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1~10

カクヨムからの転載です。10話程度まとめて掲載します

..1 カマセ悪役に転生



 気が付くと、異世界にいた。


「どこだ、ここ――」


 俺は古めかしい街の中に立っている。


 周囲を見渡せば、石造りの城壁や尖塔が見えた。


 そして、手元には……剣。


「……えっ?」


 そう、俺が握っているのは、まるでゲームやアニメで見るような銀色の長剣だった。


 装飾が施された鞘、そして革の感触が妙にリアルだ。


 いやいや、待て。これはまさか……。


「異世界転生……!?」


 そんなバカな。


 でも、目の前の光景は紛れもなく『異世界』だ。


「しかも、この光景――見覚えがあるぞ」


 そうだ! 俺が前世で遊んでいたファンタジーRPG【ブレイブブレードサーガ】――通称【ブレブレ】の風景にそっくりなんだ!


 と、そこで俺は足元の水たまりに自分の顔が映っていることに気づいた。


 その顔を見た瞬間、全身に戦慄が走った。


「えええええええええええええええっ!? この顔――ジルダ・リアクトじゃないか!?」


 もう間違いない。


 俺は『ゲームに出てくるカマセ役の悪役剣士』に転生したようだ。




 ジルダは登場してすぐに勇者ゼオルにあっさりと負ける、まさに『かませ役』の敵キャラだ。


 俺が知っているゲーム本編の流れはこうだった。


・ジルダ・リアクトは、王都の決闘場で勇者ゼオルに挑む。


・イキって強者ぶるが、ゼオルに瞬殺される。


 おしまい。


「……すぐ死ぬんだよな、ジルダって」


 そのイキり方があまりにも小物っぽい上に、清々しいまでの瞬殺で死んじゃうから、一部のコアなファンからは人気があるが……。


 もしこの世界がゲームと同じ流れをたどるなら、俺は確実に死ぬ!


 考えたとたん、全身から冷や汗が吹き出した。


 冷静になれ、落ち着け……!


「まずい、まずい……っ!」


 とにかく状況を整理しろ。


 俺は転生した。


 しかも、ゲーム本編では主人公の前座にすらならないかませ犬の悪役剣士。


 そして主人公に敗れ、すぐ死ぬ。


「ええと、俺が死ぬ予定の決闘って……いつだっけ?」


 記憶を探り、正確な情報を思い出す。


 ……といっても、今がゲーム本編におけるいつなのかが分からない。


 いや、待てよ――。


 俺は記憶を探ってみた。


 すると、ぼんやりと……映画を見るように、ジルダが今まで体験してきた人生の出来事が脳裏に浮かび上がる。


 これは――『元のジルダ』の記憶、なのか?


 貧しい農民の子として生まれ、王立騎士団の試験を受けて合格。


 そして厳しい訓練を受けながら、中級騎士に昇格。


 ……けっこう頑張って今の地位にたどり着いたんだな、こいつ。


 別に悪人の人生って感じじゃない。


 ただゲーム内だと、新米騎士として騎士団に入ってきた主人公のゼオルに対して『生意気だ! 厳しくしごいてやるから覚悟しろ!』とイキる先輩として登場するんだけれど。


 そして、剣の訓練でゼオルに敗れ、激高してさらに襲い掛かったところを返り討ちにあって死亡。


「……ってことは、ゼオルが騎士団に入団して、ちょっとしてから死亡イベントになるわけだ」


 と、そこで俺は気づいた。


「――って、もうゼオルは入団してるじゃないか!」


 ゲーム本編だと、確かジルダ瞬殺イベントはゼオルが騎士団に入団してちょうど二か月が経った頃の話だった。


 ジルダの記憶だと今年の新米騎士が入って来てから、ちょうど一か月が経っている。


 つまり――。


「死亡イベントまで、あと一カ月しかない!」


 いやいや無理だろ。


 たった一か月で主人公に勝てるくらいに強くなるなんて。


「あ、でも俺がゼオルに『生意気だ』ってイキったり、剣の訓練の後、さらに襲い掛からなければいいだけだよな」


 なら、簡単だ。


 ――とはいかない。


 いわゆる『歴史の修正力』みたいなものが、この世界にあるかもしれない。


 俺がゼオルと戦いたくなくても、その力によって無理矢理ゲームと同じ展開になってしまうことはあり得る。


「それなら……やっぱり強くならないとな」


 よし、覚悟完了。


 最終的に死亡イベントがどんなふうに俺に訪れるかは分からない。


 けれど――だからこそ、俺にできるのは己を鍛えることだけだ。


 そのために、まず現在のジルダの能力を把握しておきたい。


 ゲームならステータスを確認することで、そのキャラの強さがすぐに分かるけれど――。


「ステータスオープン」


 定番の台詞を言ってみた。


 まあ、一度言ってみたかった、という理由もあるが。


 ばしゅんっ!


 すると、俺の目の前にゲームのウィンドウみたいなものが出現した。


「本当に出た!」


 俺、興奮。


 表示されているのは、ジルダのステータスで間違いなさそうだ。


 名前の欄に『ジルダ・リアクト』とあるし、HPやMPなどの各種数字が載っている。


「――って、えええええっ!?」


 俺はある数字に気づいて驚愕した。




【ジルダ・リアクト】


 種族:人間


 職業:剣士(中級)


 レベル:10


 HP:1240


 MP:240


 STR(筋力):198


 VIT(耐久):174


 AGI(敏捷):176


 DEX(器用):155


 MAG(魔力):100


 LUK(運):112


 スキル:【斬る】【突く】【火球】【カウンター】


 スキルポイント:9999




「最後の数字~~~っ!?」


 これって、もしかして――。


 前世の俺は、このゲームをやりこんでいた。


 すべてのスキルをカンストさせ、もう成長させようがない状態でも、ゲームの仕様上スキルポイントは貯まっていくため、そのスキルポイントまでもがカンストして9999になっていた。


「まさか、スキルポイントは前世のプレイ結果が俺のステータスに反映されてるのか……?」


 いわゆる転生者特典みたいなやつなのか、なんなのか。


 理由は分からないけど、これは俺にとって大きな――大きすぎるアドバンテージだ。


 存分に活かすとしよう。


「よし、この数値を何に振り分けるか、だな」


 剣技最強?


 魔法最強?


 あるいはパワーやスピード、あるいは魔力に振るか――?


