追放とエルフ
「ヌエタナ・ロード・ヴァンパイアの名の下に宣言する。ノア・ストリゴイは吸血貴族の義務を怠ったため国外へと追放する。」
――ああ、そうだよな。許されるはずがない。
俺は昔から周りと違った。人族ひとぞくでは価値観なんて表現されていたかな、ずれていたんだ。吸血鬼は眷属を作って一人前、貴族出の吸血鬼は眷属を五人以上作らないといけないなんて決まりもある。俺はそれが不思議でしょうがなかった、眷属なんていえば聞こえはいいけど実際は奴隷と変わらない。一部を除いて無理やりされた人が大半だ。
どうしても俺は眷属を作りたくなくて、結局20になるまで一人も、他種族も含めても一体も眷属化を施さなかった。少しだけ、ほんの少しだけ俺は許されると思っていたんだけどな。吸血鬼って面倒くさがりだし。
「最後にノア・ストリゴイに問うが、この場で五人ほど適当な者たちを眷属化させれば取り消すが...意思は変える気はやはり無いのか?」
ロードは随分優しいんだな。だけど俺は変えるつもりはない。たとえばそれが追放を回避する手段であろうと、しないことによって両親が泣き崩れようとも。
「ばぁーか。老いぼれどもが。」
言ってやったぜ。ロードは顔をしかめていたし、両親は泣いていたけど。
俺はエルフ森林国との国境線沿いに置いていかれることが決まった。
***
「なぁ、ほんとに良いのか?今謝れば多分戻してもらえるぞ。」
追放処分が決まっている俺を心配してくれているのはロードの眷属であり、吸血騎士ヴァンパイアナイトのアウトナだ。彼は俺が赤ん坊の頃から面倒を見てもらっている、人族では近所のお兄さんと言ったかな?そんなやつだ。
「ああ、俺の信念に従っただけだ。それに外の世界も見てみたかったしな。」
実際、外の世界を見て回りたかった。夜の王国にいたところでロードの騎士になるか内政をやらされるだけの吸血生になる。そんなのまっぴらごめんだ。
「お前がそういうならしょうがないな...ほい、餞別だ。そいつらは俺が人族だったときに便利だった物といくばくかのルーナ、身分証明ができるカードが入っている。」
アウトナが渡してきたサックは持つ以上の重さがあった。ありがたい、素寒貧で外の世界は俺にとっては辛い。まぁ吸血鬼は生半可なことでは死なないが。
別れは辛い、旅立ちには別れがついてくる。時間をかけると戻りたくなるので手短に済ませよう。
「アウトナ!父さんと母さんによろしくと伝えてくれ、あとこれありがとなー!じゃ、また会う日まで。」
そして俺は新しい一歩を踏み出し―――コケた。
なにかに引っかかったような...
俺は下を見て目を見開く。なんと少女が俺の足元には地面に伸びているではないか。俺は街道の真ん中で倒れている少女を持ち上げ、脇の森に連れて行く。けっして怪しいことではなく、馬車に轢かれるかもしれないからだ。ここはエルフ森林国との国境線沿いなので特に危険だ。
しかしこの女の子は気持ちよく寝ているなぁ。起こすのも可哀想だから今日はここで野宿をしよう。
***
「う、うーん。」
少女は起きたようで、身体を伸ばす。ちらりと見えたお腹が可愛らしかった。
こちらを見て驚いたように目を見開く。
「あ、あなたは誰ですか?」
少女の声は少し震えていた。当たり前だろう、起きてみたら知らない男が横にいるのだ。怯えているし普段の言葉遣いは封印してなるべく丁寧に話すことを心がけよう。
「ああ、君が道路の真ん中で倒れていてね。馬車に轢かれて死んでしまっては目覚めが悪いから回収させてもらったよ。俺の名前はノア、もしよければ君の名前を教えてくれないかい?」
「あ、そうだったんですか。そう言われると思い出してきました。保護してもらってありがとうございます。私の名前はエレノアと申します。親しいものにはノアと呼ばれていますが名前が被ってしまうのでエレノアでお願いします。」
エレノアは安心したようで気さくに喋り始める。エレノアの見た目はtheエルフという感じだ。長い耳、白い肌に金髪の長髪、これらは俺が読んだ本のいう見た目と酷似している。例外というなら彼女の目が左右で色が違うことだろうか。
「エレノアってエルフだよな?今までにエルフは見たことがなくて...あ、俺の種族は吸血鬼だ。」
エレノアの目に再び警戒の色が浮かぶ。
「吸血鬼ですか?なぜ引きこもり気質の吸血鬼が外になど出てきているのでしょう。理由をお聞かせ願いますか。」
エレノアは少し早口に喋る、もしかしたら俺がエレノアを眷属化しようとしていると思っているのかもしれない。誤解を招いたら不味いので俺が追放された理由や眷属化に反対していることをかいつまんでエレノアに伝える。エレノアは理解してくれたようで再び話し始めた。
「すいません、勘違いしてしまって。私は正真正銘の純エルフです。今、少し、いや諸々の事情があって故郷から出てて...もしよければノアの旅にお供してもいいでしょうか?」
エレノアは少し暗い顔をして説明していたので俺になにか伝えたくないことでもあるのだろう。俺としても行き倒れていたエレノアを放置することは出来ないのでエレノアがついてきてくれるのは嬉しい。
それに男一人旅というのも楽しいだろうが俺は少し寂しいと思っていたしな。
――この出会いが俺の運命を変えるなんて、この時はまだ知らなかった。




