ACT.08
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このところ更新が滞っていてすみません。
今は忙しいのでなかなか更新出来ませんが、ゆっくりのんびり更新していくのでよろしくお願いします!
ACT.08
一昨日から、幾度となくメール受信と着信を繰り返す携帯。
『連絡がほしい』
ついさっき受信したメール。
さすがに昨日くらいから、返信しようと返信画面にするが、その度に止まる指。
まだ。
まだ、失いたくない。
結婚か夢を追うか。
七海の前には、その2つの道しかなくて、どちらも失いたくない。
どちらも七海にとっては大切だから。
だから、返信画面を電源ボタンを2回押して今回も閉じる。
未送信メールとして溜まっていく淳からのメールの返信メール。
すべての未送信メールは、空白のままだった。
「ずばり!恋わずらいでしょう!!」
「……はい?」
ブックカバーシートをかけていた七海に、女子高生がビシッと人差し指をさして断言する。
「とりあえず、言いたいことはたくさんあるけど、まず人を指さすのは止めておこうね?」
シート貼りの手を休めることなく、笑顔でいう七海に、女子高生は全く聞いてないように話し出す。
「今までから様子はおかしかったけど、一昨日から余計におかしい!
これは、川並先生が出張でいなくなってからだから、ずばり先生の悩みは川並先生への恋心!
受験勉強をそっちのけに、この2日間星村先生を見張った私に、間違いはない!!」
「いや、ちゃんと受験勉強しようよ?
この夏休みが勝負なんでしょ?受験生のために毎日図書室開けてるんだからね?国立の推薦とれそうなの?」
「……。
とにかくっ!川並先生とはどうなの?」
微妙な間があいたことはあえて聞かないでおこう。可哀想だ。
「どうもなにも、単に同僚。それ以上でも以下でもないよ」
そう。
ただそれだけの関係だ。透がよく図書室に来ているのも、独りじゃご飯を食べても味気ないし、職員室で食べると他の先生たちが仕事をしているところだから気を使うからだ。
お互い似たような時間帯に昼食をとれば、ゆっくりと食べることが出来る。そして、本好きの透にとっては、好きな本を借りられる時間だ。『図書室』とは、そういう都合のいい場所だ。
「先生……もしかして川並先生の気持ち、気がついてないの?」
「『好き』って言ってるのは、誰でも言ってるでしょ?
それに、みんな『大好き』なんて言いふらしている人の言葉をいちいち真に受けるほどウブじゃないからね」
はい、おしまい。と言って手を叩く七海に、女子高生は眉をしかめる。
「それ、川並先生の顔見ても言える?」
「言えるもなにも、本心だもん。
川並先生だってそのつもりだよ」
「……なんか、川並先生が可哀想になってきたぁ……」
「はいはいはいはい。
さ、勉強してきなさい?日本史で分からないところがあれば教えてあげるから」
「嬉しいけど、嬉しくなぁい―」
ブーブー不満を言いながらも席に戻っていく女子高生に、苦笑しながら続きの仕事を行う。
Gパンのポケットの中で、5回バイブが震えメールの受信をしたことを知らせる。
しかし、それに気が付かないフリをしたまま。
(結論を、出さなきゃ)
胸に小さな決意を秘めながら、返却された本を元の書架に片付けようとした、その時だった。
「……七海ちゃぁぁんっ!会いたかったわ―――!」
図書室のドアを勢いよく開けて大きな紙袋片手に図書室に入ってきて七海を抱きしめる。
言わずもがな、透だ。
「……図書室ではお静かに」
「………え、ちょ?七海ちゃん!?どうしたの!?いつもなら鳥肌全開で逃げるのにっ」
片手に持った本を落とさないようにガードしながらも、頬をすりよせてくる透に冷静に返事しながら冷静に本を戻していく。
「先生ー、星村先生ダメなんだー。
先生が出張に行った日からダメだから、恋わずらいかと思ったんだけど、木っ端微塵に否定されたしー」
「ぅおっ!?なかなかイタいことを言ってくれるじゃない……!
あたし、玉砕ってこと!?」
「あー、完全に男として見られてないね」
「まぁじぃ!?」
「……――図書室では、お静かにっ!!」
あまりに煩い2人に、透の腕の中で七海が叫ぶ。
他にも利用者はいるのだ。
その人たちの迷惑になることは赦されない。
たとえ、他の利用者が透たちのやりとりを見て楽しんでいたとしてもだ。
「でも、本気の話。どうしたの?いつもの七海ちゃんじゃないわよ?」
「………っ。大丈夫、だから」
真剣に顔を背後から覗き込まれ、一瞬動揺するが冷静に返事する。
しかし、その答えには返事せずに、透は七海を抱き上げる。
「――――!?」
途端に上がるキャー!という悲鳴に、思考停止した脳みそが活動を開始し、顔が真っ赤に染まる。
「ちょ、な、な……!」
「あんたたち、今日は本の貸し出しはナシよ!
星村先生、保健室に連れてくから後はよろしく!」
「何勝手なこと……!」
「川並先生、ついに保健室連れ込みか!?」
「ヤっちゃえ、ヤっちゃえ!」
「既成事実で結婚だ!」
「ちょ、待って!?何を勝手なことを言っ……て…」
くら、と視界が1回転して、思わず透の肩に頭をのせる。
「無茶するな。熱があんだよ……大人しくしとけ」
「……へ?」
「というわけで、後はよろしくな」
身体に力が入らなくなった七海を抱きかかえながら、透は笑って図書室を出て行った。
「……星村先生、大丈夫かな」
「……っていうか」
ぽつんと女子高生が呟いた言葉に、隣に座っていた男子高生が呟く。
「川並先生の男言葉、初めて聞いたな」
「あ」
「先生、本気かもな」
「……星村先生のこと?」
「噂なんだけどさ。どうして川並先生がオネェになったか知ってるか?」
男子高生が語った話に、女子高生は目を見開く。
秘密だぞ?と笑う男子高生に、勢いよく首を振って応えた。
……全く、ロマンチストな人だ、と苦笑しながら。