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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

それでも僕は生きる

作者: 篠原太一
掲載日:2025/11/10


 ある日、僕は帰宅中通り魔に出会った。

 そこで次々と刺されて行く人達を見て何故か咄嗟に身体が動く。

 手には側にあったコーンバーただ一つのみ。

 無謀にも思えたその行動は思考よりも先に何故か次は口の方動いていた。


 急に大声で呼び止められた通り魔は狙い通りか、僕に標的を変える。

 相手も激昂しているとは言え、武器を持つ自分を見てか、無闇に突っ込んでは来ない。

 意外にも冷静だったのだ。

 その人を無闇に傷付ける人間にも自己防衛をしたがる思考はあるのかと、内心ビックリはしたが、犯人に説得を試みる事にした。


 生きる上での失態の数々、そして同時に人生はやり直せるのだと言う無責任な戯言。

 その上っ面な言葉に当然犯人が靡くこともなく、

 遂には叫び声を上げて、突っ込んで来たのである。


 そこで相手の間合いに入らぬ様、うまく注意を払いながら僕は彼の頭を強く殴った。

 一瞬よろけた隙を見逃さず、再度追撃を行う。 

 すると犯人は包丁を落とし、その場に塞ぎ込んでしまった。

 その際に犯人が口ずさんでいた言葉は今も深く脳裏をよぎる。

 

 その後、通報を受けていた警察官達により取り押さえられ、事件は事なきを得た。


 ーー問題はその帰り道の事だった。


 軽い取り調べを終えた後、帰り道、ふと一人になったタイミングで気付いてしまったのだ。

 あの通り魔の前に出た行動の真の意味を。


 正常な人間ならば刃物を持った人間を前にすると、刺されたらどうするか。

 死んだらどうするか。

 主にその二つを考える筈だ。

 だが、僕の思考にそれは無かった。

 何故だか、ホッとしていたのだ。

 やっと死ねるのかと。


 結論、僕は自分でも知らぬ間に死場所を探していたのかも知れない。

 それも大義名分の元で死ねる。

 意味のある、正当化された自殺を。


 そう思うと途端に自分自身が情けなくなってしまった。

 人生と言う素晴らしい、一度しか味わえない幸福を自ら放棄していた事に深く失念した。

 今なら分かる、自身の犯した数々の甘さ。

 そして自殺は、誰が何と言おうと逃げなのである事をあの犯人は強く再認識させてくれたのだ。

 生きていれば、やり直しは効く。

 そう信じて、僕はまたあの会社に向かう。

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