フルーツティー
喫茶店内で少女は一つため息を吐く。まだ仕事中であり、接客業の彼女のため息に喫茶店内のマスターは一つ咳払いをする。その咳払いに彼女は慌てて口を抑え背筋を伸ばす。ちょうどその時扉の開く音がして、誰かが入ってきた。切り替えた彼女は笑顔を浮かべてそちらに行けば、そこには彼女の知り合いである女性が居た。
お客である女性はフルーツティーを頼むと窓際の席に座ってその香りを楽しむ。静かな店内はその香りを楽しむには充分な役割を果たしていた。しとしとと、窓の外からは小雨の音が聞こえている。
「今日は晴れるって言ってたけど、予報はあまり当てにならないわね」
残念そうに肘を付いて彼女は言う。
「折角の抽選日なのに……」
ため息を吐いてから女性はティーカップに入ったフルーツティーを飲む。ポッドの中には沢山の果物が入っており、それは目にも楽しい。小雨の日にはちょうどいい一杯だろう。女性が紅茶を楽しんでいると、パタパタと走ってくる人が居た。
「おまたせ!」
「大丈夫よ。お仕事お疲れ様」
女性の言葉にその人は笑顔を浮かべる。それは仕事を終えた店員の少女だった。
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「フルーツティーおいしい!初めて飲んだ!」
「喫茶店の店員なのに?」
「え、えへへ……店員だけど全部飲めてないよ~!」
誤魔化したように笑う少女に女性は微笑んだ。その微笑みは一枚の絵画のようで、多くの人がその笑顔を見るために行列を作るだろう。少女もその笑顔に一瞬顔を赤くするが、慣れているのか、顔をぶんぶん横に振る。
「もう。微笑みが本当に素敵なんだから…また変な人たちが来てない?」
「えぇ、大丈夫よ。心配性ね」
「それは心配するよ!だって大切な友達だもん」
「……ありがとう。貴方だけよ」
「そんなことないでしょ!私は貴方が大好き!私以外の人だってみんな心配するよ。オーラも大きいし、美人だし、頭いいし……そうじゃなくてもなにかあったら心配するのは当然だと思うんだけど……」
疑問符を浮かべながら少女もフルーツティーを飲む。机に置かれた二つのポッド。片方はほとんど終わっており、少女の方はさっき頼んだばかりなのだろう。まだたくさん残っており、ポッドの中で果物がゆらゆらと浮かんでいた。
少女の様子に女性は慈しみを帯びた顔を浮かべていた。その瞳は一瞬伏せられたかと思ったが、再び少女のほうに向けられる。
「そういえば今日は抽選発表の日でしょ?これからなのかしら」
「え、う、うん。この後当たった人に電話が来るはずだよ」
「そう。……どうしてそんなに浮かない顔をしているの?当たるかもしれないのに」
女性の言葉に少女は浮かない顔を上げる。そこには自信のなさが、道を前にして迷子になっているような顔だった。
「当たってもないのに、当たるのかなって考えていいのかな……って。なんか、抽選に応募したのも、私なんかがって……当たったとして、こわさもあるし……」
どんどん机に少女の顔が沈んでいくのを止めたのは、女性の手だった。ぱしっと軽い音がして、少女の両頬が挟まれる。彼女は少女と目を合わせるように顔を上げさせ、
「いいのよ。諦めたって。うじうじしててもいいし、自分を落としてもいいの。でも、貴方は私と一緒にいてくれるんでしょ?それはうそなの?」
女性の言葉に少女は目を開く。そして首を振った。
「ううん。うそじゃない。貴方と一緒にいたいから。わたし、変わるって決めたの」
少女の言葉に女性は晴れのような笑顔を浮かべた。少女がその笑顔を眩しく感じた時、それを覚ますような電話の音が鳴った。
「ね、ねぇ。変じゃないかな?」
「大丈夫よ。それに変とかよりも動きやすさとかの方が重要じゃないかしら?」
「そうだね!」
門の前で少女と女性は言葉を交わす。少女の格好は動きやすさを重視した服装で、腰にはポーチが付いていた。
「じゃあ、いってくるね」
「えぇ。……『星跨ぎ』の抽選おめでとう。気を付けて帰ってくるのを楽しみにしているわ」
静かな応援の中に滲む寂しさが少女にはわかった。滅多に彼女が滲ませない女性の私情に少女は彼女を抱きしめる。
「待っててね。ちゃんとおっきくなって戻ってくるから!」
誤魔化すような、からかうような、そんなユーモアを滲ませて少女は女性に背を向ける。
晴れの空に一つ星が光った。
それが遠ざかっていくのを、女性はただ静かに見つめていた。




