原沢伊都夫「ステレオタイプの落とし穴」解説
【内容のまとめ】
「私たちは、ふだんの生活の中でさまざまな情報を受け取り、それを頭の中で整理してい」るが、「現在のような膨大な情報があふれる世界にいる私たちには、すべての情報を記憶することは不可能」なため、「その中から必要なものだけを取捨選択し、脳内に記憶するという作業を行うことにな」る。
ある情報を「あるカテゴリーに入れる=「ファイリング」 ことができれば」、「簡単に管理すること=「カテゴリー化」 ができる」。
「私たちは無意識にこのような認知作業を頭の中で行い、情報の整理を行っている」。
「このような作業は」、「日々交流する人物に対しても行われてい」る。「これまでに出会った人々をグループごとに脳内にストックする」。「外国人であれば、日本人、アメリカ人、中国人などの国籍がそのようなカテゴリーになる」。「個人個人をばらばらに覚えるより、このようにカテゴリー化することで効率よく人物の情報を脳内にストックできる」。
「カテゴリー化された知識構造」=「スキーマ」。「カテゴリー化することで、グループ内の共通する特徴が強化され、概略的な知識構造として私たちの脳の中に保存される」。
「ステレオタイプとは、このようにカテゴリー化されたものがすべて同じ特性を持つとする考え方を言い」、「主に人間の集団(特定の学校、会社、宗教などに属する人々)や社会的カテゴリー(性別、職業、国籍などによって区別される人々)に対する固定化したイメージとして使われ」る。
「ステレオタイプはスキーマと似ていますが、スキーマがカテゴリー化されたものすべてに共通する特徴だけを抽出するのに対して、ステレオタイプは、ある特定の特徴をグループ内のすべてに当てはめようとする考え方」。
〇「アメリカ人」の例
・スキーマ…「アメリカ国籍を有するすべての人間」←「本質的な知識構造」
・ステレオタイプ…「明るく行動的で自己主張の強い人」←「必ずしもアメリカ人全員に当てはまるわけではありません。当然ながらアメリカ人の中には、静かで消極的で自己主張の強くない人もいるからです」
〇ステレオタイプの形成
①「個人的な経験に基づいて形成」
②「社会的なイメージとして共有」
〇「社会的なイメージの上に成り立っているステレオタイプ」の例
「船が沈み出し、船長が乗客たちに速やかに海へ飛び込むように指示するとき、いちばん効果的な言葉は国籍によって異なります」。
アメリカ人……飛び込めばあなたは英雄になります→勇敢さ・名誉の重視
イギリス人……飛び込めばあなたは紳士です→プライドの重視
ドイツ人……飛び込むのがこの船の規則です→ルールの重視
イタリア人……飛び込めば女にもてるぞ→異性からの感情の重視
フランス人……飛び込まないでくれ!→命令に従わないことの重視・あまのじゃく
日本人……みんな飛び込んでますよ→同調圧力
〇「この種の、人種に関するステレオタイプは非常に多くあ」る。
(例)
・「韓国人はキムチがなければ生きていけない」
・「ドイツ人はビールとソーセージが好きである」
・「ブルガリア人はヨーグルトをよく食べる」
・「九州の人は酒が強い」
・「北海道の人はスキーがうまい」
〇ステレオタイプの特徴
「複雑な集合体を単純化するため、記憶しやすいという利点がある反面、物事を一面的に捉えるため、あるイメージをそのグループ全員に当てはめて考えようとする欠点があります」。「したがって、ネガティブなステレオタイプが形成されると、そのグループの人全員に対する差別や偏見の意識につながる危険性があります」。
〇ステレオタイプの歴史
・中国や韓国…「旧日本軍の冷酷で無慈悲なイメージをそのまま現在の日本人に当てはめ、日本人に対して強烈な嫌悪感を持つ人がいます」。
・日本…「尖閣諸島や竹島の問題が起きるたびに、それぞれの国の過激な抗議活動をテレビで目の当たりにし、中国人や韓国人に対する負のイメージを蓄積します」。
※「民間の草の根レベルの交流では決して起こらない偏見の意識が、国と国との関係悪化によって増幅されていく」。
〇社会におけるマイノリティーのグループに対して
「負のレッテルを貼ることが多くあります。それは、差別という形になって社会に存在することになります」。
・「戦前から戦後にかけて、在日朝鮮人や在日中国人などの外国籍の住民やアイヌなどに対して、いわれなき差別が行われたと言われています」。
・「身体障害者や知的障害者、エイズや血友病の患者、同性愛者や性同一性障害を持つ人など、社会におけるマイノリティーの人々に対して根強い偏見が存在するのも否定できません」。
「これらの偏見の多くは、不正確な情報やそれに基づく先入観によってでき上がったステレオタイプに起因する」。
〇ステレオタイプの落とし穴
「私たちは、無意識のうちに形成されるステレオタイプの呪縛から解き放たれなければなりません。そのためには、私たちの認識のメカニズムを知り、自分の考えがステレオタイプではないか、たえず自省しながら、ものごとを判断することが求められています」。
◆おわりに
人間は、経済的にも精神的にも余裕を失うと、自分とは異なる存在を嫌い、排除しがちになる。相手を理解し、受け入れるためにはエネルギーが必要であり、その負担を避けようとするからだ。心が逼迫すると、人は思考を放棄し、安易な道へと流れる。他者にラベルを貼る行為は、複雑な要素を考えずに済むため、とても楽だ。
本来、日本人には寛容さと度量の大きさがあった。八百万の神々を敬い、多様性を受け入れてきた歴史がある。しかし、現代社会で目立つ不寛容や狭量さは、そうした精神性が衰退しつつあることの表れにも見える。自然とともに、他者とともに生きる――その共生の価値観こそ、日本人が長く育んできた豊かな精神文化だった。
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