第一章
いつかまた、彼に会えるだろうか…今どんなに願っても報われない思いのような気がするけれど、…どうか…この記憶がなくなる前に……もう一度願いたい……………彼に…会いたい……………… 私藍那は今18歳、高校ではまじめに過ごすも頭は悪くて見た目もまあまあ程度、スタイルも良い訳でもなく目立つわけでもなく過ごしてきた。
しかし男受けが悪いわけでもなくて何人かの男には告白されたりはしていたが全て断っていて男と付き合ったことはなかった。
「藍那はさあ、なんで男と付き合わないの?せっかくよってくるやついるんだから付き合ってみたら良いじゃん」友人の智が意味分からんという顔をしながら言う。智ははっきりとした性格の持ち主ですぐに思った事を言う藍那の友人だった。
「でも私、好きな人いるし…」
「だからそいつは藍那が小5の時出会った人でしょ、しかも病院で。もう死んでんかもじゃん。現実みたら諦めたが良くない?」
「そうかなあ…でめまだ好きだし、また会えるかもって思っちゃうんだよね」
「まあ好きにしたら良いけど名前も顔もなにも覚えてないんでしょ、早く忘れなよ。じゃあ私そろそそろ帰るわ。明日で学校最後だし卒業式遅刻しないでよね、また明日。」
「おやすみ智」
「ただいまあ」智が家に帰るやいなや母親が慌てて話しかけてきた。
「あんた今日はひとりで帰ってきたの?」
「藍那と帰ってきたよ、何慌ててんの?」
「今警察から電話で藍那ちゃんが帰ってたら後ろから誰かに刺されたって電話が…あって…あんた誰かみてないかって……」母は床に座りこみ
「あんたが刺れなくて良かった…」涙をためて安堵している。
「見てないけど…藍那は、大丈夫なの?何処の病院なの」さっきまで一緒に恋いバナをしていたなんて想像出来ない現実が智を襲っていた。すぐ病院に行き藍那の姿を探すと集中治療室に横たわる変わりはてた藍那がいた。ガラスごしにしか藍那をみることしか出来ない藍那の母親が
「藍那こっちをみて」と泣いている。智は藍那の母親の手をにぎり
「おばちゃん…」励ましたかったがそれ以上の言葉が見つからず涙が頬を伝った。
「藍那…」
その時だった藍那が目を開いたのだ。みんなが驚いて藍那に呼び掛ける。すると藍那は小さい声で
「彼だったの…間違いない…彼が私の所に…」そういうとまた目を閉じてしまった。みんなが涙を流し床にくづれおちた。
「彼って誰のこと、藍那…まさか…」智は今日藍那と話した忘れられない彼を思い出していた。
どれくらい眠っていたのだろう。この体のだるさはたまらない。
「ん…んん…」誰かの声がする
「大丈夫?」…
「看護師さん呼ぼうか」目が覚めた、
「あ大丈夫そうだね、良かった。うなされてたよ大丈夫?」17歳か16歳位だろうか同い年か、少し年下の男のこが話しかけてきた。
「大丈夫…ありがとう。」藍那は彼の顔を見るなり思った彼に似ている…?でも藍那の好きな彼は藍那より五つは年上だった気がしたため彼だとは結び付けなかった。頭がぼーっとしている。私なんで病院で寝てるんだろうそしてこの病院は彼に出会った病院に似ている。
「じゃあ俺はこれから検査だから」と彼は部屋を出ていった。ぼーっと部屋から窓を見ながら頭の整理をしていた。明日は卒業式だったよね、なんで病院にいるんだろう…すると
「ミーンミンミンミン」と蝉の声がし、焦って鏡を探した。
「なんで三月に蝉がいるのよ…」鏡をみて驚いたそこには11歳の藍那がいた。
「え…私…なんで……じゃあさっきの彼は…」藍那は廊下を出て探したがそこに彼はもういなかった。しかしこの廊下、看護師さんたちに見覚えがあり間違いなかった。 「私…今…11歳のあの頃にいるんだわ」藍那は不安と驚きとそして彼が近くにいるという気持ちでいっぱいになった。
「彼に会える…私彼に会える」
その頃智はまだ眠り続けている藍那を見つめていた。藍那の体調は落ち着き、普通の病室に移動されていた。
「藍那…彼ってあんたが好きなあいつなの?そうなのよね。」返事を返す事の出来ない藍那に智は何度も声をかけていた。しかし智には絶対に藍那が最後に言った彼は小5の時に出会った彼に間違いないという自信があった。
「だって藍那が彼なんて呼び方する男はあいつくらいたもんね。…でもなんで藍那を刺したりしたのよ…」藍那の話しによれば闘病生活を2人で励ましあって耐え抜いて、藍那が先に退院が決まって別れが淋しくて泣いていたら
「俺が元気になったら会いに行くよ、また一緒に遊ぼうな」と言ってくれて別れたとのことなのに、いったいなぜ藍那を…その時だった。
「智、藍那ちゃんを刺した犯人つかまったわよ。」と病室に駆け込んできて母が叫んだ。
「犯人は…誰だったの。藍那の事昔から知ってる人でしょ」
「それが…藍那ちゃんの事なんて知らないって、誰か刺したかっただけで丁度目の前にいたからだって。もうお母さん藍那ちゃんが可哀相で」
母は泣きながらに訴えた。しかし智にはその人ではないきがした
「……お母さんその人何歳?」
「え?そうね〜40歳位かしら」
智はそれを聞いて
「違う…犯人はその人じゃ…その人犯人じゃないよ」
「でも警察が決めた事だから確かよ。もう大丈夫よ藍那ちゃん。」母は眠っている藍那の顔を撫でながら笑顔で喜んでいる。しかし智にはそんなこと信じられず
「母さんその犯人の連れて行かれた警察所の場所教えて」