 だが、俺は一つの戦法を閃いた。


 半ば気まぐれ、半ば本能。


 それは――。


「俺は【カウンター】のスキルにポイントを全振りする!」


..2 最強の【カウンター】剣士へ




 スキル極振りした究極の【カウンター】。


「うん、完全な俺の趣味だ」


 ニヤリとする俺。


 どうせ死ぬかもしれないなら、せめて自分の気に入った戦法で挑んでみたい。


 カウンターに特化し、相手の攻撃をすべて跳ね返す。


 しかも、反射した攻撃の威力は極振りした【カウンター】によって、とんでもないダメージ数値になる。


 そう、俺に攻撃した時点で敵は終わる。


 言ってしまえば、『敵が攻撃したら必ず勝つ理不尽な強者』になるんだ。


「……よし、決まりだ!」


 俺はスキル一覧を開き、一気に【カウンター】スキルへと振り込んだ。


 すぐに基本スキルの【カウンター】はカンストし、さらにスキルツリーが表示されて、派生のスキル一覧が出現する。


 そこにもポイントを振り込んでいく。


【完全防御】


 物理攻撃を受け流すスキル。防御の瞬間、自動で最適なカウンター姿勢を取る。


 これがあれば、どんな剣撃も無効化できるだろう。


【魔法反射】


 受けた魔法をそのまま敵に跳ね返す。威力減衰なし。


 魔法使い相手でも無敵だ。


【攻撃予測】


 敵の動きを視覚化し、5秒先の攻撃を予測する。


 未来予知系のスキルは強いよな。


【カウンター強化】


 カウンター時の攻撃威力を3倍にする。コンボ発動時はさらに威力上昇。


 反射した攻撃の威力がさらにアップするし、敵の攻撃が強ければ、さらにもっと強く反射できるわけか。敵の自滅を誘えるな。


【神速反応】


 攻撃を受けた瞬間、自動でカウンターを発動する。反応速度は常人の30倍。


 とんでもない反応の速さだ。これならどんな攻撃にだって反応できるだろう。


 スキルポイント9999を消費し、【カウンター】及び派生スキルの大半をカンスト完了。


「あれ? 全部のスキルはカンストできなかったのか」


 もしかして、ゲーム本編より派生スキルの数が多いのか?


 まあ、いいか。


 とりあえず現状で得たスキルだけで、オーバーキルならぬオーバーカウンター気味だからな。


 はっきり言って――【カウンター】に関しては、完全にチートクラスになったと思う。




 ――というわけで、訓練とスキルテストの時間だ。


 さっき俺が居た場所は、王城に続く道だったらしい。


 ジルダはちょうど王立騎士団に出勤する途中だったのだ。


 で、俺はそのまま騎士団の訓練場に行った。


 騎士団の仕事は巡回やモンスター討伐、合同訓練に自主訓練――と色々あるみたいだけど、都合がいいことに、その日は自主訓練だった。


 俺は訓練用の剣を手に取ってみる。


 ぶんっ!


 その瞬間、体が勝手に動いて、自然と【カウンター】の姿勢を取った。


「おお……」


 思わず感嘆する俺。


 何も考えなくても『反射』で【カウンター】を繰り出せる感じだった。


 試しに、訓練用のゴーレムと戦ってみることにした。


「訓練とはいえ、本物の『戦い』なんて初めてだ……」


 緊張する。


 何せ俺の前世は普通のサラリーマンだ。


 もちろん、戦いなんて経験したことがない。


 現代日本でそんなもの、普通は経験しないからな。


 全長2メートルくらいの人型ゴーレムが近づいてくる。


 動きは鈍重だけど、パワーはありそうだった。


 ゴーレムが拳を振り上げ、パンチを繰り出した。


「――!」


 その動きが異常なまでにゆっくり見える。


【神速反応】の効果らしい。


 しかも、赤いエフェクトで5秒後の未来の動きが示されている。


 こっちは【攻撃予測】だな。


 なるほど左から回し込むようにして俺の胸元を狙って来る軌道か。


 俺はやすやすと回り込み、【完全防御】でゴーレムの重いパンチをあっさりと受け流す。


 そのまま【カウンター】発動!




 どごおおおおおんっ!




【カウンター強化】の効果で3倍になった攻撃が、ゴーレムの頭部を一撃で粉砕した。


「す、すごい……すごいぞ」


 どんな攻撃を受けても、自動で最適なカウンターが発動する。


 魔法攻撃も反射する。


 しかも相手の攻撃はめちゃくちゃスローモーションに見えるうえに、未来の軌道まで分かるから簡単に見切ることができる。


 俺に攻撃したら相手は詰むな、これ。


「無敵じゃないか……はは」


 俺は思わず笑いが込み上げた。


 これなら――。


 これなら、勇者ゼオルにだって勝てるかもしれない。


「でも、まだ不安もあるし、もっと訓練しよう」


 俺はさらなる高みを目指して【カウンター】の実戦訓練を続けるのだった。


..3 最強の姫騎士を完封する




 訓練場はいくつかの部屋に分かれている。


 一つは、俺が今いる『訓練用ゴーレム部屋』。


 他にも『対集団戦闘訓練』や『対魔法戦訓練』の部屋なんかもある。


 俺は今いる部屋から『団員同士の模擬戦』用の部屋に移った。


 ここでは王国最強の騎士団員たちが剣を交え、互いに研鑽を積んでいる。


 あちこちで闘志にあふれた表情をした騎士たちが剣を交え、気合いの声を上げ、時には剣技の指導を行っていたりもする。


 さっきの部屋以上に熱気にあふれていた。


「訓練用ゴーレムもいいけど、やっぱり対人戦の練習を積みたいよな」


 俺の目的はただ一つ。


 どんな攻撃もカウンターで返す『最強の戦闘スタイル』を極めることだ。


 スキルに関しては異常なほど強化したけど、やっぱりそれを使いこなすには実戦の経験がないと始まらない。


 俺は周囲の騎士たちを見渡した。


「誰か適当に相手をしてくれる人……いないかな?」


 ため息交じりにつぶやく。


 こういう場所の常として、似たような技量の者同士でペアを組んで訓練をしているのがほとんどだった。


 俺は中級騎士だから、相手も同じ中級が相応だろう。


 ただ、最終目標は勇者ゼオルに勝つことなので、できれば上級の――それも最強クラスの騎士と模擬戦をしたいんだけど――。


 そう思った矢先、


「見ない顔だな。貴様は誰だ」


 突然、背後から鋭く斬りつけるような声がした。


 振り向くと、そこには鎧をまとった一人の少女が立っている。


「お前は――」


 俺は彼女を知っていた。


 正確にはゲームに登場する彼女を。


 レナ・バレルオーグ。


 このバレルオーグ王国第一王女にして騎士団筆頭の王国最強騎士だった。


 こうして実際に見ると、すごい美少女だ。


 長い金髪に澄んだ青い瞳。


 凛とした美貌と気品は、いかにも『姫騎士』という雰囲気を漂わせていた。


 ゲーム本編ではメインヒロインの一人で、勇者ゼオルの恋人になるキャラクターだった。


 正直、主人公がめちゃくちゃ羨ましい……っ!


「……なんだ、私の顔をジロジロ見て」


 彼女の視線には、どこか俺を不審に思うような感情がこもっていた。


「ここは熱意のある騎士たちが鍛錬を積む場所だ。貴様はさっきからボーッとして……やる気がない者は出て行ってもらおう。邪魔だ」


 キツい物言いは、まさにゲームのレナそのもので、俺は怒るよりも感動してしまった。 


 うわぁ、本物のレナだ……!


「……なんて、感動してる場合じゃないか」


 俺は彼女を見つめ、


「やる気ならある。俺は訓練して、強くならなきゃいけないんだ」

「ほう? やる気がないわけではない、か」


 レナは俺を値踏みするように見つめた後、いきなり剣を抜き放った。


 銀色の刃を俺に突きつけて言い放つ。


「では、貴様の実力を試させてもらう。剣を取れ」

「……えっ?」

「あらためて貴様を見て、気づいた。貴様の構えには何か違和感がある。秘めた技を持っているのか――興味が湧いたのだ」


 さっきまでとは違い、レナの目が爛々としている。


「いいよ、やろうか」


 いきなりの展開だけど、王国最強騎士とやれるのは願ってもないチャンスだった。


 この一戦で、俺のカウンタースキルの真価を知ることができるだろう。




 模擬戦が始まった。


「では、いくぞ――【縮地(しゅくち)】」


 ばしゅっ!


