おにぎりは明太マヨ
この頃家に知らない未成年が住みついている。実に犯罪チックな字面だが世間に断っておきたい。これは拉致でも誘拐でもなく、言うなれば保護であり、危険に晒されているのはむしろわたしの方なのだと。
「うわっ」
家に帰ると玄関に例の未成年が転がっていた。ひどく気だるそうに瞼を持ち上げ、すぐ下ろした。二度寝すんな。
「おきてよ、家に入れない」
「跨ぐなり飛び越えるなりしろよ」
「きみがどいてよ」
トータルの労力は絶対そっちの方が少ないと思うんだけどな。ちょっと寝返り打つだけだし。
やたらと縦に長いこの人間はとにかく場所を取る。そんな人を乗り越えていけるほどわたしの足は長くない。踏むよ、たぶん。
「いま何時」
何回か抗議の意を込めてつま先でつつくと諦めたように立ち上がった。しぬほどかったるそうだな。
「4時52分。AM」
「あー、どうりで。腹減った」
彼は寝床に直行するかと思いきや台所に入っていく。冷蔵庫を開ける音。自由人だ。
「なんもねぇじゃん」
「きみが食べ尽くしたんだよ」
ほんと成長期の胃袋って恐ろしい。消えていった冷蔵庫の中身に思いを馳せながらも眠くて、服も着替えずにソファに飛び込む。
「おまえは食欲より睡眠欲だな」
「うん、ほんと眠い。おやすみなさい」
「コンビニ行ってこい」
「話聞いてた?」
外寒いからめんどくせぇんだよとごねる食欲の権化。君がそんなんならわたしは睡眠欲のばけものだ。意地でも寝てやる。
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何にしようかな。赤だしがよかったけどここのコンビニにはないみたいだ。わかめのでいいや。
おにぎりとカップ味噌汁を持ってレジに足を向けると横から伸びてきた手に掻っ攫われた。未成年に奢られてしまった。
「社会人なのに……」
「あとで10倍にして返してもらうからいい」
「こわ」
これは脅しではなく、実際あとでなにか要求されることが経験からわかっている。またパシリかな、いやだな。
「透利くん」
呼びかければ、半歩前を歩いていた彼が視線だけこちらに寄越す。うーん、見返り美人。
松永透利くん。まだ未成年の彼が、どうやってお金を稼いできているのか。なんでこの家に来て、何を思ってわたしと関わっているのか。
17歳になったばかりだという彼の顔は、なるほど体格ほどは大人びていない。擦れた表情の作り方でわかりにくいが、幼げな輪郭と顔のパーツ。
「次はむこうのコンビニ行こう。赤だし置いてるから」
彼について、それらの疑問の答えは気にならない訳じゃない。だけど進んで聞きたいものでもない。もしかしたら私はとんでもないことをやらかしている最中なのかもしれないし、人道的な行いをしているのかも。まぁ、どっちでもいい。
歩いていたら眠気が覚めて確かにお腹がすいてきた。早く帰って食べようか。




