裏切った
剣は、
落ちた。
空気を裂いた。
その音を、
レディアナは、
聞いた。
正確には、
身体が聞いた。
収縮。
それは、
思考より速かった。
脚が、
地面を、
掴んだ。
背中が、
閉じた。
首が、
沈んだ。
鋼が、
触れた。
皮膚に。
止まった。
処刑人が、
止めたのではなかった。
止まったのは、
剣だった。
わずかに。
本当に、
わずかに。
だが、
確実に。
刃は、
食い込んでいた。
血は、
流れていた。
だが、
進まなかった。
筋肉が、
抵抗していた。
レディアナは、
それを感じていた。
鋼と、
肉の、
対話。
押す力。
抗う力。
そして、
均衡。
広場が、
静止した。
誰も、
理解できなかった。
処刑人が、
震えていた。
「……なぜだ」
レディアナは、
答えなかった。
答えは、
言葉ではなかった。
存在だった。
「……はは」
笑いが、
漏れた。
湿っていた。
だが、
そこに、
別の何かが、
混じっていた。
確信。
レディアナは、
ゆっくりと、
顔を上げた。
剣は、
まだ、
首にあった。
だが、
それ以上、
進めなかった。
進ませなかった。
彼女が。
レディアナは、
処刑人を見た。
その男は、
軽かった。
あまりにも。
「あなたは」
レディアナは言った。
「鍛えていますか」
処刑人は、
答えられなかった。
腕が、
震えていた。
重さに、
負けていた。
レディアナは、
一歩、
踏み出した。
剣が、
滑った。
血が、
流れた。
だが、
それだけだった。
終わりではなかった。
もう一歩。
処刑人が、
後ずさった。
群衆が、
後ずさった。
世界が、
後ずさった。
レディアナは、
自由だった。
逃げたのではなかった。
勝ったのでもなかった。
ただ、
そこに、
立っていた。
彼女は、
自分の腕を見た。
隆起していた。
はっきりと。
明確に。
否定できない、
現実として。
「……はは」
笑った。
湿っていた。
だが、
もう、
腐ってはいなかった。
筋肉は、
ついに、
運命を、
裏切った。