 その瞬間、レナが異常なスピードで突っこんで来た。


 上級の歩法スキル【縮地】。


 こいつは熟練者が使うと、ほとんど瞬間移動みたいなスピードで剣の攻撃範囲内まで移動することができる。


 俺の反応速度をもってしても、彼女の動きはわずかにブレて見える。


 反応しきれない――。


「【雷光刃(らいこうじん)】!」


 そこから放たれる、まさしく稲妻のような一撃。


 レナの速度を最大限に活かした神速の斬撃だ。


「っ……!」


 やられる――。


 一瞬、そう覚悟したが、俺の体は勝手に動いていた。


 反応しきれなくても体の方が勝手に動くのか!?


【完全防御】が発動。


 レナの上段からの斬撃に合わせて、俺は自然と剣を跳ね上げ――、


 ばしゅんっ!


 レナの体が宙に舞った。


【カウンター】が発動したのだ。


「っ……!?」


 空中で一回転し、背中から叩きつけられるレナ。


 からからから……。


 彼女の手から離れた剣が石畳の上を何度も回転し、止まった。


「えっ、何が……?」

「一瞬で王女様が吹っ飛ばされた……?」

「あのレナ様が――」


 周囲の騎士たちはいっせいに驚きの声を上げる。


「貴様……一体、何をした……」


 レナがゆっくりと立ち上がり、俺をにらんだ。


 背中が痛むのか、わずかに顔をしかめる。


「あ……大丈夫か? かなり激しく叩きつけられたんじゃ――」

「これくらい平気だ」


 レナがムッとした顔で、ますます俺をにらむ。


「今のは――【カウンター】か?」

「ああ。俺の得意技さ」

「……私は何度か【カウンター】の使い手と戦ったことがあるが、貴様のそれはレベルが違う……違いすぎる」


 レナがうなった。


 それから俺に一礼して、


「どうやら貴様を見誤っていたようだ。侮った発言をして済まなかった」

「いや、いいんだ。俺もボーッとしていて悪かったよ。どうやって訓練しようか、考えていてさ」

「なら、引き続き私が相手になろう」


 レナがニッと笑う。


「えっ」

「訓練がしたいのだろう? それとも私では相手として不足か?」

「い、いや! お前が相手なら願ったりかなったりだけど――いいの?」

「当然だ。負けっぱなしで終われるか」


 レナが目を吊り上げた。


 ゲームと同じく負けん気が強い。


「分かった。じゃあ――お願いします」

「お願いします」


 俺たちは互いに一礼し、ふたたび向き合った。




 というわけで、模擬戦の第二戦だ。


「速度で制するか、技で翻弄するか……さあ、どう攻めてくれよう」


 レナは目を爛々とさせ、俺を見ている。


 俺の方は剣をだらりと下げた自然体の構えだ。


 どうせ体が勝手に反応するんだ、なまじ構えを取るより、こうやって脱力状態にしておいた方がいいかもしれない。


 レナという最高の練習相手がいるんだし、構え方を含めて、いろいろと試してみよう。


「いつでもいいぞ」

「言ったな! ならば、いくぞ!」


 レナは叫んで、駆け出した。


「これが私の最高の技! 【聖銀燐光剣セレスティアルブレード】だ!」


 ボウッ!


 彼女の剣がまばゆい光に包まれる。


 さらにその動きがボヤけ、高速移動に入ったようだ。


 破壊力と速度を兼ね備えた必殺の攻撃――。


 ばしゅんっ!


 俺の体が勝手に動いて【カウンター】が勝手に発動した。


 ……まあ、いくら破壊力や速度が上がっても、結局俺には届かないよな。


「きゃあっ」


 またもや吹っ飛ばされるレナ。


 今度は背中から叩きつけられず、空中で一回転して華麗に着地した。


「悲鳴が可愛い……」

「ばっ……! 馬鹿なことを言うな!」


 俺が思わずつぶやくと、レナは顔を真っ赤にした。


 うん、そういう反応が可愛い。


「おのれ、今度こそ――!」


 レナは照れているのか、怒っているのか、よく分からない態度で、みたび向かってきた。


 当然のように俺はまた彼女を吹っ飛ばす。


 その後も――。


 俺は王国最強の姫騎士にひたすら攻撃され、【カウンター】でこれを跳ね返し続けるという戦いを繰り返したのだった。




..4 姫騎士レナ(レナ視点)


 SIDE レナ



 それは――レナがジルダと初めて戦った翌日のことだ。


「精が出ますね、殿下」


 レナが訓練場で一心に素振りをしていると、一人の女騎士が話しかけてきた。


 年齢は三十歳ほどだろうか。


 右目に眼帯、左頬に斜め傷が走っているが、その容貌は凛々しく整っている。


「カミーラ団長――」

「副団長ですよ、殿下。今の団長はあなたではないですか」


 カミーラがクスリと微笑んだ。


「ああ、すまない。未だに君を前にすると団長と呼んでしまうな……」


 レナが苦笑で応える。


 それから表情を引き締め、


「……もう噂で知っているだろうが、今日私は敗北した」

「存じております」


 カミーラは淡々とした口調だったが、内心ではきっと驚いているだろう。


 最強の姫騎士にして、王立騎士団長を務めるレナ・バレルオーグ。


 無敵を誇る彼女が敗れたのは、きっとすべての騎士にとって大きなショックだったはずだから。


「騎士たちを動揺させないためにも、次こそ彼に勝ちたいものだが――」


 言いながら、またレナは剣を振る。


「勝てるイメージが湧かない……こんなことは初めてだ。いや、それ以前に私の剣に迷いが出ている……」

「それほどの相手なのですか? ジルダという男は」


 カミーラがたずねた。


「あたしはそれほど多くは知らないのですが、確か中級騎士でしょう?」

「ああ。甘く見たわけではないが、中級騎士の技量をはるかに超えていた……あんなすさまじい【カウンター】に出会ったのは初めてだ」


 レナはため息をついた。


「――殿下、ひさしぶりに『本気』で試合をしませんか?」


 カミーラが言った。


「本気で……?」

「あなたの迷いを、あたしが晴らしてごらんに入れます」

「……ほう」


 レナがニヤリと笑う。


「面白そうだな」




 二人は剣を手に対峙した。


「あたしが本気であなたと戦ったのは、あの時以来ですね」


 カミーラが遠い目をして述懐する。


「……二年前の模擬戦か。あれは真剣での戦いと同等……いや、それ以上の内容だったな」

「あの戦いで、あたしはあなたに圧倒されました。あなたこそが騎士団長にふさわしいと――言葉ではなく剣で納得させられました」

「はは、君がいきなり私に騎士団長の職を譲りに来たときは驚いたよ」


 レナが笑う。


「同時に、生半可な気持ちで受けることはできないとも思った。君が今まで背負ってきた重さを、今度は私が背負うのだから」

「殿下……」

「それまでは周囲から姫騎士などと持てはやされ、正直少しだけ浮かれている部分もあったと思う。それが君のおかげで引き締まった」


 レナはカミーラに一礼した。


「感謝している。今でもずっと」

「ふふ、あたしは自分よりも団長にふさわしい人間に職を譲っただけですよ?」

「重責を背負わせ、私を引き締めようという意図もあったんだろう? 君はそういう女だ」


 レナがフッと笑った。


「私などより、ずっと先を見通しているよ」

「買いかぶり過ぎです」

「買いかぶりなものか。今だって――」


 レナは剣を構えた。


「私の迷いを断ち切るために立ち会ってくれるんだろう?」

「久しぶりに剣を交えたくなっただけですよ。ただの気まぐれです」


 言って、カミーラも剣を構える。


 そう、彼女は昔からそうだ。


 自分の手柄をひけらかさない。


 さりげなく手を差し伸べ、いつも自分を支えてくれる。


「君に報いるためにも――私はこの一撃に己の魂を込めよう」

「いざ」


 そして――二人は同時に突進する。


「はあああああああああああっ!」


 カミーラが大剣を振り回し、嵐のような連続攻撃を見舞う。


 が、レナは慌てない。


 そう、あのジルダのように落ち着いて後手に回り、冷静に相手の斬撃を見極め、いなす。


「くっ……!?」


 すさまじい連撃をことごとくレナに防がれ、カミーラの表情にわずかな焦りがにじんだ。


 その隙を逃さず、レナが反撃の一撃を放つ。


「【聖銀燐光剣セレスティアルブレード】!」


 ボウッ!


