とある職場で起きたこと
これは、私がつい先日まで働いていた職場で起きたことです。
結構不気味な出来事だったので、ホラーブームに乗っかって手記を公開してしまおうと思いまして。
とはいえ、身バレが怖いのでフェイクはところどころ交えようとは思いますが。
私が辞める少し前に超弩級のバケモノが出現したので、そいつに捕捉されるのだけは本当に勘弁願いたいので…
そのバケモノについては、とりあえず退け方まではわかっています。
自己の認識が歪んでいて自分を美しく魅力的だと思いたいものの、写真や鏡など本当の姿を直視させられることを避けたがります。
だから、対処法としてはビジュの良い女とバケモノを同じ画角に収めて写真を撮るか、ビジュの良い女と並べて鏡の前に立たせてください。
撃退できるはずですし、そもそもそのシチュエーションを避けて逃げ出すはずなので。このバケモノとやりあうために、とりあえずビジュ強い女性をそばに置くか、自身のビジュ値を上げてください(笑)
前置き終わり。
今から、職場であった不気味な出来事について記します。
感染系ではないので、これを読んだ方に何か影響が出ることはないと思いますが、念のため、自己責任でお楽しみください。
私が働いていたのは、様々な会社のコールセンターが入っているビルでした。大手ECサイトや有名衣料品メーカーのカスタマーだとか、電力会社の債権部門だとか、結構多岐に渡っていたみたいです。
部門ごとに部屋が分かれていたので、基本的には違うところで働いている人とは接点がありません。
でも、休憩スペースや給湯室なんかは共用なので、ちょっとした関わりはあるという感じでした。
どこの会社にも独自ルールだとかささやかな掟みたいなのはあると思うのですが、私が働いていた場所にもありました。
給湯室のミニ冷蔵庫の上に毎日お菓子と飲み物を備えるという、よくわからない決まりが。
本当にそれだけ。
他のフロアはわかりませんが、私が勤めていた三階フロアでは、その決まりを守ることが当たり前のことになっていました。
飲み物もお菓子も大したものでなくてもいいみたいで、コップにお水が入っているだけの日もあれば、マウン○レーニアが備えてある日もあって、お菓子もハッ○ーターン1個だけの日もあれば、ちょっと高そうなチョコレートが置かれてある日もありました。
お供え物なのに物々しくないから、入社してすぐは誰かの忘れ物か食べかけが置かれているのかな?としか思っていなかったくらいなんですよ。
でも、あるときちょうどお供えを取り替えている現場を目撃して、不思議に思ってみていたら、別の部門の顔見知り程度の人が「あれはね、冷蔵庫の上に毎日ああして置いておくものなんですよ。持ち回りでやってるから、あなたの部門の順番が来たときに、上の人にでも詳しく聞いてね。決まりだから」
と親切に教えてくれたんです。
そのときは、少し不気味に思いつつも「まあ、そういうのもあるもんなのかもね」くらいに思ってました。
そのくらい、当番が回ってきた人たちが自然と、何でもないことのようにやっていたので、毎日見ているうちに見慣れちゃったんですよね。飲み物やお菓子に規則性がなかったのが、そのお供え物の風習を儀式めいたものに見せなかったというのも大きいかもしれません。
それよりも、二階から三階に登る階段の踊り場の角に立ったままめり込んでいる人がいたり、屋上からとある方向を向いてはいけないという決まりがあったり、些細な違和感や気味の悪さが端々にある職場だったので、冷蔵庫の上のお供え物なんてそのうち日常の光景に溶け込んでいってしまったんですよね。
業務の中で起こることのほうが、オカルト的なことも人間的なことも大変だったので、少々の不気味さなんて景色と一緒です。いちいちかまっていられません。
だって、電話対応中は何の違和感もなく滞りなく終わった案件だったのに、あとで音声を出力して聞いてみたらずっと電話の向こうで女が大絶叫してる声が入っていたとか、
全然私は笑っていないのに電話の相手に「あんた、何わろてんの! うちのこと馬鹿にしてるんやろ!」とめちゃくちゃ怒られて、これも音声確認してたら女のクスクス笑いが入っていたとか、
そんなのが多々ある職場だったので、業務のほうが大変でした。
あとまあ、ガチギレおじさんによる恐怖のカスハラクレーム電話2時間コースとか……
電話対応中だけでもこんな感じで大変で嫌なことがあったんですけど、何より気味が悪くて嫌だったのは、本社が開発してるAIツールの文字起こし機能を使って会議の記録を残すよう言われていたことですね。
このツール、まだ実用段階に至っていなくて、誤字脱字が多いだけじゃなくて、誰も喋ってないときにも何かしらの文字を起こし続けることなんですよ。
4番テーブル、提供お願いしまーす2番、お皿引いてくださーいオーダー入りまーす
みたいな、どこのファミレスの光景だよっていう音声の文字起こしをしてみたり(会議中なので当然こんな会話はしない)
