表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢 肉体の声とともに生きる道  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/7

断罪は

断罪は、形式として存在していた。


 内容は、すでに空洞だった。


 


「……貴様は、嫉妬に狂い――」


 王子は読み上げていた。


 紙を。


 紙に書かれた罪を。


 紙に書かれた物語を。


 


 レディアナは聞いていなかった。


 


 自分の呼吸を聞いていた。


 


 吸う。


 広がる。


 胸郭が。


 肋骨が。


 背中が。


 


 吐く。


 沈む。


 だが、


 消えない。


 


 そこにある。


 


 重さが。


 


 存在が。


 


 


 前世で坂田は、ステージに立ったことがある。


 ライトの下で、


 油を塗り、


 笑顔を作り、


 力を込めた。


 


 観客は歓声を上げた。


 審査員は頷いた。


 


 だが坂田は、


 そのどちらも信じていなかった。


 


 信じていたのは、


 ただ一つ。


 


 収縮。


 


 筋肉が縮む、


 あの瞬間だけだった。


 


 


「――よって、婚約は破棄とする!」


 


 拍手が起きた。


 


 予定通りの拍手だった。


 


 用意された拍手。


 


 レディアナは、


 自分の手を見た。


 


 白くはなかった。


 


 黒かった。


 


 硬かった。


 


 そして、


 ゆっくりと、


 拳を握った。


 


 


 収縮。


 


 


 それだけで、


 十分だった。


 


 


「……以上だ」


 王子は言った。


「何か言い残すことはあるか」


 


 儀式としての質問だった。


 答えなど、期待していない質問。


 


 レディアナは考えた。


 


 言い残すこと。


 


 坂田健太郎としての人生。


 レディアナとしての人生。


 


 その両方を通して、


 残すべき言葉。


 


 


「はい」


 レディアナは言った。


 


 広間が、


 少しだけ、


 緊張した。


 


 


「スクワットラックを」


 


 沈黙。


 


 


「設置していただけると助かります」


 


 


 空気が、


 壊れた。


 


 


 誰も、


 理解できなかった。


 


 王子も、


 観客も、


 物語も。


 


 


「……何を言っている」


 王子は言った。


 


 


 レディアナは、


 少しだけ、


 寂しくなった。


 


 


 この世界には、


 スクワットラックがない。


 


 この世界には、


 ベンチプレスがない。


 


 この世界には、


 タンパク質量の表示義務がない。


 


 


 不完全だった。


 


 あまりにも。


 


 


「……はは」


 


 湿った笑いが、


 こぼれた。


 


 


 仕方がない。


 


 


 ならば、


 作るしかない。


 


 


 筋肉は、


 与えられるものではない。


 


 作るものだ。


 


 


「……連れていけ」


 王子は言った。


 


 衛兵が、


 近づいた。


 


 


 レディアナは、


 抵抗しなかった。


 


 


 必要がなかった。


 


 


 彼女は知っていた。


 


 


 いま、


 自分の身体には、


 


 昨日まで存在しなかったものが、


 


 存在していることを。


 


 


 それは、


 罪ではなかった。


 


 罰でもなかった。


 


 


 ただの、


 


 筋肉だった。


 


 


 牢へ向かう途中、


 レディアナは思った。


 


 


 いい環境だ、と。


 


 


 静かだ。


 


 狭い。


 


 余計な誘惑がない。


 


 


 鍛えるには、


 十分だ。


 


 


 湿った笑いが、


 石の廊下に、


 ゆっくりと、


 染み込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