百キロババアの勝手な言い分
皆さんよくご存じの、百キロババアです。誰ってあんた知らないの?百キロのスピードで走るババアだよ。そんな速さで走って何の意味があるのって、あんたそれじゃ私の存在意義がないだろ。
いわゆる都市伝説となったこの私、少し昔話に付き合ってもらうかね。あれは・・・ちょっとボケちゃって何年前か忘れたけど、百二十キロくらいで走れた頃の事だよ。
いつものように私は対戦相手を捜していたのさ。まぁでも夜だからね、しかも田舎町に居座っていたから人なんて滅多に来やしない。
なぜか私は百キロオーバーで走ることが出来たんだよ。自分でもよくわからないけど。あぁ今夜のターゲットが現れたわい。それじゃ信号を赤に変えようかねぇ。
「この時間って、たしか百キロババアが現れる時間じゃね?」
「マジで?会いたいんですけど〜」
青年二人で寂しく夜道をドライブですかい、可哀想だねぇ。よし、それじゃあ気分直しにレースとシャレ込むか!ちょうどスポーツカーに乗っていることだしね。でも私だってちょっとやそっとじゃ負けないよ!
「うわぁ!」
この驚いた声最高だねぇ。でも人の顔見て驚くとはどういう了見だ!
「ば、ババア!ババアだ!!」
ババアババアうるさいんだよ!ババアだからなんだってんだ!
「は、早く逃げろよ!」
「あ、足がすくんで動かねぇんだよ!」
まったくちょっと運転席を覗いたらこうだ。平常心を保たないと私には一生かかっても勝てやしないよ!
「アクセル踏めよ!オートマなんだから!」
「そ、そんな事言ったって!」
あんたさっき会いたいんですけど〜なんて言ってた割にすんごい脂汗を出してるねぇ。口だけの男なんてモテやしないよ!あ!あんたまだ赤信号じゃないか!フライングもいいところだよ!ちょっと待ちな!
「お、追いかけてくる〜!」
「バックミラー見るな!前だけ見てろ!」
「怖ぇ!怖ぇよ〜!」
「私の顔がそんなに怖いかぁ!」
「ひぃ!ババア!!」
「ババア言うな!この若造が!」
まだ百キロ出ていないじゃないか!これじゃ一時間走っても私には勝てないよ!そんなんならスポーツカーなんて乗らないで、軽トラに乗ってな!
「この格好だけのボンボンが!それじゃ車が可哀想だ!もっとスピード出ないのか!」
「怖ぇよ〜!」
「ま、前だけ見てろ!」
助手席の彼も真っ青な顔をしてるねぇ、青年という言葉がぴったりだよ。ってなぜ怯えてんだ!百キロババアに会えて光栄だろうが!
「百キロ出せぇ!私に勝ちたくないのかい!」
「ひ、ひぇ〜!」
おおアクセルベタ踏みしてるよ!ちっくしょうが!
「若造に負けるかぁ!」
百二十キロは出てるね!記録更新だよ!若造のお陰だ!ありゃりゃ若造だなんて言って悪かったね。
「そのまま逃げろ!」
「まだ追って来てるのか!?」
「まだ来てる!笑ってる!」
「なんで笑ってんだよ!ってかなんでババアなのに百キロ以上で走れんだよ!」
なんかもうパニックに陥ってるね。ババアなのにって、ババアじゃなくても百キロで走れるかい。しかもこれは笑ってるんじゃないんだよ!風で頬の肉がブレてんだよ!垂れてて悪かったなぁ!こんな尻の青い坊っちゃんに絶対負けたかないよ!
「もうムリだ!追いつかれる!」
「諦めんな!諦めたら殺されるぞ!」
「殺すかぁ!ボケェ!」
「うわぁ!」
「バカモン!ブレーキ踏めぇ!」
あ。
あっちゃー。ガードレールに激突しちゃったよ。
「うう」
「いってぇ・・・」
よし二人とも無事だね。まったく、こんな夜道でそんなスピード出すからこんなことになるんだよ。車の性能がいいだけなのに自分のドライビングテクニックと勘違いしてるんだねぇ、最近の若者はこれだから。
「ば、ババア・・・」
「ババア言うんじゃないよ!百キロババアと呼びな!」
「ひゃ、百キロばばあ・・・」
「・・・百二十キロババアと呼びな!」
読んでくださり、誠にありがとうございます。推理物を執筆していたのですが、突然この話が思い浮かび書きました。鼻で笑っていただけたら幸いです。