 王家の聖なる力を剣に宿し、爆発的に破壊力を高めて放つレナ必殺の斬撃――。


 きいいんっ。


 澄んだ音と共に、カミーラの大剣が跳ね飛ばされた。


「参りました」


 カミーラは深々と一礼する。


「――なるほど、彼は私の剣をこのように見ていたのだな」


 レナは今の攻防で手ごたえをつかんでいた。


 自分がなぜ攻略されたのか。


 なぜ完封されたのか。


 その一端を、今の攻防で見いだせた気がしたのだ。


「攻撃が通じない焦り――あのときの私もそれに囚われていたのだ。ならば」


 まずは、それを消すこと。


 防がれても乱れない。


 いなされても動揺しない。


 そんな鋼の精神を――。


「私は、それを目指す」


 レナは力強く宣言した。


「ありがとう、カミーラ。やはり君は、いつだって私に道を示してくれる」

「それは違いますよ、殿下」


 カミーラが微笑む。


「道を示したのではありません。あなたが自らの力で見つけ出したのです。そして切り開いていくでしょう。あなたなら、きっと」

「そのつもりだ。だから、これからも私を側で支えてくれ、カミーラ」


 レナは手を差し出した。


「頼もしき副団長。そして我が尊敬すべき友よ」

「もちろんです、レナ様」


 カミーラがその手を握る。


 二人の女騎士は微笑を交わし、そして歩き出した。


..5 次の相手は天才魔術師




 俺が転生してから10日が経った。


 レナとの鍛錬を含め、騎士団での訓練を繰り返し、『対剣士』の戦闘に自信を深めた俺は、次に王都の魔法学院へと足を運んでいた。


 ここはバレルオーグ王国随一の魔術師育成機関であり、貴族や王族から平民まで魔法の才能を持つ者が幅広く集う場所だ。


 広大な敷地に入ると、そびえ立つ白亜の塔が前方に見えた。


「ここなら、魔法攻撃の【カウンター】を試すのにちょうどいい。推薦してくれたレナに感謝だな」


 あの後、俺が【カウンター】の練習相手を求めていることを告げると、彼女は『なら、魔法学院に行くのはどうだ?』と勧めてくれたのだ。


 魔法学院は選ばれた人間しか敷地内に入れないため、特別に彼女が推薦状を書いてくれたのだ。


 おかげで俺はこうして学院を訪れることができた。


「対魔術師……剣士が相手とはきっと勝手が違うはず。俺の【カウンター】はどこまで通じるかな……」


 つぶやきながら、俺は笑顔で正門をくぐった。


 不安よりも期待や楽しみの方がずっと大きかった。




 俺は【魔法反射】のスキルを持っている。


 王立騎士団の訓練場には『対魔法戦闘』用の訓練用具もあるんだけど、それは魔導機械からランダムに魔法攻撃が撃ち出されて、それに対応する――という感じの訓練だ。


 それはそれでいいんだけど、やっぱり実際に人間の魔術師が撃ってくる魔法を相手に訓練しておきたかった。


 で、正門をくぐった俺は、そのまま校舎に続く並木道を進んでいく。


「ここまで来たのはいいけど、どうしよう?」


 俺は校舎を前にして立ち止まった。


 生徒や教官に勝負してもらうとして、どう話を持っていけばいいのか――。


 俺の悪い癖なんだけど、出たとこ勝負のノープランで来てしまったのだ。


 勢い任せというか、前世でもそれで何度か失敗しているんだけど……悪い癖ってなかなか治らないよな。反省。


 と、


「あなた、面白いスキルを持っているのね」


 突然、すぐ横で声がした。


「――!」


 気配も何もなく、俺にも反応できなかった。


 慌てて振り向くと、そこにいたのは学院の制服姿の少女だった。


 透き通るような銀色の髪と、理知的な光をたたえた碧色の瞳。


 年齢は十代半ばだろうか。


 彼女のことも俺は知っている。


 レナ同様、ゲームのメインヒロインの一人だ。


 名前はマルグリット・ヴァーライン。


 この魔法学院で首席を務める超実力者だった。


「お前、俺のスキルが分かるのか?」

「探知系魔法で一通りサーチしたわ。あなたがあのレナ殿下を圧倒した、っていう評判は知っていたから」

「あ……評判になってるんだ」

「妙なスキルを使うようね。その詳細までは知らなかったから興味があって――」


 マルグリットが俺を見つめる。


「……なるほど、【カウンタ―】なのね。でも単なる【カウンタ―】程度でレナ殿下が敗北するなんて信じられないわ。私が知る限り、あの方は王国の――いえ、大陸でも最強レベルの剣士だもの」


 確かに、レナはゲーム内でも近接戦闘ならトップ3に入る性能だからな。


 最強レベルの剣士という評価で間違いない。


「でも、あの方が認めて推薦してきたなら、あなたの実力は本物ということでしょうね」


 と、マルグリット。


「ただ、それは――あくまでも対剣士の話。対魔術師となれば、話は変わってくるわ」

「だろうな」


 うなずく俺。


「遠距離攻撃ができる魔術師は、剣士に比べて攻撃射程において圧倒的なアドバンテージを持つ。離れた距離からの戦いなら、魔術師が絶対的に優位なんだ」

「そう、普通は剣士は魔術師に勝てない。これが原則」


 マルグリットが言った。


「もちろん、それを覆すことのできる例外的な強者も存在するわ。たとえばレナ殿下はその筆頭ね。そして――」


 彼女の目がスッと細くなった。


「あなたも、かしら?」

「試してみるか?」


 俺はマルグリットに言い放った。


 最強剣士の次は最強の魔術師を相手に、俺の【カウンタ―】がどこまで通じるのか。


 俺自身、試してみたい。


「――いいわ」


 数瞬の後、マルグリットはうなずいた。


「あなたの【カウンタ―】が私の魔法に通じるかどうか――興味があるもの」


 言うなり、マルグリットは詠唱を始めた。


 ――って、ここで戦うのかよ!?