そっちに行きたかて思いよっちゃけど、悪いとね、手が離しぇんで出られんっちゃんね。
いろいろあってばりやおいかんで。
つごが変わって出らるーごとなるて思うけん、まちっと、まちっとだけ待っとってほしか。
ほんなこつ今、出ていけんっちゃん
などという、コテコテの博多弁のおじさんを生成してみたり(笑)
私が働いていたのは福岡であっても博多ではないので、こんなコテコテのネイティブな博多弁を使う人はいないわけですよ。
だから、こんなわけのわからない文字列が出力される理由がわからなくて、当然議事録として使い物にならないため、本社にはたびたびフィードバックしていました。
こんなもん使わせんでくれと、オブラートに包みつつね…
でも、本社としてはデータがほしいのでとにかく使ってみて、使い心地の報告をしてくれと言われるだけで、現場の不便さにはあまり耳を傾けてもらえませんでしたけど。
どれもこれも、ひとつひとつは些細なことでしたが、不気味なことがたくさんある職場でしたよ。
不気味といえば、例の冷蔵庫の上のお供え物の当番は、私が約3年働いている期間中、一度もうちの部門に回ってこなかったんですよ。
そんなもんなのかなーと思っていたんですけど、何とうちの部門のお局様が
「そういうのね、うちらの代ですっぱりやめなきゃと思って断ったんだよね。だって、何で供えてるかもわかんないものを順番が来たからやるなんて、馬鹿らしいでしょ? そういう馬鹿馬鹿しいもの、無駄なものはどんどんなくしていかなきゃ」
と勝手に断っていたらしいんですよ……
まあ、この方の言い分もわかります。
というか、くだらない風習であればこの考え方が正しいと思うんです。
新入社員の女性にだけお茶汲みとコピー取りをさせて、男性社員にはさせないとか、その手のくだらない慣習であればどんどん廃れさせていこうと私も思うので。
でも、冷蔵庫の上のお供え物は、その手の慣習とは違うように感じていたんですけどね…
という感じで、少しワクワクしながらうちの部門に当番が回ってくるのを待っていたわけですが、こういう事情で私は退職するまでついに経験することなく過ぎてしまったんです。
…と思っていたんですが、退職日まであと数日となったときに、別の部門の方にお声がけされたんですよ。
その人とは本当に親しいとかではなかったんですが、ウォーターサーバーのところでよく一緒になって、空になったボトルを「いいですよ! 私、こう見えて力持ちなんで私がやります!」と交換してあげたことが何度かあったくらいの接点なんですが。
「もうすぐ辞めるんですね。総務から出てきたので、退職手続きかなって…」
と声をかけられたので、ちょっとびっくりしたんですけど、
「あなたはいい人だったので……伝えておきます。あれはやってほうがいいです。今日、なんでもいいのでお菓子を買ってきて供えてください。飲み物は、清潔なコップに水を入れていたらいいので」
と言われたんですよ……
というわけで、私は大急ぎでお菓子と飲み物を買ってきて供えました。
わざわざ、別の部門の人が忠告してくれたわけですからね。
それだけ、うちの部門が当番をスキップしたのが問題になっていたんでしょう。
辞める私に声をかけてくれたのは、お供えをやらずに去ることがまずいことだからだろうと判断し、私は素直に従いました。
理由とか理屈とか、そんなものはどうでもいいんです。
こういうの、非科学的だとか馬鹿にするやつが馬鹿で傲慢なんですよ。
すべてが現時点の科学で解明できると思うなよ、超科学と書いてオカルトと読むんだからな!と私は思っているので。
というわけで、私は滑り込みで貴重な体験ができましたし、たぶんこれで、身の危険はなくなったんだと思います。
そうそう。
本社から使うように言われていたAIツールの文字起こしも、本社が言うにはバージョンアップして精度が上がったらしいんですよ。
最後のあたりに参加した会議で使ってみましたが、博多弁おじさんの臨場感が増してましたよ(笑)
とまらしとったものが取れたけん、とうとう外に出らるー。そろそろやて思いよったばってん、やっとばい。出られたけんね、出られたけんね、今から来るばい
ですって(笑)相変わらず、会議中に誰もこんな会話なんてしてないんですけどね。
これが、私が職場で体験したちょっぴり不気味な体験でした。
こうやって書くと、あんまり怖くないですね。
まあ、私が怖くないのは二度と近づくことはない場所だからってのもありますけど。
最後に、博多弁おじさんの言っていたことを博多弁に詳しい人にニュアンス翻訳していただいたものを載せておきますね。
そっちに行きたいって思ってるんだけどね、あいにくね、手が離せなくて出ていかれないんです。
いろいろあってとても大変で。
都合が変わって出られるようになると思うから、もう少し、もう少しだけ待っててほしいです。
本当に今、出ていけないんだよ
邪魔していたものが取れたので、ようやく外に出られます。
そろそろだと思っていたけど、ようやくだよ。
出られたからね、出られたからね、今から行くよ