智は自分の目で確かめに行く覚悟を決めた。
その頃藍那は過去の自分を鏡で見ていた。
「私はこんなに体調の悪そうな表情していたのね…」
目にはくまが出来ていて唇は青くチアノーゼが出来ている。腕をみると痩せていて骨が目立つほどがりがりに痩せていた。小学生だった昔の頃は見た目など対して気にしていなかったため解らなかったのだ。
鏡をじっとみているとノックする音がした。
「あ…はい。」慌てて返事をするとナースのひとりが病室に入ってきた。 「藍那ちゃん今日はベッドから起き上がって大丈夫なの?」
「はい、お陰様で大丈夫です。」
「それは良かった。調子が良いなら少し外へ散歩にでも行かない?」
看護師さんの胸元をみると都築とかいてある。
そういえばいつも都築看護師さんが私のお世話をしてくれていた事を思い出し懐かく感じた。
「藍那ちゃん、お散歩行ってみようか。」
「はい、お願いします。」
車椅子を押してもらい外を散歩しながら都築看護師さんが楽しそうに話しをしてくれていた。しかし藍那の頭は彼でいっぱいで外の景色から彼を探していた。しかし何処を見渡しても彼はおらず藍那はがっかりしていた。
その時目の前で杖をつきながら点滴のスタンドを持っていかにもあぶなっかしいおじいさんが目の前を通った。
「あらやだ、おじいさんたら、ひとり歩きは止めてって言ってるのに。藍那ちゃん少しここで待っててね。」 藍那がぼーっと空をみていると、
「空が好きなの?」聞きおぼえのある男性の声がした。
声の聞こえる側に振り向くとそこには会いたいと思い続けた彼がそこにいたのだった。「あ、……はい。」藍那は照れてしまった事と嬉しいあまりになかなかうまく話す事が出来なくて簡単な言葉で終わってしまった。
「俺も好きだよ空、綺麗だよね。雲の沢山あるときの晴れた空が一番好きだな。」
男はそういうと藍那の横に座った。
「あ、あのさっきは病室で心配してくださってありがとうございました。私、藍那って言います。」
藍那が挨拶をすると男は藍那の方を向いて笑顔で答えた。
「元気そうでほっとしたよ、俺は宏。宜しくね藍那ちゃん。」
しばらく2人で他愛のない話しをしていると宏から
「藍那ちゃんは何処が悪くて入院しているの?」と質問がきた。
「…心臓です。」今の体は11歳なのでまだ病気を持っているが、藍那の心は18歳。とうに心臓移植をし闘病生活を抜けだし普通の生活をずっと送ってきていたためとてもそう答えるには違和感があった。
「そっか…それは辛いね。頑張って病気に勝たなくちゃね。」宏は笑顔で藍那にエールをくれた。
「宏さんは、何の病気で入院しているの?」
「俺?俺はただの盲腸だよ、後四日で退院かな。」
藍那は戸惑った。おかしい。藍那の記憶では、藍那が先に退院して彼が元気になったら会いに行くって言ったはずだった。
藍那が自分の今まで思っていた記憶と今起きていることの矛盾に戸惑っている間、少しの沈黙が続いていた。そのことを藍那が淋しい思いをしていると思ったのか宏が口を開いた。
「藍那ちゃんは毎日外に出られる訳ではないの?体調の良い時だけ?」
「あ…はい。毎日は出れません。」
「そうなんだ…じゃあ明日から俺退院するまで毎日部屋に遊びに行くよ。」
「え…」
「約束するよ、ほら。」
宏が笑顔で手出してきた藍那も嬉しくて手をだし指切りを交わした。
都築看護師さんに車椅子を押されながら藍那は自分の思っていた記憶との矛盾に悩んでいた。記憶が間違っていたのか…それとも今のこの時がただの夢なのか…藍那は今なぜここにいるのか悩んでいた。
その頃智は、警察所の前にいた。警察所の中に入り誰に話しかけたら良いのか迷っていると、ひとりの警察官が話しかけてきた。
「なにか用かね…」その警察官はとても恐ろしい顔立ちで、警察官と言うよりも極道の方が似合う感じがした。しかし笑顔はとても優しそうで話しかけやすい印象の方だった。
「私、智と言うものです。今日起きた事件の事で話しがあってきました。」智は悪戯と勘違いされないよう、そして怯えている自分に負けないように強く主張した。 「どの事件の事だね?」
警察官もまさかこんな少女が事件について話にひとりで来るとはと思いもせず驚いていた。
「藍那の事件で。あの通り魔が後ろから藍那を刺した事件の事で、私藍那の友人で、いつも一緒に帰っているものです。」
「あ〜さっき私が君のお母さんに、君達が一緒に帰っている時になにか変な人がいなかったか尋ねてもらえないかお願いしたからそのことを伝えに来てくれたのかな。そのことなら大丈夫だよ、さっき犯人は…」警察官が言い終わる前に智が話しを止め話し始めた。
「違うんです。そのことは本当に変な人はいなかったです。私が言いたいのは、さっきつかまった犯人にどうしても聞きたい事があって、犯人が私には彼では無いようにしか思えないんです。だって藍那は…」次は警察官が藍那の話しを止めた。
「智さんだったかな。こんな玄関口でこんな話しはちょっと回りに筒抜けだから、詳しく教えてもらえないかな、とりあえず奥の部屋に行こう。」智はとりあえず警察官が自分の話しを聞いてくれることに一安心だった。
「はい。宜しくお願いします。」智はそううなり自分の拳を強く握り自分の思いをどうにかしてでもこの警察官に伝えなければと思ったのだった。
読みにくくてすいません