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act.04



ACT.04




4現目終了30分前。

そろそろ、いつものヤツがやってくる、はず。


たまに来ない時もあるが、それでも高確率でこの時間に弁当を持って図書室か隣にある司書控え室に顔を出す。


結局、昨日は寝られなかった。

これからの自分の将来を考えたら不安すぎて眠れなくて。

バッチリ化粧で寝不足は隠したけど、それでも体力的にあのテンションで来られると今日はキツい。


まぁ、大丈夫、大丈夫。

そろそろ2週間。ある程度は免疫もついた。

さぁ、どんとこい。オカマ野郎!


無意味に早鐘を打つ心臓を宥めるように七海は深呼吸をする。

が、微かに震える指先は隠しきれない。


ガラガラッ!


「なっなみちゃぁーん!!

一緒にご飯た・べ・ま・しょ――!」


「ひぃやぁああ――!!

やっぱ無理ぃい−−!」


思わず立ち上がってカウンターの下に隠れて、一瞬にして鳥肌全開、激しく寒気がする自分の身を抱きしめる。


「うーん、いい反応。嫌がる顔もかーわいぃー」


「寄るなっ、近づくなっ、立ち去れ悪魔っ!」


ニヤニヤしながらカウンターの下を覗き込み、涙目になっている七海に更にオネェ言葉で話しかけいる透の背後に悪魔の翼が見えるのは気のせいだろうか?


初めは失神しそうになっていたのに、今は言い返すだけ免疫が出来てきた。

透に慣れてきて、これだけ素直に反応出来るようになったのだが、その反応が見たい透にとっては逆効果しかないことを、まだ七海はあまり気がついていない。


「ほらほら、また先生たちが誤解するわよ?

あたし、七海ちゃんをイジメてないのにぃ」


「どっこっがっ!!

何だってわざわざオネェモードで話しかけるんですか!?」


「いやぁーね?そんなの、七海ちゃんが可愛すぎるからでしょ?

嫌がる七海ちゃんを、もっとなかせたくなっちゃう」


カウンターに肘をついて、キラキラと輝く瞳を楽しげに細める透。


そう。

あれから透はしょっちゅう七海をからかいに来ていた。

一番多いのは、この昼休みの30分前。一緒にご飯を食べようと日参されているが、いつも図書室に入ってくるときはオネェモードで、からかうことを楽しみにしている。


初めこそは、七海の悲鳴にビックリして隣の教室から先生と生徒がとんできたが。


ついでに、透が七海を抱きしめていたから、当然のように閉められたドアに誤解ですっ、と七海の叫び声が重なった。


恐る恐るドアが開けられ、顔を出す先生と生徒たち。

何とか透の腕から抜け出そうとしている七海に、犬のようにスリスリと髪の毛に頬を擦り付けながら透は笑った。


『誤解ですよ、先生?

星村先生、オネェキャラが苦手なんでスキンシップをして愛を育んでいるんですよぉ』


にーっこり微笑みながら告げた内容に、七海は口をパクパクさせるしか出来なかった。


『でも、川並先生?星村先生も怯えてるし……』


『そこが星村先生の可愛いところじゃないですか。

この困った表情なんて、もう食べちゃいたいっ』


『ひぃ――!?や、止めてくださいー!』


『………星村先生、頑張って』


『へ、ちょ、ちょっと!?』


にっこり笑うと、教室に帰って行く先生と生徒たちに、助けを求めた手は宙に浮いたまま。

透が爆笑する声が、図書室に響いた。


2人がじゃれあっているところは男女の様子に見えないこともあって、『友情』を育むための通過点なんだと理解されてしまった。


そして、最大の要因。

……七海をいじると面白い。


そう言われてしまえば、誰もが納得するしかなかった。

素直すぎる反応をしてくれる七海は、ある意味天然記念物だ。


これが、普通の『男性』なら、もっと違ったことになったかもしれない。

しかし、透は《オネェキャラ》だ。


幸か不幸か。

七海にとっては間違いなく不幸だが。


毎日のように昼休み30分前に悲鳴があがっても、「またか」で済まされるようになった。


割と大らかな校風の、この高校。

ちょっとやそっとじゃ、騒がれない。何て言ったって、保健医にオネェがいるくらいだ。耐性は十分にある。


(だからと言って、誰か助けてくれたらいいのに……!)


直前までの強気はどこへやら。

ぐったりとカウンターの下の壁に頭を預ける七海に、透はご機嫌でカウンターの中に入ってきて七海の腕をとる。


「はー、今日もイイ反応ありがとな」


「……ドーイタシマシテ」


気が済んだのか、透に腕を引かれ立ち上がる。

あぁもう。本当に疲れる。


「明日はどんなパターンで責めよっかな?大人の女性版色気モード、試してみるか?」


「……鼻血でるので止めてください」


多少げんなりしながら真顔で呟けば、またツボに入ったのか笑い出す透。

何が面白いか分からなくてむくれる七海に、暖かい手のひらが頭に落ちてくる。


「弁当、食うか」


「……うんっ」


柔らかい微笑みに、また心臓が高鳴る。

オネェキャラが自然と出来るくらい中性的で綺麗な顔立ちの透の《男モード》は心臓に悪い。


「……なぁ、七海ちゃん」


「ん?っていうか、あたしたち一応この学校の『先生』なんだよ?いつも言うけど、ちゃん付けは…」


「七海ちゃん、どうした?寝不足か?目が充血してるぞ」


すっと頬に手を当てて、上を向かせた透に、七海は視線を反らす。


言えない。

プロポーズされて、悩んでたなんて。


「や……あの。ゲームが止まらなくて」


視線を反らしながら言ったって、信じられないのは十分承知しているが。それでも、言えなかった。


まだ、自分ですら分からない気持ちを打ち明けることなんて出来ない。


「……ま、いいけど」


ポンとのせられた手のひらは大きくて。


「相談くらい、いつでものるからな」


いくら、オネェキャラのままだったら女性のように見えなくはない透も。


《男性》なのだと。


「……ありがとう」


「どういたしまして」


くすぐったいような、胸の奥で。

忘れてしまいがちな、そのことを反芻していた。


淳。

すぐそばで、体温を感じられたら、こんなにも迷わないのだろうか?

離れて、仕事をしているから結婚の決断がつかないのか。


知らず知らずのうちに小さくため息をついた七海に、透は目を細め、そして七海の肩を抱く。


「川並先生?」


「弁当、食おうぜっ!俺、腹減ってるんだよ」


「……うん、そうだね」


柔らかく微笑んだ七海に、透も微笑む。


望むと望まないと、時間は過ぎていく。

結論を出す時期も、同時に迫ってきているということ。


(あたしは、どうしたいんだろう?)


自分の本心が見えなくて、無意識のうちにため息をつく。


透が、どんな目で見ていたか。

気がつかないまま。





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