「【アイシクルランス】」


 マルグリットの前方に無数の氷槍が出現した。


「さて、あなたはこれをどうするのかしら?」

「レナのときと同じだ」


 俺は剣を抜いた。


「俺に攻撃した者は負ける」


 対剣士戦闘の時と同じく、自然体で剣をだらりと下げる。


 構えは必要ない。


 体が勝手に反応し、自動的に受け流し、相手に攻撃を跳ね返す。


 俺の【カウンタ―】とその派生スキルは、きっと魔法が相手でも同じように発動するはずだ。


「だから――信じて待ち構える」


 自分を、信じて。


 そしてこのスキルを信じて。


 それは――前世の俺には至れなかった境地だ。


 だって、サラリーマンだったころの俺は本当に凡庸な人間でしか仲たからな。


 人より秀でたものなんてない。


 上司からは怒られ、顧客からは詰められ、ただ見下され、虐げられるだけの日々。


 自分の力で道を切り開く、なんて人生とは無縁だった。


「でも、今は違うんだ」


 俺は強大な力を得た。


 この力があれば、俺は突き進んでいける。


 自分の人生を切り開いていける。


 悪役として滅びる運命なんて、撃ち破ってやる。


 まだ転生して一週間も経ってないけど、俺の中には強い意志が宿り始めていた。


「だから――お前にだって負けない。さあ、来い」

「いい顔になったわね」


 マルグリットが微笑む。


「それでこそ戦い甲斐がある――ならば、いくわよ!」


 ひゅんっ。


 氷の槍が一斉に動き出し――、


 ひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅひゅひゅひゅんっ!


 次の瞬間、別々の角度からすさまじい勢いで撃ち出される。


 剣士との戦いではあり得ない、遠距離から一方的の攻撃されるシチュエーション。


 剣士との戦いではありえない、圧倒的な手数。


 これを剣でさばけるのは、確かにレナのような超一流の剣士だけだろう。


 俺の反応をもってしても、剣でこれを防ぎ、跳ね返すのは無理だ。


「そう――剣で、ならな」


 俺はニヤリと笑う。


 ヴ……ンッ。


 次の瞬間、前方の空間が大きく歪んだ。


【魔法反射】発動――。


 同時に、


 ばしゅんっ!


 その歪んだ空間に触れた氷の槍は、ことごとくが方向転換し、マルグリットの方に向かっていった。


「えっ!?」


 驚くマルグリットの足元に、氷の槍が次々に突き刺さる。


「っ……!」


 あと数センチで直撃、というくらいにきわどい場所に、無数の氷の槍が突き立っていた。


「――よし!」


 俺は思わずガッツポーズした。


 単に魔法を反射するだけじゃなく、相手に当てないギリギリの場所にコントロールして叩きこむ。


 ここまでできないと、今みたいな戦いで相手を殺しかねないからな。


 もちろん、相手が魔族とか敵キャラなら容赦なく倒すが。


..6 天才魔術師を完封する(後半マルグリット視点)



「い、今のは何……!?」

「おい、あのマルグリットが魔法戦闘で負けた――?」

「あり得ない……彼女の攻撃魔法を反射するなんて……魔法でもスキルでも、そんなことが……!?」


 いつの間にか集まって来ていた生徒たちが、俺たちの戦いを見て驚愕の声をもらす。


「これが俺の【カウンタ―】だ」

「…………」


 俺の言葉に、マルグリットは沈黙したままだった。


 ジッと俺を見つめ、クスリと笑う。


「面白いわね」


 その顔には敗れた悔しさのような表情は浮かんでいなかった。


 キラキラした目で俺を見つめ、楽しそうな微笑を浮かべていた。


「ますます興味が湧いてきたわ。あなたのスキルをこれから研究させてもらうわね。私の魔法能力の向上にも、きっと役立つはず――」


 俺の顔を覗き込むようにして、マルグリットは話を続けた。


「そうね、まずは攻撃の反射速度やスキルの発動条件とか、いろいろと実験しなきゃ。そうね、あなたのことをこれから実験体1号と呼ぼうかしら」

「……俺は実験体じゃないんだが」

「1号じゃなくて、もっと別の番号がいい? 希望の番号を教えて?」

「いや、番号の問題でもねぇよ!?」

「私は知りたいのよ。あなたの力の根源を」


 マルグリットの目は燃えている。


「いつか私が魔法を極めるために――あなたは極上のサンプルになる。そんな予感がするの……!」


 どこまでも魔法の探求心が強い少女のようだ。


 うん、ゲームそのまんまだな。




 マルグリットに勝ったことで、他にも学院上位ランク――学園ランク2位から10位までのトップランクの生徒たち――と模擬魔法戦闘をすることができた。


 そのいずれもが、俺の【カウンタ―】の牙城を崩せず、完敗。


 あらゆる魔法を、俺は【カウンター】で返し続け、一方的に勝利し続けた。


 まあ、マルグリットの攻撃魔法が一番ヒヤッとしたかな。


 あれほどの手数と速度で攻撃してきたのは彼女だけだったから。


 で、【カウンタ―】にしても相手を殺さないように、少しだけ外れた場所に攻撃を返す、っていう調整も完璧。


 対剣士だけじゃなく、対魔術師においても【カウンタ―】は無敵の威力を発揮することを確認できた。


    ※


 SIDE マルグリット




 ジルダが魔法学園にやって来て、学園上位の猛者たちを蹴散らした、その翌日――。


 ここは王立魔法学院、演習塔の最上階だ。


 床には巨大な魔法円が描かれ、輝きを放っている。


 その中心部に銀髪の美しい少女が立っていた。


 この学院の首席にして『天才』の名をほしいままにする彼女はマルグリット・ヴァーライン。


 すでに各国の魔法師団から、卒業後はぜひ入団してほしいと勧誘が殺到しているエリート中のエリートだった。


 そして、どの国であっても入団すれば、数年以内には幹部にまで上り詰めるだろうとささやかれていた。


 が、王立学院の逸材はマルグリット一人ではない。


 彼女の『首席』の座を狙い、己がナンバーワンにならんと野心に燃える者たちもいた。


「今回の『首席試験』の課題は複合属性の同時多重制御だ。模擬戦形式でそれぞれが複合属性魔法で戦い、その内容で序列を判定する。形式はバトルロイヤル戦――はじめ!」


 教官の声が響いた。


 同時に、マルグリットを含めた十人の生徒がいっせいに杖を構える。


 この十人が現在の学園ランキング上位十名である。


 全員で戦い、あらためて上位の序列を決定する。


 それが半年に一度行われる学園上位者対抗戦――通称『首席試験』だった。


 現在の学園ランキング1位はマルグリットだが、他の九人も当然その座を狙っている。


 彼らの顔はいつにもまして闘志にあふれていた。


「今日こそお前からトップの座をもらうぞ!」

「勝つのは私よ!」

「いや、俺だ!」


 学園トップを目指す気持ちと、そして昨日ジルダに敗れた悔しさ――その二つの相乗効果で、彼らの闘志は最高潮に達していたのだ。


「……私だって負けられない」


 マルグリットの言葉に熱がこもった。


 ごうっ!


 ばしゅんっ!


 早くも生徒たち同士で魔法攻撃が火花を散らす。


 さすがに学園トップ10の猛者たちだけあって、高難度の複数属性魔法を軽々と操っている。


 が、それはマルグリットも同じことだ。


「【火炎】【雷撃】【水流】」


 三つの属性を同時に操り、マルグリットはそれらを束ねてより強大な魔法エネルギーとして放つ。


「【トライデントブレス】」


 ごおおおおおおおおおおおっ!


