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悪役令嬢 肉体の声とともに生きる道  作者: 南蛇井


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7/7

希望

誰も、近づかなかった。


 


 レディアナは、処刑台の上に立っていた。


 さっきまで処刑台だった場所は、


 いまは、


 ただの台だった。


 


 意味は、


 筋肉の前では、


 長く保てない。


 


 


 血が、


 首を伝っていた。


 


 温かかった。


 


 レディアナは、


 それを指で触れた。


 


 赤。


 


 生きている色だった。


 


 


「……はは」


 


 笑いは、


 もはや湿っているだけではなかった。


 


 混ざっていた。


 


 熱が。


 


 


 群衆の中で、


 誰かが言った。


 


「ば、化け物……」


 


 


 レディアナは、


 その言葉を聞いた。


 


 そして、


 少しだけ、


 考えた。


 


 


 違う、と。


 


 


 化け物とは、


 変わらないもののことだ。


 


 恐怖の中で、


 固定されたもののことだ。


 


 


 自分は、


 違う。


 


 


 変わっている。


 


 


 いまも、


 この瞬間も、


 


 収縮している。


 


 


 


 一歩、


 処刑台から降りた。


 


 


 木が、


 軋んだ。


 


 


 悲鳴のようだった。


 


 


 だが、


 折れなかった。


 


 


 レディアナは思った。


 


 


 似ている、と。


 


 


 


「……待て」


 


 王子が言った。


 


 


 その声には、


 以前あったはずの、


 物語の力がなかった。


 


 


「なぜ」


 


 王子は言った。


 


 


「なぜ、お前は……そこまで」


 


 


 レディアナは、


 王子を見た。


 


 


 細い首。


 


 白い手。


 


 軽い胸。


 


 


 かつて、


 自分が持っていたもの。


 


 


「失ったからです」


 


 レディアナは言った。


 


 


「一度」


 


 


 王子は、


 理解しようとした。


 


 だが、


 理解は、


 筋肉ではなかった。


 


 育たなかった。


 


 


 


 レディアナは、


 歩き出した。


 


 


 誰も、


 止めなかった。


 


 


 止める理由が、


 もう、


 存在しなかった。


 


 


 


 門を出た。


 


 


 外の世界は、


 広かった。


 


 


 光が、


 降りていた。


 


 


 レディアナは、


 その中に立った。


 


 


 暖かかった。


 


 


 栄養のようだった。


 


 


 


 腕を、


 曲げた。


 


 


 隆起した。


 


 


 影が、


 地面に落ちた。


 


 


 その影は、


 以前より、


 明確だった。


 


 


 


「……まだ」


 


 レディアナは、


 呟いた。


 


 


「足りない」


 


 


 それは、


 絶望ではなかった。


 


 


 希望だった。


 


 


 


 振り返らなかった。


 


 


 城も、


 王子も、


 断罪も、


 物語も。


 


 


 すべてが、


 背中側にあった。


 


 


 そして、


 背中には、


 


 筋肉があった。


 


 


 


 風が吹いた。


 


 


 レディアナの髪が揺れた。


 


 


 軽かった。


 


 


 だが、


 身体は、


 重かった。


 


 


 


 彼女は、


 歩いた。


 


 


 次の重量を、


 探しに。


 


 


 次の収縮を、


 探しに。


 


 


 次の、


 自分を、


 作るために。


 


 


 


「……はは」


 


 


 その笑いは、


 


 もう、


 


 どこにも、


 


 腐っていなかった。

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