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異世界への招待状 おじさんはそれなりにがんばる  作者: りのぺろ
第七章 開拓・脅威の胎動編
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第65話 ハムスター諜報部隊と不穏な影

陽だまりの村の朝は、いつも穏やかな鐘の音と共に始まる。

一年前、ただの広場にテントを張っていただけの場所には、今やウェスリーが設計した重厚な石造りの時計塔がそびえ立ち、規則正しいリズムを刻んでいる。周囲にはドワーフの建築技術と俺の地球の知識が融合した、断熱性抜群のログハウスが整然と並び、各家庭の煙突からは朝食の準備を告げる香ばしいパンの匂いや、肉を焼く食欲をそそる香りが漂っていた。

俺は、見張り台の最上階で冷めかけたコーヒーを啜りながら、視界の右上に透過表示されている「共有マップ」を注視していた。かつてはただの白地図だったそれは、今や地形、罠の設置場所、そして味方の位置を完璧に把握できる戦術モニターへと進化していた。


あるじよ、朝から随分と熱心じゃのぅ。せっかくの美味いコーヒーが冷めておるぞ」


隣で大きな欠伸あくびをしたヴァイスが俺の肩を叩いた。一年前よりもさらに白銀の毛並みには艶が増し、その立ち振る舞いには森の守護者としての圧倒的な風格と余裕が備わっている。だが、その鋭い瞳は、俺と同じようにマップの「ある一点」を射抜いていた。


「ああ。最近、森の境界付近の空気がどうも落ち着かなくてな。……おっと、現場から報告が入った」


俺の肩に乗ったハムが「きゅきゅっ!」と短く、そして鋭く鳴いた。

これはハムがこの一年で組織した「ハムスター諜報部隊(H.I.S.)」の緊急サインだ。ハムのスキル『配下強化』によって、知能と機動力を極限まで高められた森のリスやネズミ、小鳥たちが、村の周囲数キロメートルを網の目のように監視しているのだ。


「ハム、状況を。北の街道付近か?」


「きゅっきゅ! きゅきゅきゅきゅきゅ!」


ハムが小さな前足で、マップ上に表示された深い森の一点を指し示す。そこには、普段なら魔物しか通らないはずの険しい獣道を、規則正しい隊列で移動する複数の「赤い光点」が静かに、だが確実に動いていた。


「……待て。ログを遡る。……やはりおかしいぞ」


俺はマップの履歴を数分前まで高速で巻き戻した。指先が止まる。

ここはフェンリルであるヴァイスが支配する森の最深部。周囲には強力な魔物が生息し、さらにヴァイスが展開する認識阻害の結界によって、普通の人間なら入り口を見つけることすらできずに命を落とす「不可侵の聖域」なのだ。


「この赤い光点……最初は外部から移動してきたんじゃない。村の居住区、リリィたちが住む家の影から突如として出現してるじゃないか。ヴァイス、村の中にネズミが紛れ込んでいたぞ」


「なに? ……フン、道理で今朝は鼻の奥がツンとするような妙な臭いがしおると思ったわ。どうやら『瞬間テレポート』の使い手のようじゃな。魔力を抑え、姿を隠して村の懐深くまで直接潜り込んでいたというわけか」


ヴァイスが鋭い視線を村の外、赤い光点が密集する森へと向け、殺気を微かに漏らした。

どうやら暗殺者ギルドの工作員たちは、村の中でいきなり暴れる無策は選ばなかったようだ。村の中心部で不意打ちを仕掛ければ、即座に俺やヴァイス、そしてプリンの全戦力に囲まれ、退路を断たれて一網打尽にされる。

それを恐れた彼らは、テレポートを使って一度「村の外」へと離脱し、地形が複雑な森の中へ俺たちを誘い出し、各個撃破する算段なのだろう。


「なるほどな。地の利がある森の中で伏兵を敷き、俺たちを釣り出すつもりか。一年前、ヴェントのアジトを壊滅させた俺たちを奴らなりに相当分析してきたみたいだな」


「ククク、小賢しい真似をしよるのぅ。主を狙う前に、まずは我らの庭を土足で汚した罪、骨の髄まで後悔させてやらねばならんな?」


ヴァイスの言葉通り、俺たちもこの一年、ただ平和にパンを焼いていたわけじゃない。レベルの数値こそ劇的な変化はないが、ヴァイスとの夜は地獄のような毎日(訓練)と、数多の魔物狩りによって、身体能力の出力とスキルの精度は格段に跳ね上がっている。

ヴァイス曰く、俺はスキルに対して技量が足りてないらしかった。レベルもある程度は大事だが技量もかなり大事だ。とのことだ。そこへ階下から、変化したプリンがひょっこりと顔を出してこっちへとやってきた。


「リリィと子供たちは?」


「プリンが分裂体を引き連れて、地下シェルターの入り口で遊ばせてるのぉ~♪。万が一の時は、即座にあるじの影の中にみんなをポイポイッて潜り込ませる手筈てはずだよぉ~♪」