 さながらドラゴンブレスのような輝きが演習塔内を照らした。


「うあっ……」

「きゃあっ……」


 防御魔法が間に合わず、三名の生徒が一気に戦闘不能になった。


 ――この塔内には安全措置として防御結界が何重にも敷かれているため、大怪我するようなことはない。


 ただし魔法攻撃を受けると、そのダメージ数値が結界内で自動的に計算され、生徒に割り振られている『ライフポイント』が減っていく。


 ポイントが0になった時点で戦闘不能と判定され、模擬戦脱落となる――。




 模擬戦開始から十五分。


 早くも七名の生徒が脱落となった。


 残ったのは学園ランキングのトップ3――首席のマルグリット、2位のアンリ、3位のミスト。


 実力上位が順当に残ったといえる。


「マルグリット・ヴァーライン……飛び級で上がってきた天才だからって、いつまでもいい気になるなよ」

「お前の天下もここまでだ。今日こそ俺がナンバーワンになる……!」


 アンリとミストがライバル心をむき出しにして吠えた。


「首席の座にこだわりはないけど、私は魔法の勝負では誰にも負けない。負けるつもりはない」


 マルグリットは淡々と言った。


 彼女の中にあるのは、闘志とは違う感情だ。


 首席の座を守るためではない。


 彼女はただ確認したいだけだ。


 自分が最強であることを。


 それは――学問において正答を探す行為に似ている。


 マルグリットは、自分が学園最強の魔術師だと考えている。


 その考えが、見立てが、判断が、正しいのかどうかを知りたい――。


『答え合わせ』をしたい――それだけの感情だった。


「かかってくるなら、どうぞ。私も、答えが知りたいから」

「「なら、遠慮なくっ!」」


 二人は同時に叫び、攻撃魔法を発動した。


 炎と雷、氷と風。


 二つの属性を組み合わせて威力を倍加させた攻撃魔法は、並の生徒が放つそれとは一線を画している。


「【トライデントウォール】」


 しかし、マルグリットは三種の属性を合わせた魔力の盾で、それらをあっさりと防ぐ。


「くそっ、三種属性同時魔法を、こうも簡単に――」

「あなたたちは他の生徒たちより強いから、これで終わらせる」


 マルグリットは杖を掲げた。


 詠唱を、始める。


 今までの相手は無詠唱で十分だったが、さすがにこの二人だけは別格だ。


 また、常に全力でこちらに挑んでくる彼らに敬意を表したくなった気持ちもあった。


「これが私の全力――六趣複合多重増幅魔法ヘキサグラム・イグニッション

「馬鹿な! 六つの属性を同時に操るだと!?」

「ありえない……本当に人間かよ、お前――!」


 ごうっ!


 マルグリットが放った一撃が、一瞬にして二人のライフポイントをゼロにした。




 演習を終えたマルグリットは、一人で塔の屋上に向かった。


 今は休憩時間だ。


 屋上に出ると、風が彼女の銀髪を揺らす。


 眼下には広大な敷地と点在する校舎や施設があった。


 その光景を見下ろしながら、マルグリットは昨日の出来事を思い出す。


 あの不思議な剣士――ジルダ・リアクトとの出会いを。


「私の魔法を完封してみせた、あの【カウンター】……興味深いわね」


 この学園で、彼女の魔法に対抗できる存在はいない。


 やはりジルダは特別なのだ。


「また、会いたい……」


 胸の中に芽生えた熱は、高揚感となってマルグリットを包んだ。


 トップクラスの生徒たちとの模擬戦も、それなりの高揚感はある。


 けれど、ジルダとの対戦はやはり違う。


 彼だけが特別なのだ。


『答え合わせ』としての戦いではなく、もっと別の気持ち――。


 不思議な熱が芽生えている。


「また、会いに行こうかな……」


 マルグリットの口元に笑みが浮かぶ。


 芽生えた熱の正体がなんなのか。


 闘争心なのか、探求心なのか。


 あるいは――。


 その正体を知りたくて。


 マルグリットは屋上から降りる階段へと向かった。


「待っててね、ジルダ」


 微笑み交じりに歩くマルグリットの足取りは軽い――。


..7 無双の日々



 魔法学院に行った翌日以降、俺はまた王立騎士団で訓練に励んでいた。


 対剣士と対魔術師をそれぞれ経験した後は、とにかく『場数』を踏むことだ。


 正統派だけじゃなく、トリッキーな相手との対戦もやってみたいな……。


 などと考えていると、


「見たか? また来てるぞ」

「あいつがレナ殿下を完封したって騎士か」

「それだけじゃない。魔法学院首席で将来は筆頭宮廷魔術師が確実って言われているマルグリット・ヴァーラインにも勝ったらしい」

「剣でも魔法でも完璧に【カウンタ―】を決めるんだとか……」

「なんでそんな奴が中級なんだよ……強すぎるだろ……」


 周囲からの注目は一日ごとに増している気がする。


 まあ、悪い気はしないけど――慢心はしない。


 なにせ俺は死亡ルートを背負った『ジルダ・リアクト』なんだからな。


 もっと強くならなければ……それしかない。


 生き延びるために。


 この世界で幸せに生きていくために――。


 と、


「はっ! 見つけたぜ、噂の小物ってやつを」


 一人の青年が歩いてきた。


 燃えるような赤い髪を逆立てた威圧的な男だ。


 豪華な金の刺繍色の服に高価そうな装飾品をジャラジャラとつけた、いかにも自分の裕福さを誇示しているような雰囲気だ。


 赤いマントを付けているが、安いコスプレ感があって似合っていない。


 おそらく貴族だろう。


 ゲーム内にこんな奴はいなかったからモブか、あるいは――。


「貴様がジルダとやらか」


 彼は高圧的な口調で言った。


「……あなたは」


 いちおう一礼しておく。


「カロルド・ルーゼルバイト。あの国内三大貴族の一つ、ルーゼルバイト侯爵家の次期当主だ。くくく……」


 カロルドは傲慢な態度で言い放った。


 三大貴族……か。


 その辺りの設定は詳しく知らない、というか、ゲーム内でそこまで設定されていないかもしれないな。


 ともあれ、こいつが大貴族の息子だということは分かった。


 その大貴族様が、俺になんの用だろう――?


「噂で聞いたが……貴様、いい気になってるんだってな?」


 カロルドが俺をにらんだ。


「レナ殿下に勝ち、魔法学院の天才マルグリットにも勝ち……さぞかし鼻が高いだろう? 俺こそが最強だと自慢して回ってるらしいな? なぜ俺が上級騎士じゃないんだと不満だとか?」

「そんなこと、一言も言ってないんだが」


 思わずツッコんでしまった。


 どうやら変な噂が流れているらしいな……。


 まあ、目立ってしまうと嫉妬されたり、やっかまれたりするものなのかもしれない。


「だが、俺はだまされんぞ。お前が二人に勝ったのは、何かの小細工だろう?」

「えっ」

「どう見ても強そうには見えんからな。貴様は本当はただの雑魚! それがつまらん小細工を仕掛けて、レナ殿下とマルグリットに勝ったにすぎん! その化けの皮を、この俺が剥がしてやろう」


 ばさり、と赤いマントを跳ね上げ、カロルドは言い放った。


「王国剣術大会で栄光の27位に入った、この俺の剣で――な!」


 微妙な順位だ!


