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ACT.01



ACT.01



昼休みの始まる5分前。弁当箱を片付けて、静かにオルゴールのCDをかけて、そしてカウンターに座りスリープモードだったパソコンを起動する。


オルゴールのCDと、ピッとバーコードを読み込む機械音と、カタカタいうパソコンのキーボードと、本をめくる音しかしない静かな空間に授業終了のチャイムが響いた時。


「星村せんせー!頼んでいた本、入ったー!?」


「まだー!残念でした」


駆け込むように図書室に入ってきた数人の生徒に、小さく苦笑した七海。

そんな七海に、えー!?っとむくれる女子高生。


「本屋さんが、北川(きたがわ)さんの注文した本は明後日になるって言ってたよ?」


「ちぇー。もう入ったかと思ったのにー」


「しょうがないじゃん、北川が先生に頼んだのも一昨日でしょ?

そんなにすぐにこないって」


「だって、すごく続きが気になるし!

なんだって途中で途切れてるのかなぁ」


むくれる北川に友達が苦笑する。


「入ったらすぐに連絡するからね?」


「ん!ありがとーございますっ!

じゃ、あたしたち購買に行ってきます」


「いってらっしゃい」


笑顔で出て行った生徒たちを見送って少しすれば、何人か図書室に入室してきて七海と雑談したり、本を読んだり、勉強したりする。


七海がこの高校に転勤してきて、3カ月。

図書館司書の講師として、2箇所目の高校だ。

初めは無機質だった図書室を、オススメ図書のコーナーを作ったり、オルゴールのCDをかけたり、小物を置いたりして暖かみのある図書室に変えていったせいか、徐々に入室者数は増えていった。


初めは軽いライトノベルしか借りていなかった子が、ハードカバーの本を読み始めたり、本好きの友達に連れられて本は読まなくても図書室に来ることが多くなった子もいる。


そういったことを嬉しく思うと同時に、少々頭が痛いのは予算のことだ。

元々、図書室利用者数が少なかった高校で、予算は少ない。

利用者数が増えて嬉しいことは嬉しいが、それと同時に予約本が増えたのも事実。

新刊が読みたい、既刊の続編が読みたい……。出来る限りの要望には応えたいが、予算の枠がある。

校長に直談判しているが、追加予算が貰えるかは怪しいところだ。


「先生ー?このシリーズの番外編ってありますか?」


「あぁ、これ?あるけど、今は貸し出し中だね。

予約しとく?返却されたら連絡するから」


「あー、そうしよっかな」


図書予約の紙を書いている生徒の横で、七海はパソコンに予約リストとして打ち込む。


「お願いしまーす」


「はい、また連絡するね」


昼休み終了の予鈴が鳴り、生徒たちに貸し出し作業をしたりするうちに本鈴がなり、一気に図書室は静けさを取り戻す。


かけていたオルゴールCDを消すと、ブックカバーを取り出し新しく届いた本にかけていく。


「っ…いった…」


本のページをめくる時に指を切ってしまい眉をしかめる。


案外深く切ってしまったようで血が盛り上がってくるのをみて、思わずため息をついてしまう。

あぁ、ついてない。


立ち上がり、隣にある司書控え室に行きカバンからポーチを取り出し絆創膏を貼ろうとする。

が。


「……うそ」


ポーチにいつも入れておいた絆創膏。

一昨日に使い切って、補充するのを忘れていたことを思い出し、思わず青ざめる。


たらり、と流れる血を慌ててティッシュで拭いて、半泣きになる。


どうしよう。

パックリ切れたこの指じゃあ、仕事が出来ない。

パソコンを打つにしても、カバーかけにしても、指を使う仕事ばかりだから。


絆創膏、貼らないと。


よく本で指を切ってしまう七海は、普段から絆創膏を持ち歩いていた。

それというのも、保健室に行きたくないから。

もっと言うと。


……川並透が、苦手だから。


ダメなのだ。生理的に。

同じ職場で、同僚だから仲良く、とまではいかなくても普段付き合いくらいはきちんとしておきたいのに、それが出来ない。


でも。


(……苦手なものは苦手なのよっ!!)


少しの間ティッシュで止血していたが、動かすとすぐに出血する指に諦め、意を決して保健室を訪れ、そしてさっきのような状況になってしまった。


戻れるなら今朝に戻って、絆創膏を補充しておかなかった自分に渇をいれたい。


とはいえ、時が戻せるなんてこと出来るわけがなく。


何の変哲のないパイプ椅子に座らされ、七海は遠くを見ていた。


……あぁ、ついてない。





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