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ACT.15




ACT.15




「で、どうしたいの?」


「どーしたいか分からないから、相談してるんでしょー!?明子《あきこ》のイジワルー!!」


うわーんっ、と泣き出し明子に抱きついた七海に、明子はため息をつきながら七海を引き剥がした。


うわ。涙つけられた。あ、ファンデも。


白いカットソーにファンデのあとは目立つ。正直げんなりしたが、七海から急に電話があって急に会いたいと言われたときから、こうなることは多少予測していたから、想定内だ。

だから、店でなくて明子のアパートで会うようにしたのだ。


普段、プライベートなことは誰にも頼ることをせずに自分だけで抱えてしまう七海が相談したいなんて、相当煮詰まっている証拠だから。

一旦、感情が爆発したら止めても止めきれないくらい泣く七海。そうなれば、店に居づらい。

そして、それは正解だったと思う。

七海から打ち明けられた話の内容に、明子も頭がついていかない。


彼氏にプロポーズされたけど東京に行かなきゃいけないから、すぐには行けないと断った。

うん、これは分かる。というか、すぐに一緒に行こうという彼氏の神経が分からない。というか、普段は彼女をほっておくのにそんなことを言うなんて……。別れればいいのに。

……あ、つい本音がもれた。


んで?同じ高校の保健医に気に入られて?

でもって、オカマ……じゃなくて七海の嫌いなオネェキャラの美形男子で。

美形男子はいいが、高校でオネェキャラの先生がいてもいいのか疑問だが、その疑問を口に出せば「いるんだからしょうがないでしょ!?」と逆ギレされた。

うん、逆ギレしたい気持ちも分かるが。


オネェはキャラで、本当は『男性』で。

二人の時は男性と接してくれて、んで、告白っぽいことを言われた、と。


「七海、あんた、襲われたんでしょ?」


「―――はぁ!?」


一瞬の間をおいて、七海が大声をあげる。

眉をしかめて、ため息をつく。これは、図星だな。


「あんたほどのニブチンが、告白っぽいことを言われたくらいじゃ、『恋愛』として受け取らない。むしろ、恋愛として受け取ることを拒否する。

少なくとも、仲がよかったんでしょ?関係を壊すことを、無意識にも選択しない。

襲われたとまではいかなくても、ちゅーくらいされたんでしょ?」


「………………」


真っ赤な顔で口をパクパクさせる七海に、ため息をつく。


図星か。


でも。


「それなら、話は早いね。七海は、どうしたい?」


半泣きでまっすぐに自分を見つめる七海に、明子は問いかける。


「淳くんのこと、大切なんでしょ?」


「……うん」


「その、オネェ野郎のことも、正直に言えば好きなんでしょ?」


七海は瞳を微かに伏せて、黙り込む。そして、ポツリと呟く。


「………分からない。でも、すごく安心する。年下なんだけど、見守っていてくれる感じで。

好き、なのか……分からない」


「そう。じゃあ、質問を変えるわね」


少し七海が落ち着いてきたのを見計らって、明子は問いかける。


「……七海は、淳くんとエッチできる?」


「っ」


「真面目な話よ?今まで、そういう関係じゃないとかいうことはないと思うけど。

結婚するっていうことは、自然な流れで子どもが出来ることを意味するんだからね」


「…………」


考えないわけじゃなかった。

淳の子どもを産む。

好きな人の子どもを生むのだから、幸せに決まっている。


……のに。


昨夜のことが、頭にちらつく。

キスされようとして、逃げてしまった自分。


そして、今日の昼間、透のキスを受け入れた自分。


深く、深く重ねられた唇。

欲しかった。

初めて、その先を欲しがっている自分がいることを知った。


淳とのときは、なるべくそういう雰囲気にならないように気をつけて、そして、なってしまったときは早く終わることを祈っていた。


身体から力を抜くことが出来なくて、大丈夫、と言いながらコトを進めていく淳に止めて、と言いたかった。


関係を持ち出したのはお互いが少しずつ忙しくなってきてからだから、何年も付き合ってきた恋人としては、回数は少ない。

それでも、回数を重ねても初めての時の恐怖が蘇って怖くて仕方なかった。


それなのに。

このまま、ここで身体を重ねてもいいと思ってしまった自分が信じられなくて。


深く深く、吐息すら奪われるキス。このまま一つになれたらと思ってしまった自分に、戸惑ってしまって。


それでも、内心とは裏腹に透の腕を掴んでしまったのは、何故だろうか?


『……ごめん』


唐突に我に返った透に、唇を離されて七海も我に返った。


『…………』


何も言えなくて俯く七海に、透は七海の頭をくしゃっと撫でて、笑う。――どこか苦しそうに。


『……今日は、保健室に帰るから』


頷いた七海に、もう一度、ごめん、と呟いた透は静かに図書室を出て行く。


『……ふっ……ぅ……』


椅子に座って、溢れてきた涙を拭う。何故溢れてくる涙か分からないまま。


口元を両手で覆いながら、昼休みになるまで泣き続けた。



「………分かってるんでしょ?」


泣きそうになりながら黙り込む七海に、明子は微笑む。


自分の気持ちを素直に表情に出してしまうのに、一番大事な感情を自分ですら理解出来ない鈍い七海。

短大で友達になってから、そんな七海が心配でならなかった。


だけど。


それでも、七海は素直だ。

自分の心には、いつでも素直でいるから。


「私には、七海の深層心理は分からないよ。それは七海じゃなきゃ、分からないから」


もう、七海の心は答えを出している。


「よく考えて。自分とよく向き合ってみて。

……答えは、きっと見つかるから」





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