず葵の眉間に深い皺が寄る。心の中の声が些か荒くなるのも仕方がないだろう。


 彼女の言う友達は、裏を返せば自分の手足となる下僕である。

 今まで散々仕事を押し付けてきた下僕が居なくなることは彼女にとって死活問題なのだろう。思わずそんなことは知らんがな、と返してしまいそうになる葵であったが、生憎と既に退職届は受理されている。その時点で彼女が何を言ったとしても葵がここを去ることは決まっていた。


 葵はいまだ隣で三文芝居を繰り広げる彼らに構うことなく言葉少なに残りの私物を段ボールの中へと放り込んでいく。

 周囲はそんなやりとりをする葵に同情の視線を送るが、今日がクリスマスというのもあってか、その手元はちゃっちゃと帰り支度を始めていて、ついつい恨めしさを込めてジトリと睨みつけてしまう。彼らは途端に気まずそうに目を泳がすと、妻が帰りを待ってるからなどとわざとらしく言葉にしつつ、別れの挨拶もそこそこにそそくさとその場を後にした。

 それとすれ違うように、オフィスに入ってくる人物が葵に声をかけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