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ACT.22


最近、更新が滞っていてすみません。

仕事が忙しいため、もう少しスローペースが続きますが、よろしくお願いします。


トップページでもお知らせしたとおり、感想でのご指摘がありましたが『保健の先生』を『保健医』と勘違いしていました。そのため、act.21までは川並透の職業を『保健医』としていましたが、act.22からは『保健の先生』と表記を改めさせていただきます。誤解を招くような書き方で申し訳ありませんでした。






ACT.22




泣いて泣いて。

それでも思うのは、自分より淳の方が傷ついているという気持ち。


泣くわけに、いかない。


そう思うのに、涙はつきなくて。

気が付いたら、朝になっていた。


「…………はぁ」


セミの声が煩い。いつもは煩いとしか思わないのに、今日は殺意すら抱くのは、やっぱり気持ちの問題だろうか?


びしょびしょになった枕。泣きすぎて疲れた身体に鞭打って、ベッドから起き上がる。

今日は土曜日で休み。それでも、家にいたくない。


何もせずにいたら、淳のことを思い出してしまうから。


のろのろと服を着替え、家を出て電車に乗る。

いつもより空いている車内は、どこかに旅行をするような家族連れに遊びに行くような若い人だけしかいなくて、通勤のような重い雰囲気ではなく、どこか明るい雰囲気が漂う。


それが、なんだかやるせなくて、七海は小さくため息をついて瞳を閉じた。


どうせ、当てもなく揺られている電車だ。

どこに行くという目的地もない。

寝てしまって、終点まで行ってしまうのもいいかもしれない……。


「……七海ちゃん?」


ハッと目をあけると、目の前に男性が立っていた。

よく見る白衣でない。

黒いTシャツに、ジーンズのラフな格好の。


「……あ」


「偶然だね。どこかに行くの?」


くしゃ、と笑顔になった透に、七海は視線を外す。


「七海ちゃん?」


やめて。

今は、声をかけないで。


流されて、しまう。

抱きしめて、泣かせてほしくなってしまう。


「あ、あたし……手を洗ってくる」


「七海!?」


「――っ、放して!」


立ち上がった七海の肩を掴む透。

しかし、その透の手を振り払い七海は連結部分に向かって走り出した。


「ななみっ」


気圧の関係で微かに重くなっているドアを開けて閉めると、また走って電車の後部車両に向かう。

走っていく七海に、親子連れなどは目を丸くしていたが、そんなことにかまっていられない。


会いたくなかった。

少なくとも、淳を傷つけた翌日に。


どんどん少なくなる乗客。

堪えている涙が零れそうになり、唇を噛む。


やっと最後の車両の連結部分のドアを開けて、そしてトイレのドアを開けようとする。が。


(……何だって使用中……)


こんな利用客が少ない時間帯なのに、なんだって使用中なんだか。

息切れを止めるために、肩で息をしながら車両を見ると見事に誰もいない。


こつ、こつ。


微かに、七海の歩く音が響く。

そして、一番奥のドアの横の床にしゃがみ込むと、ゆっくり涙を流した。この位置なら、透に見つからない。連結部分からは死角だし、トイレは使用中だ。


あたしが泣くのは、筋違いだって分かっている。

だけど。


あんな風に淳の心を吐露されたあとで、すぐに好きな人と会うことは出来ない。


「……みーつけた」


ぽん、と頭に手を乗せられ、見上げてみれば、微かに笑う透の姿。


「…え、…どうして」


「七海が走っていく前から、トイレは使用中。だったら、どこかに隠れている可能性が高い。

見つけるのは、簡単だ」


「…………」


あたしのバカ。

こんなことなら、意地でも泣くのを止めて、次の駅まで当たり障りのない対応をしてた方が良かったかも。


「……別れたのか?」


再び俯いた七海に、透が静かに問いかける。

微かに頷いた七海に、しゃがみ込む透。


「……ごめん、イヤな思いをさせた」


首を振った七海に、透はゆっくりと七海の髪の毛を撫でる。


「泣いたら、いい。気が済むまで。

……ずっと、付き合ってたんだ」


暖かな手のひら。じわりと盛り上がる涙を、腕に押し付ける。


「ごめん、な」


そっと頭から手を放して、立ち上がろうとする透のTシャツを掴んだのは、半ば無意識だった。


「……七海」


長い間、付き合ってた。

その大事な人の手を振り切って、求めた手は別の人。


「……ないで……」


もう、二度と手を繋げないことを覚悟して。

そして、伸ばした手。


「放さないで……っ!」


別れた次の日に、求めた手を繋ぐことに抵抗があった。

でも。

もう、繋げないのは嫌だ。

それくらいなら、恥もプライドも投げ捨てて。誰になんと思われようが、あたしが求めたのは、この人だから。


「……っ」


Tシャツを掴んだ手を握られて、座席の壁に身体を押し付けられ。


唇に、熱い熱がふってくる。


放さないで。

もう、放さないから。


力を入れて握られる手に、応えるように透の背中に腕を回す。


「……好き。大好きになってた」


涙を流しながら、透を見つめ呟く七海に、透が涙を堪えるように眉を寄せながら七海の頬を伝う涙に口付ける。


「俺も。ずっと。ずっと前から、七海を」


たくさんの涙を流してきた七海。

もう、泣かせない。

泣いたとしても、独りで泣かせない。


「愛してる……」


再び重なった唇。

今度こそ、誰にも遠慮せずに。


悲しみも。

苦しみも。


独りで抱え込まずに、二人で。


『幸せになれ』


淳の言葉が、よみがえる。


(幸せに、なる)


(ありがとう……さようなら)





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