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悪役令嬢 肉体の声とともに生きる道  作者: 南蛇井


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5/7

前日

王子は、しばらく何も言わなかった。


 言葉が、


 役に立たなかった。


 


 鉄格子のこちら側と向こう側で、


 重さが違っていた。


 


 王子は、


 軽かった。


 


 レディアナは、


 重かった。


 


 


「……処刑の日が決まった」


 王子は言った。


 


 それは、


 勝利宣言のはずだった。


 


 だが、


 どこか、


 報告のようだった。


 


 


「そうですか」


 レディアナは答えた。


 


 声は、


 静かだった。


 


 だが、


 空気を押していた。


 


 


「怖くないのか」


 


 


 レディアナは、


 少し考えた。


 


 


 怖い。


 


 その感情を、


 探した。


 


 


 見つからなかった。


 


 


「弱くなることの方が」


 


 レディアナは言った。


 


 


「怖いです」


 


 


 王子は、


 理解できなかった。


 


 


 理解できないことが、


 増えていた。


 


 


 レディアナの身体のように。


 


 


 


 処刑まで、


 七日。


 


 


 レディアナは、


 鍛えた。


 


 


 処刑まで、


 五日。


 


 


 鍛えた。


 


 


 処刑まで、


 三日。


 


 


 鍛えた。


 


 


 鉄格子を握った。


 


 


 軋んだ。


 


 


 レディアナは、


 それを見た。


 


 


 世界が、


 わずかに、


 変形していた。


 


 


「……はは」


 


 


 湿った笑いが、


 深くなった。


 


 


 


 処刑前日、


 衛兵が、


 肉を持ってきた。


 


 


「最後の食事だ」


 


 


 レディアナは、


 それを見た。


 


 


 赤かった。


 


 


 美しかった。


 


 


「……ありがとう」


 


 


 彼女は言った。


 


 


 衛兵は、


 初めて、


 罪人に礼を言われた気がした。


 


 


 レディアナは、


 食べた。


 


 


 一口ずつ。


 


 


 ゆっくりと。


 


 


 筋肉に、


 染み込ませるように。


 


 


 これは、


 終わりの食事ではない。


 


 


 続きのための、


 食事だ。


 


 


 


 処刑の日。


 


 


 広場。


 


 


 人々。


 


 


 ざわめき。


 


 


 レディアナは、


 歩いた。


 


 


 重かった。


 


 


 素晴らしかった。


 


 


 処刑台に立った。


 


 


 空が、


 広かった。


 


 


 前世で、


 大会のステージに立ったときと、


 似ていた。


 


 


 光。


 


 


 視線。


 


 


 期待。


 


 


 


 処刑人が、


 剣を持った。


 


 


 レディアナは、


 その刃を見た。


 


 


 鋼。


 


 


 鍛えられたもの。


 


 


 同類だと、


 思った。


 


 


「最後に」


 


 王子が言った。


 


 


「何かあるか」


 


 


 レディアナは、


 考えた。


 


 


 そして、


 


 ゆっくりと、


 


 両腕を上げた。


 


 


 力を込めた。


 


 


 収縮。


 


 


 全身が、


 応えた。


 


 


 背中が、


 開いた。


 


 


 肩が、


 隆起した。


 


 


 腕が、


 盛り上がった。


 


 


 脚が、


 地面を掴んだ。


 


 


 


 静寂。


 


 


 


 誰も、


 それを、


 断罪できなかった。


 


 


 それは、


 罪ではなかった。


 


 


 努力だった。


 


 


 時間だった。


 


 


 祈りだった。


 


 


 


「……はは」


 


 


 湿った笑いが、


 空へ昇った。


 


 


 


 その瞬間、


 


 レディアナは、


 理解した。


 


 


 取り戻したのではない。


 


 


 前よりも、


 


 遠くへ来ていた。


 


 


 


 坂田健太郎は、


 もう、


 追いつけない。


 


 


 


 ここにいるのは、


 


 彼を超えた、


 


 レディアナだった。


 


 


 


 剣が、


 振り上げられた。


 


 


 


 だが、


 


 レディアナは、


 


 それを見ていなかった。


 


 


 


 自分の筋肉だけを、


 


 見ていた。


 


 


 


 筋肉は、


 


 裏切らなかった。

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