「悪いけど、俺は強い奴と戦って訓練したいので……」

「何っ!? 貴様、逃げる気か!」


 カロルドが叫んだ。


「逃げる気はないけど――俺に攻撃したら負けるぞ、お前」

「ほざけ」


 カロルドは剣を抜いた。


「ならば貴様に決闘を申し込む! 俺の実力を見せつけてやるわ!」


 ちゃきっ、と剣の切っ先を突きつけ、叫ぶカロルド。


「場所は王城の中庭! 武器は自由で、形式は一対一! どうだ?」

「まあ……決闘を申し込まれたんなら、いちおう受けるけど……」

「決まりだな! 王国剣術大会27位の力に震えるがいい!」


 だから微妙な順位だって、それ。


 ――こうして俺は貴族カロルドと決闘することになった。


 うーん……それより訓練がしたい。


..8 貴族との決闘でも完封する



 王城の中庭は色とりどりの花が咲き誇る庭園が続いている。


 ただ、その中の一画はこれから整備予定ということで、土がむき出しだった。


 地面が硬く、剣戟を繰り広げるのにはちょうどいい面積だ。


 実際、ここはしばしば決闘に使用されるんだとか。


 一説には、そのためにあえて整備せずに残してある、なんて話まであるほどである。


「決闘……か」


 その区画の中央で、俺は剣を手に立っていた。


 訓練用の剣をだらりと下げた、いつもの自然体の構え。


 対するカロルドは装飾の多い、派手で見栄えのする剣を手にしている。


 いかにもコイツらしい武器だった。


 周囲には大勢のギャラリーが集まり、注目度は高そうだ。


「思ったより騒ぎになってるな……」


 俺はため息をついた。


 目立つのは好きじゃない。


 とはいえ、振りかかる火の粉は払わなきゃいけない。


「くくく、この観衆の中で大恥をかかせてやるからな!」


 カロルドが剣を大上段に構えた。


「もう一度言っておくけど――」


 俺はこともなげに告げる。


「攻撃したら、お前は負けるからな。最後の警告だ」

「ほざけ!」


 カロルドはジリジリと近づいてきた。


 そして、


「きええええええええええええええええええええっ!」


 絶叫とともに走り出した。


【突進】のスキルで加速してくる。


 といっても、レナの【縮地】に比べたら、全然遅い。


 しかも俺には【神速反応】があるから、なおさら。


「スローモーションどころか止まって見えるな」


 軽くため息をつく俺。


 そして――。


「ぐほぉぉぉぉんっ!?」


 次の瞬間、カロルドの体は軽く吹き飛び、地面に転がった。


「よし、いい感じに反射できたぞ」


 ここ数日の練習で、剣士相手の【カウンタ―】は思いっきり吹っ飛ばさず、軽く吹っ飛ばす程度の反射に抑えることができるようになっていた。


 毎回思いっきり吹っ飛ばしてたら、相手を怪我させちゃうからな。


 レナとの対戦のときは、まだこの加減ができなかった。


 幸い彼女の身体能力が化け物じみていたから、怪我をさせずに済んだけど――。


 その反省から身に付けた手加減のコントロールだった。


 上手く行ったようで一安心だ。


 いくら決闘を挑まれたとはいえ、大貴族の息子に大怪我させてしまったら、さすがに処罰されるかもしれないからな。


「おい、大丈夫か?」


 俺はカロルドに歩み寄った。


 軽く転んだ程度の吹っ飛ばし方だし、大きな怪我はしていないはずだけど――。


「ふ、ふざけるな……!」


 カロルドは怒りで顔を紅潮させて立ち上がった。


「い、今のはマグレだ! いや、きっと何か仕掛けがあるんだ! 例の小細工だ! 俺はだまされんぞ!」

「いや、綺麗に俺のスキルが決まって吹っ飛ばしたじゃん」

「うるさいうるさーい!」


 カロルドは意固地だった。


 あるいはプライドなんだろうか。


「偶然は二度続かん! きえええええええええええええええええええっ!」


 ふたたび【突進】するカロルド。


 ばしーん。


 当然のごとく【カウンタ―】で吹っ飛ばした。


「おのれええええ、きええええええええええ」


 三度目の【突進】。


「はい【カウンタ―】」


 ばしーん。


「お、おのれ……おのれぇぇっ……」


 まだ諦めないのか。


「あ、でも、だんだんヨタヨタになってきてる……」

「きえええ……ぐはっ」


 はい、また【カウンタ―】。


 その後も、奴が起きては【カウンター】、また起きては【カウンター】という攻防を十回くらい繰り返した。


「……なあ、そろそろ負けを認めてくれない……よね?」


 俺は呆れ気味にたずねる。


「当たり前だ!」


 なおもカロルドは立ち上がった。


 いくら軽く吹っ飛ばしているだけとはいえ、ダメージは蓄積する。


 それでも立ち上がれるのは大したものだった。


「きえええええええ……!」


 後は失敗や敗北から学習してくれれば、言うことないんだけどな。


「きええええ……はあ、はあ、ぜいぜい……」

「さすがにバテたか」

「ち、ちょうどティータイムが来たようだ。続きはまた今度だな!」

「えっ、またやるの?」

「ティータイムは貴族のたしなみ! では、さらばだ!」


 言い放ち、さっそうと去っていくカロルド。


 なんだったんだ、あいつ……。


..9 暗殺者ルシアの襲撃




 その日の夜。


 決闘でカロルドに勝利し、騒ぎが一段落した後は、また定時まで自主訓練を行い――今、俺は宿舎のベッドで横になっていた。


「うーん、今日も一日がんばったな」


 サラリーマン時代なら家に帰るとヘトヘトで後は寝るだけだったんだけど、今は違う。


 目標が定まっていることや、自分の成長を実感できる人生は楽しく充実している。


 そのおかげか、疲労感はあっても、何もやる気力がなくて寝てしまう、という生活にはなっていない。


 今もこうして横になっていても、次はこういう訓練をしようとか、こういう戦法を試せないか、など……自分が成長するためにどうすればいいのかを考え続けていた。


 それが、楽しい。


 前世ではこういう感覚を味わったことは一度もなかった。


 どうやら明確な目標があると、人生はまったく違う色どりを持つらしい。


 とりあえず最強の姫騎士レナ、魔法学院の天才マルグリットの二人に勝ち、その他にも多くの騎士や魔術師を【カウンタ―】で完封してきた。


 えっ、カロルド?


「あいつはまあ……はい」


 思わず口に出してつぶやく俺。


 それはそれとして――、


「明日からどうしようかな」


 剣士とも魔術師とも、もっともっと実戦経験を積むべきか。


 あるいは騎士じゃなく、たとえば冒険者みたいな生活も経験しておくべきか。


 うん、いいかもしれないな、冒険者――。


 と、そのときだった。


「……?」


 ふいに空気が揺らぐような感覚があった。


 単なる自然現象ではなく、攻撃的な気配――いや殺気が近づいてくるような肌感覚。


 俺の中の何かが『危険に備えろ』と警告してくる。


 すぐにベッドから降り、かたわらの剣を手に取った。


 油断なく警戒しながら、剣を鞘から抜く。


 ほぼ同時に、


 ばきいっ!


 窓枠を破壊しながら黒い影が部屋の中に飛び込んできた。


 暗闇の中から何かが迫ってくる――見えないけど、本能がそう察知する。


 ばしんっ!


