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故に其は禁忌とさるる  作者: のっぺらぼう
黒き鱗の王
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#06

エト・ドレザク王国の王都ノヴィは、東の大陸(エト・タチア)の北の内陸部に位置している。同じくらいの緯度であっても、その先に中央大陸(ケトーレ・タチア)がある海に面した港湾都市ニュクヴォールは暖流の影響で気候が温暖だが、内陸のノヴィはとにかく一年を通して気温が余り上がらない。エト・ドレザク王国十三代国王セニュイアとビンオン公ケイ・ヌトの婚礼の義が行われたその日は、あいにく天気に恵まれず、霧雨が始終降り注ぎ、屋外を歩く際には外套が必要なほどであった。それでも、王宮と、婚礼が行われる王宮に隣接する、ノヴィの、ということはつまりエト・ドレザク最大の、太陽教拝光派(カロン)の神殿の間の街路は、王と新公爵の姿を一目見ようと、結構な量の市民が鈴なりになっていた。今日は婚礼のみで、市民へのお披露目は後日別途に、ということになっているので、別に今日押し掛ける必要はないのだが、野次馬というのはどこにでもいる。

太陽教拝光派(カロン)はエト・ドレザク王国の国教である。竜種(ドレザク)中央大陸(ケトーレ・タチア)から渡って来た際にもたらされた。というよりドレザク王国で正統派メルスと呼ばれる主流派との政争に破れて異端扱いを受け、教徒たちが逃げて来た、と言うのが正確なところである。中央大陸(ケトーレ・タチア)から逃げた教徒たちは、今のエト・ドレザク王国のさらに東に、神聖太陽教国ヴァルタフィロという自分たちの教義に沿った国を建国し、時を経てその教えが東の大陸(エト・タチア)の北部に広まり、エト・ドレザクでは国教として定められた。


圭介は隣のセニュイアの歩調を合わせることだけ考えて、神殿の中に歩み入った。まだ体は本調子でなく、その上着慣れないやたらと豪華な婚礼衣装を着せられ、初見の場所で、かかとの高い靴を履いているわけでもないのに圭介より頭一つ分以上背が高く、百八十センチくらいはあるセニュイアに合わせて歩かなければならないのである。他のことを考える余裕などなかった。

一応、結婚相手の筈だが、セニュイアの姿を目にしたのは数分前が最初である。昨日は結局会うことはなく、今朝も王宮から神殿に向かう馬車が別、支度も別で会う機会もなく、神殿への入場という段になって初めて会った。だが頭部はすっぽりと黒いベールで覆われているので、(いま)だに顔立ちは不明であり、言葉も交わしていないので、声すら不明である。ただ、竜種(ドレザク)の成人女性の平均より長身で、堂々たる体躯の持ち主であり、(まと)っている裾の長いドレスと数々の宝飾品の総重量が、間違いなく圭介の衣装の数倍はあることは知れた。

圭介たちが進むその先、神殿の中央、(しつら)えられた膝ほどの高さの祭壇の前、この神殿の神官長が立っていた。圭介に伝えられた婚礼の義の手順は簡単で、神殿にセニュイアと並んで入場、中央にいる神官長の前で結婚の許しを乞い、神官長が太陽神に許しを乞い、承諾された後、入って来たのと同じ経路を戻るだけである。なのだが、神官長から一定の距離を取り、円を作る形で、婚礼に参列している貴族たちがエト・ドレザク式の軽く頭を下げた敬礼の格好で(たたず)んでいる。一部を除き竜種(ドレザク)であるため男女問わず皆、圭介より背が高い。その上それぞれ競うような豪華な正装姿を披露しているものだから、本人たちにそのつもりはなくとも、圭介は神殿全体から圧迫を受けているように感じ、顔に浮いた脂汗を拭う余裕もなかった。

一方で、眼前のセニュイアと新公爵の結婚の許しを太陽神から受けている神官長は慣れたものである。白い、一件質素だが、正絹(しょうけん)に金糸、銀糸で細かい刺繍が施された、実はかなり値の張る正装姿も、圭介のような服に着られていると言った風情ではない。流石に相手が国王ということで、婚礼の話しが来た直後は緊張していたのだが、本来先だって行われる筈だった予行練習が日程の都合でまるまる中止になり、セニュイアや新公爵が本式ではやらなければ行けない複雑な手順の数々は全て省略、駆け落ち結婚並に手短なものになってしまったため、やるべきことが非常に少なくなっていた。儀式の簡略化については当初もちろん反対し、後日別途行うことを王宮側と強く約束した上で認めたものだったが、こうなると簡単に済んで良かったと、内心、聖職者ならぬ俗っぽいことを考えていた。

圭介は、そんな神官長の内心など知る(よし)もなく、神官長により蕩々(とうとう)と述べられる許しの言葉を、緊張のあまり頭痛を起こし始めた頭で聞いていた。頭痛の影響で視界に光が点滅し、思わず何度か(またた)いた目に、神官長の見事な巻角が入り、その横の、黒い鋼鉄の鎖で吊るされたひとの顔ほどの大きさの硝子のランプが入った。神殿には、いくつもの色も大きさも様々なランプが天井から吊るされている。少し視線を上に向けると、外光を色とりどりに染めるステンドグラスの(はま)った窓があり、その上は硝子と陶器のモザイクで彩られた高い天井がある。下に目を向ければ、幾何学模様が編み込まれた大層な絨毯が()いていある。己の穿()いている、結局調整が間に合わずに、少しきつい革靴を見て、圭介は再び視線を神官長に戻した。

その時、気付いた。

神官長のさらに向う。周りに比べると質素な深緑色のドレス。陶器のような白い肌、桜色に染まった頬、緑玉(エメラルド)のような輝きの大きな瞳、きっちりと結い上げた金色の豊かな髪、首元は金色の鱗の、金翅族。

たぐいまれな美少女だった。

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