ACT.24
ACT.24
他の教室と同じ扉なのに、どうしてこんなに重厚な雰囲気が漂っているのだろう?
いや、きっと。
そう感じるのは、七海の心理状態なのだ、と。
コンコン、とノックすれば、一拍おいて、はい?と返事されて一つ息をつく。
「失礼します」
「おや、星村先生?どうしたんですか?」
老眼鏡を外しながら、穏やかに向けられた視線に七海は視線を逸らす。
「……あの。少しご相談したいことがありまして」
小さく頷くと、校長はソファーをすすめ、お辞儀をして座る。
「それで、相談とは?」
もうすぐ定年間近の校長は、ゆっくりと微笑み自身もソファーに座って両手を組んだ。
大分薄くなった髪の毛は、丁寧にセットされている。奥さんが毎日アイロンをかけてくれるというカッターシャツは、綺麗に筋がついていて校長をスッキリと見せている。
そんな校長に穏やかに見つめられ、七海は口を開く。
「……春雪高校の件ですが」
頷くと、目を細めた。
「……もしかして」
「はい」
「それは、……川並先生に関係がありますか?」
「いえ、それは……」
「付き合うことになって、気兼ねしたんですか?」
穏やかに発せられた言葉に、思わず首を振りかけてふと我に返る。
「……校長先生?」
「はい?」
「あの、川並先生とのこと……」
小さく笑う校長に、七海は冷や汗がでるような、真っ赤になるような不思議な感覚におちいった。
まさか、誰にも話してないのに……?
「昔から、感がいいんですよ。特に人の色恋にはね。
ほら、職員室で先生たちが賭けをよくしてるのを、星村先生も知ってますよね?
僕も参加して、おこずかいを稼いでたんですよ?」
「へっ!?」
いやぁ、いい金額になりました。とホクホクと笑顔で話す校長に、七海は何も言えずに口をパクパクさせる。
「それで、毎日二人の様子を見守ってたんですよ?
他の先生たちは気が付いてないですが、徐々に星村先生がおちていくのは見ていて楽しかったなぁ」
「…………」
仮にも校長が賭け事に参加していていいのかとか。
ツッコミ所は多々あったが、何よりも透がオネェキャラで勤務しているのを笑って許可する校長だ。
そこらへんのことを忘れていた……と頭を内心かかえた。
「今のところ、星村先生も今までの態度を変えようとしていないですし。
生徒たちのことも考えてくれているみたいですから、仕事さえ励んでくれたら二人が何をしていようとも、僕が口を出すことじゃないですしね」
「はぁ……」
「春雪高校も、大変なのは分かりますが」
今まで笑っていた校長の目元が、すっと細くなる。
「星村先生は、この高校にとって大切な図書館司書ですから。
大切な仲間ですからね。
僕のワガママとしては、あまりオッケーしたくないのが本音です」
「……校長」
あぁ。
なんて、自分は。
「ありがとうございます……そんな風に言っていただけて。
でも」
なんて、幸せ者なんだろう?
「これから、準備でたくさんご迷惑をおかけすると思います。
4月まで、半年をきっていましから余計に。
でも、こんなチャンス……もう絶対にないですから」
「……」
穏やかに微笑む七海をみて、校長は一つため息をつく。
まるで、そう言うことは予測していたというふうに。
「無茶だけはしないようにしてくださいね?」
「……はい!それでは、失礼します」
「はい、ちゃんと伝えておきますので」
一つ礼をして、校長室を出て行く七海の後ろ姿を見守り、校長は苦笑した。
さて。
これからおこずかいは稼げなくなるな、と。
新年、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
前回の更新から大分たってしまったこと、本当にすみません!
クライマックスに近づいてきましたので、少しずつでも更新していきたいなと思っています。
これからもよろしくお願いします。