 次の瞬間、俺の【カウンタ―】が発動して、相手を吹っ飛ばしていた。


「きゃあっ」


 短い悲鳴は若い女の声だった。


「な、なぜ――あたしの攻撃を察知できた……!?」


 月明かりがその姿を照らす。


 短めの銀髪に猫耳。


 可愛らしい猫の獣人だ。


 手にしたナイフは黒く塗られていて、闇の中ではまず視認が不可能だろう。


 そして、忍者を思わせる黒装束は明らかに――、


「暗殺者……?」


 と、そこで彼女の顔をあらためて見つめ、ゲームのメインキャラクターの一人であるルシアだと気づいた。


「どうして俺を狙ってきたんだ?」


 俺は彼女に剣を突きつけた。


「くっ……」

「答えてくれ、暗殺者ルシア」

「……!」


 猫のような縦長の瞳が大きく見開かれた。


 なぜ、あたしの名前を知っている――そう言わんばかりに。


「まあ、暗殺者が依頼主のことを話せるわけもないか」


 と、苦笑する俺。


 その態度の変化を『隙あり』と見たのか、いきなりルシアの体が跳ね上がった。


 一体いかなる体術なのか、完全に倒れた姿勢から体のばねだけを使って異常な速度で起き上がり、俺の背後に回り込みながら、黒いナイフで攻撃を仕掛けてくる。


 普通の人間ならもちろん、たぶん一流の剣士や騎士でも反応不可能であろうトリッキー極まりない体術、そして攻撃。


 ばしーんっ!


「だけど、関係ないんだよな。反応できなくても勝手に対応できるから」


 俺はまた苦笑した。


 その視線の先には、先ほどのように【カウンタ―】で床に叩きつけられ、ひっくり返ったルシアの姿がある。


「な、なぜ……あたしの必殺の攻撃が――」

「暗殺者って、騎士たちとは全然違う攻撃スタイルなんだな。勉強になったよ」


 と、ルシアに一礼する俺。


「……なぜ、あたしを殺さない。お前の力なら簡単だろう」

「降りかかる火の粉は払うけど、殺すつもりはない。俺は自分の身を守ることができれば、それでいいんだ」


 俺は淡々と説明した。


「ただ、どうして俺を狙ったのかは気になるな。教えてくれ、お前は――」

「ぐっ、この屈辱は必ず晴らす――」


 ルシアは一瞬にして十メートルほど後方まで移動していた。


 さっきと同じく予備動作ゼロの移動体術だ。


 モーションがないので、動きがまったく読めない。


 レナやマルグリットとはまた違うベクトルでの強者だった。


「次こそは、必ず殺す……待っていろ、【カウンタ―】使い……!」

「ジルダだ。俺はジルダ・リアクト」

「……!」


 ルシアは燃えるような目で俺をにらむと、そのまま姿を消した。


..10 暗殺者ルシアがしつこく襲撃してくる


 で、その翌日。


 宿舎を出て、訓練場に向かう道の途中で、


「――!」


 いきなり殺意が出現する。


 昨日の今日でまた狙ってきたのか、ルシア。


 ばしーん!


 が、俺には例の【神速反応】があるから問題なし。


 体が自動的に反応し、ルシアを吹っ飛ばした。


「ううう……完璧に気配を消したはずなのに」

「確かに気配は感じなかったけど、『殺気』みたいなものを攻撃直前に感じたぞ?」


 俺はルシアに言った。


「な、なんだと……」

「お前、自分で思っているほど気配を消せてないんじゃないか?」

「っ……!」


 指摘すると、彼女はギクッとしたように表情をこわばらせた。


「ば、馬鹿な、なぜお前が師匠と同じ助言を!?」

「師匠にも言われたんだ……」

「……そうだ。あたしは完成された暗殺者だが、唯一、対象への殺意を抑えきれない瞬間がある、と。それがいずれ、あたしの命取りになるかもしれない、とも――」


 ルシアは悔しげに俺をにらんでいる。


「なぜだ――ただの雑魚にしか見えないお前が、なぜあたしの尊敬する師匠に重なる……うぐぐぐ」

「いや、俺はそんな大層な人物じゃないが……」

「つ、次こそは必ず! 覚えていろ!」


 ルシアはまたノーモーションで起き上がり、さらにノーモーションで敗走していった。


「うーん……また明日あたりに来るのかなぁ」


 俺はポリポリと頬をかいた。




 で、その翌日、またルシアが襲ってきた。


「――!」


 殺気がいきなり出現し、ルシアが暗殺を仕掛けてきたことを知る俺。


 ちなみに前回とは違い、訓練の休憩中の出来事だ。


 周囲には騎士が数名いて、こんなタイミングで襲ってくるとは思わなかった。


 まさに『まさか』という心の隙をついた襲撃――敵ながら見事だ。


 ばしーん。


「きゃあっ!?」


 まあ、なんにしろ全部【カウンタ―】で返すんだけど。


「あ、あっぶなー! 刺さったら死ぬところだった……」


 と、ルシアは俺の前方で冷や汗をかいている。


 その足元には無数の針が突き刺さっていた。


 なんらかの攻撃が来たら、いちおう本人に当てないように跳ね返すよう、意識している。


 それが上手くいったみたいだけど――。


「刺さったら死ぬ? もしかして毒針とか?」

「……そうだ。中級ドラゴンでも殺せるほどの希少な毒をたっぷり塗りこんだ。人間なんて、かすっただけで即死だ」

「……当てなくてよかったよ」

「自分の心配より、あたしの心配か?」


 ルシアが眉を寄せた。


「【カウンタ―】で人をむやみに殺したくないだけだよ」

「ぐっ、なんて男だ、貴様は……!」


 ルシアの全身が震えている。


 やっぱり、彼女みたいな暗殺者には、こういう戦い方は屈辱なんだろうか。


 でも、俺は殺したくないんだよな。




 そして、さらに翌日。


 ばしーん!


 殺気出現からの【カウンタ―】発動。


 もう、お決まりのパターンになりつつある。


「げほげほげほ……」


 ルシアはせき込んでいた。


「煙玉もダメか……」

「それ、毒とか入ってないのか? 吸い込んだよな?」

「普通の人間にとっては毒だが、あたしは訓練して耐性ができているから平気だ。お前が吸い込めば、昏倒するはずだったのに……」


 煙をも跳ね返す俺の【カウンタ―】。


 うん、また一つスキルテストができたぞ。




 さらに翌日、俺が大通りを歩いていると屋根の上から急襲してきた。


 頭上は人間にとって絶対の死角だ。


 そこから不意打ちされたら一たまりもない――。


「かーらーの」


 ばしーん!


 いつもの通りの自動【カウンタ―】で、あっさりと吹っ飛ばした。


 さらに翌日は通行人に変装して襲って来たけど、また自動【カウンタ―】。


 そのまた翌日はレストランのシェフに化けて、俺に毒料理を盛ってきたけど、体が勝手に毒を察知して食べる前に皿を処分。


「にゃああああああ……これでも駄目なのぉぉぉぉ……」


 どうやら、その作戦には自信があったらしく、シェフの格好をしたルシアがその場に崩れ落ちた。


「なあ、いい加減に諦めたら……」


 さすがに可哀そうになってきた。


「う、うるさいうるさーい! 今度こそ殺してやるんだからねっ!」


 ツンデレヒロインみたいでちょっと可愛い感じの台詞だけど、中身が物騒すぎる……。


「こ、こうなったら――」


 ルシアがキッとした顔で俺をにらんだ。


 お、今度は直接攻撃で来るか?


「しばらくお前に張り付いて観察してやる。研究だ!」

「へっ?」

「研究が終わったら殺してあげるんだからねっ!」

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