はちみつ紅茶
喫茶店の中には穏やかな日差しが入っており、木々で出来た椅子や席、喫茶店内のあらゆる小物から漂う木の気配が店内に穏やかな空気を作っている。
大きなガラスが付いた窓からは常に朗らかな日差しが店内に入っている。窓際の席にいつも通り座った二人はどことなく眠気に耐えているような気配もあった。
「うん……穏やかな星だね。久しぶりにリラックスしているよ」
「あんたはいつだってリラックスつーか、休憩しているようなもんだろうが……」
「ふふ、僕はいつだってがんばっているんだよ」
「どーだかな……」
いつもよりまったりとした会話をしながら二人は席で待つ。しばらくすると素朴なエプロンを付けた店員がトレーを持ってやってきた。
「お待たせしました。はちみつ紅茶です!」
木でできた席の上には陶器製の大きなポッドと白いマグカップが二つ、そして琥珀色のはちみつが詰められたガラス瓶が置かれた。店員は慣れた様子でそれらを配置すると、二人に向き直る。
「こちらは森の仲間たちから頂いたはちみつになります。こちらのポッドに紅茶が入ってますので、マグカップにはちみつと紅茶を入れてよくかき混ぜてお楽しみください!」
「へぇ。これは楽しそうな紅茶だ。ありがとう」
魔法使いの言葉に嬉しそうに笑って店員は戻っていった。青年はガラス瓶の蓋を開けて中に入っているはちみつを覗き込む。琥珀色で粘性が高いそれにスプーンを入れれば、それにまとわりつき、丁度一杯分のはちみつが取れる。
「美味しそうなはちみつだね。一杯ずつでいいかな?」
「とりあえずはいいんじゃねえの?でっけぇポッドが置かれたし、何杯かは飲めるだろ」
「そうだね。とりあえず僕の方にもはちみつを入れてくれるかい?」
「しょうがねえな」
二つのマグカップにはちみつと紅茶が注がれる。ほのかに甘い香りの立つそれに、二人は口を付ける。
「うん、美味しいね。これは自然の甘さをベースにした美味しさだ。スプーンで混ぜたらまた変わるかな?」
魔法使いはそういってスプーンではちみつをかき混ぜる。粘り気のあるはちみつは温かい紅茶の中で溶け、全体に甘さが伝わったように見える。再びそれを口に付けた魔法使いの顔は柔らかくなり、嬉しそうに笑った。
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「にしてもさっき店員が森の仲間から貰ったって言ってたけどよ……どういうことだ?」
ガラス瓶のはちみつを叩いて青年は疑問符を浮かべている。喫茶店に入る前に星の様子は確認したが、その中に熊や他の動物を育成している様子はなかった。この星に広がるのは自然豊かな森だけだった。
青年の言葉に魔法使いは窓の外を指さした。青年がその指の方に目を向ける。そこには森の入り口で熊からはちみつを受け取る人間の姿があった。
「は?」
「いやー面白いよね。ここまで見事に共生しているとは」
「有りなのか?襲われたりしないってことか?」
「そこは星に住む人に聞いてみよう」
魔法使いは近くにいた店員を呼び止める。仕事中であろう店員だったが、嬉しそうに教えてくれた。
「私たちは熊さんをはじめとした森の仲間たちとずっと仲良くしています。彼らからは自然の恵みを貰ったり、時にはその肉も頂いてるんです。そのお礼に私たちは森を侵略しなかったり、食料が不足してそうな時は育てた作物をあげたりしています」
店員の説明に魔法使いは興味深そうに頷き、青年はまだ驚きを隠せないようだ。
「それはずっとそうなのか?動物たちに襲われたりはしないのか?」
「はい、ずっとそうやって私たちは暮らしてます。穏やかな生活がずっと続いているんです」
にっこりと店員は笑ってから、はっとした顔であたりを見渡す。そして二人の方に顔を寄せると内緒話の様に話し始めた。
「ここだけの話ですけど、本当はもっとお肉食べたいんですよね……私たちが食べられるのは森の仲間たちが死んじゃった時だけなので」
内緒ですよ、そういって店員は笑った。
「自然との共生が出来てる星か……随分うまくやってるもんだな」
窓を眺めて青年は言った。微睡みからはもう抜けているようだった。
「うん。その分この星は技術力が発展してないかもしれないけど、こういう星のあり方もいいね」
魔法使いはそういって残りの紅茶を飲み干す。ガラス瓶のはちみつはほとんど終わっていた。
「ま、それもありだな」
青年はそう言って、空になったカップを見た。
「……久しぶりに、いい気分だ」