青いロングヘアを揺らすその姿にクイーンスライムとしての威厳は……相変わらず微塵も感じられない。だが、その体内にある魔力量は一年前とは比較にならないほど濃密だ。プリンはプリンで、エネルギーの塊である子フェンリルたちと毎日のように「じゃれあい(実質的な超高速模擬戦)」を繰り広げてきた成果だ。


「よし。ウェスリー、防衛設備の状況は?」


俺は胸元の魔道具(トランシーバーをウェスリーにどのようなものかを説明してウェスリーが開発したもの)に指を当てた。

『ムクノキさん! 外周の「ゴーレム・バリケード」は起動準備完了です! 潜伏していた連中はテレポートで外に出たようですが、計算通りですよ。森の隠し罠も、ボルガンさんに打ってもらった対人用の特製ボルトも、全てあいつらの熱源に照準を合わせてあります!』


「了解。全員、持ち場へ。……暗殺者ギルド共は村に入る事なく帰ってもらおうか」


内部から崩そうとした甘い考えが、どれほどの致命傷になるか。

俺は「能力3倍強化」をあえてオフにしたまま、静かな怒りを腹の底に沈めた。そして、森へ逃げた工作員たちの背後を、彼らの「死角」から刈り取るべく、濃くなった影の中へと音もなく沈み込んだ。


そして戦闘は始まる。森の静寂を切り裂くように、鋭い金属音が響いた。


「ギギッ……標的、確認。陽だまりの村……殲滅せんめつを開始する」


村の外周に現れたのは、黒いフルフェイスの兜に身を包んだ、異様な姿の男たちだった。その腕は鈍い銀色の輝きを放ち、関節からは魔力の光が漏れ出している。

神の言っていた「システムの不具合」を悪用したのか、あるいは禁忌の魔導技術か。彼らは魔物と人間を融合させた「改造人間キメラ・ヒューマン」だった。


「うげっ! 趣味が悪いな。暗殺者ギルドもいよいよ後がないのか?」


俺は木々の影から、リーダー格と思われる男の背後に姿を現した。


「! 背後――ッ!?」


男が振り向くよりも早く、俺はボルガンさん特製の「魔銀ミスリル製投げナイフ」を放つ。ナイフは風遮断のスキルを纏い、音もなく男の肩の関節を貫いた。


「ガッ……!? 損傷軽微……自己修復を開始……」


「自己再生持ちか。ブラックドラゴンの時を思い出すな」


男の傷口がシュウシュウと音を立てて塞がっていく。だが、その速度は俺の「超再生」に比べれば鈍い。


「ヴァイス! 左の3人を任せた! プリンは村の正門を死守!」


「任せるのじゃ! 疾走しっそう――トルネード!」


ヴァイスが白い閃光となって森を駆け、改造人間たちを暴風の中に巻き込む。


一方、正門前ではプリンが奮闘していた。


「こっちに来ちゃダメなのぉ〜! ウォーターガン・マルチショット!」


プリンが十体に分裂し、それぞれが強化された水魔法を放つ。その威力はもはや大砲に近く、突撃してきた改造人間たちの装甲を次々と砕いていった。


「きゅっきゅー!」


ハムも負けてはいない。応援に駆けつけたハムスター部隊が、改造人間の足元に潜り込み、装備の継ぎ目や配線を「捕食」スキルでガリガリと噛み砕いていく。


「な、なんだこのネズミは!? 魔力回路が食い破られて……ッ!」


戦況は圧倒的にこちらが有利だった。ウェスリーが作った自動迎撃の弩弓バリスタが正確に敵を射抜き、森の地形を知り尽くした俺たちが死角から確実に仕留めていく。

だが、俺の「気配察知」が、さらに深い森の奥から来る「もっと巨大で不吉な魔力」を捉えた。


「……本命はあっちか」


その時、視界の左上にメールのアイコンが激しく点滅した。管理者(神)からだ。


―――――――――――――――――――――

緊急連絡だよー☆

ごめん、やっぱりシステムの不具合じゃなくて

「誰か」が故意に書き換えてる!

その改造人間、北のザイリアにある「古い装置」

の影響を受けてるみたい。

悪いけど、村の防衛が終わったらすぐに北へ向

かってくれないかな?

案内人(神)より

―――――――――――――――――――――


「ザイリア……。確か最後の四大都市か」


俺は手首に結ばれた、少し色褪せたリリィ手作りのミサンガを見つめる。村を守り、そして世界の異変を止める。どうやら俺のスローライフは、もう少し先になりそうだった。


「ヴァイス、プリン! サクッと片付けるぞ! 次は旅行の準備だ!」


「合点承知じゃ!」


「おでかけなのぉ〜♪ がんばるのぉ~♪」


「だがまずは巨大で不吉な魔力のあいつを何とかするぞ!」

執筆開始しました。皆様お待たせしました。だけど、内容をだいぶ忘れてしまっています。どうしようw

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