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ACT.18




ACT.18




繋がらない電話に、ため息を落として終話ボタンを押す。


透と昼ご飯を食べて、お互い仕事に戻ったが七海の胸には淳への決別をしなければいけないという重苦しさがあった。


本当なら、淳と綺麗に別れてから透に気持ちを伝えるべきだったが、透への思いを気が付いたと同時に伝えてしまったから順序が逆になってしまった。


仕方なく、会って話がしたいとメールをしたが、いつ返事がくるか分からない。

ため息は、誰もいない図書室に吸い込まれていった。


携帯をそっとポケットに入れる。


返事が来て欲しい。でも来て欲しくない。


淳を傷つけるのは、間違いないから。


そっと、本を書庫から取り出す。チェックをして、書庫に戻す。


……それでも、あたしは透と一緒にいたいから。


そう思っていても、ため息が止まらない。


ヴー、ヴー……。


メールの受信を告げる、5回震えるバイブ。

携帯を開ければ、淳からのメールを受信したことが表示してある。


『22時くらいに電話する』


了解と返事して、携帯を握りしめて膝を抱える。

ちゃんと、話さなきゃ。


ズキズキと痛む胸。

そんなのは、あたしのワガママだから。


だから、我慢しないと。



「七海」


「……なんで?」


結局、仕事の能率があがらなくて残業して日も暮れて真っ暗になってから電車で帰宅するはめになった七海が、最寄り駅の改札で待っていた人物に目を丸くした。


付き合っているのがバレると色々マズいから、今まで通り一緒に帰らないようにしよう、と話したのが日中で。

だから、いつも通り早々と退勤した透がいることが信じられなかった。


透の最寄り駅は七海の駅と反対側だから、わざわざこっちに来たことになる。

疑問を浮かべる七海に、透は歩いてきて手を取る。


「川並先生!?どうして……」


「『透』だろ?」


優しく握りしめられた手に。

前を歩く背中に。


「……透のバカ」


なんだか泣きたいくらい安心したことなんか、内緒だ。


「バカって、ヒドいだろ」


苦笑する透の手のひらを握る。暖かい手のひらに、無性に涙が溢れてきそうになる。


「気になってたんだ、帰るとき声をかけようとしたら何か考えこんでいたから。彼氏のことを考えてたんじゃないかって」


駅前通りを一筋外れれば、街灯がついているだけの住宅街。どこからか兄弟喧嘩をする声に叱る母親の声が聞こえてくる。

それだけの静かな道路を、二人はしっかりと手を繋いで歩いた。

住宅街の一角の空き地に、公園とも言えない、ベンチだけが置いてある一角があった。

そこに座って、透は口を開く。


「……七海」


「今日、夜に電話がくるの。そこで会う約束する」


「………。

無理するなよ」


一瞬の沈黙の後、呟かれるように言われた言葉に思わず胸が痛くなる。


「……どういう、意味?」


そんなつもりは、ないことは分かっている。それでも。


「無理するなよって、別れなくてもいいこと?」


「そんなんじゃ」


「二股になっていいんだ」


イヤだ。こんなグチャグチャした、醜い自分が。

いつもなら。淳なら、我慢出来ていたのに。

どうして、こんな言葉を言ってしまうんだろう?


「七海」


「じゃあ、電話するの止める。連絡つかないまま、自然消滅にしちゃうから、淳とは。

ね、透。このままデートしよ。明日は休みだもん、オールしようよ」


胸の苛立ちを振り切るように明るい声をだして、透の手をとり立ち上がろうとした。


が。


「はいはい、落ち着けって」


逆にその手を引かれて、もう一度ベンチに座らされて両腕で身体を抱きしめられた。


「ちょ……!」


「ごめん」


七海の頭に、透が頭を置き瞳を閉じる。


「俺、ガキだから。恋愛経験値低いし。

だから、どう言えばいいか分からないんだけど」


真夏の暑い夜。不快なはずの暑さが、透の体温につつまれているというだけで離れたくないと感じてしまうから不思議だ。


「七海を、早く自分だけのものにしたい。けど、そんなに泣きそうな顔をされるのはイヤなんだ」


「…………ごめん」


何とか頑張っていた涙腺が緩む。何故だろう、なんでこんなことくらいで泣くのだろう?


「……何か、悔しかったんだ。

透が、気を使ってくれたのも分かるけど。でも、あたしのことそんなに好きじゃないのかなって」


「今まであんなにアピールしてたのに?」


「オネェマンのアピールは信用出来なかったもん」


ひでぇな、と笑う透。何だか機嫌がいいような気がするのは、気のせいだろうか?


「とりあえず、別れて……そして、ちゃんとした彼女になってくだサイ」


「……本当にあたしでいいの?

今まで、ちゃんと我慢出来てたのにワガママになっちゃってるし、感情的になっちゃってるし」


「あのな?七海は顔に出やすいの、分かってるだろ?

こっそり彼氏からのメール見て、泣きそうな顔になってるの、知ってるんだからな」


「……う」


「それに、俺にはそうやって不安だってことや心配なことを言ってくれる方が嬉しい。

腹に貯めたまま、表情に出ていたら逆に心配するだろ?」


「……ごもっともデス」


「それに、七海が自分を出せないようじゃ、これから辛いだろ?色々話して、ケンカして、分かり合っていけばいいだから。

……先は長いしな」


さり気なく、ずっと一緒にいようということを伝えた、が。


「そうだね、まだまだ時間はあるんだもん。ゆっくりお互い理解するのも大事だよね……」


はにかんで笑う七海に、透の意図は伝わることなく。


「……本当に、先は長いな」


……急に人は変わる訳じゃない。そのことを痛感した透だった。




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