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異世界への招待状 おじさんはそれなりにがんばる  作者: りのぺろ
第六章 四大都市ヴェントの街
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第58話 作戦会議

熱気冷めあらぬその夜。王都の裏路地にある古びた酒場の一室で、ムクノキとブランクは向かい合っていた。ブランクはすでにシーフの軽装ではなく、ヴェント隠密部隊の機能的な黒装束に身を包んでいる。


「改めて礼を言う、ムクノキ殿。引き受けてくれて感謝する」


「気にするな。子供が攫われていると聞いて、黙ってはいられないだけだ」


テーブルの上には、アジトの見取り図と、暗殺者ギルドの幹部たちの情報が広げられていた。


「敵は手強い。少なくとも、俺が確認しただけでも幹部クラスが5人。いずれもかなりの手練れだと思う」


「おそらく問題ないだろう」


ムクノキは静かに答えた。



**



表彰式前の事に遡る。


「どうじゃ? 思ったより楽だったじゃろ?」


「そうだな。ブランクは確かに速かったけど、動きは見切れた。最後だけ3倍を使って試したが、あれはオーバーキルだ。加減を間違えたら危なかったな」


「うむ。主の動きは日々の鍛錬で洗練されてきておる。無意識下での体捌きが噛み合ってきた証拠じゃ」


ヴァイスはそう評価しつつも、鬼教官らしい鋭い指摘を忘れない。無意識下ってなんだ? まぁいい。気にしないでおこう。


「じゃが、最後の能力3倍強化。あれはまだ完全に制御しきれておらぬな。力に振り回され一撃が大きくなりすぎた。暗殺者の称号があるんじゃから、もっと静かに確実に仕留めるべきじゃったとは思うがのぅ」


「耳が痛いな。でも、その通りだ」


俺が苦笑していると、何故かスライムになっていたプリンがぷるぷると震え、人型に変化した。


「あるじぃ、すっごくかっこよかったのぉ〜♪ ぴゅーん! ってなって、どーん! だったねぇ〜☆」


興奮気味に身振り手振りで俺の動きを真似るプリンの頭を撫でる。


「ありがとうプリン。ヴァイスの言う通りまだ課題は多い。でも今の俺なら、大抵のことには対処できる自信がついたよ」


そこで俺は一呼吸おいて、二人の顔を真剣な眼差しで見た。


「それで、二人には話しておかないといけないことがあるんだ。実は、さっきの試合中にブランクからある依頼をされた」


俺は、試合の最中にブランクと交わした密談の内容――攫われた孤児院の子供たちのこと、そしてその裏にいる暗殺者ギルドの存在をヴァイスとプリンに掻い摘んで話した。そして、その依頼を引き受けたことも。


話を聞き終えたプリンは、人型の姿のまま俺の服の裾をぎゅっと握り、潤んだ瞳で訴えかけてくる。


「こどもたちが……ひどいのぉ……。あるじ、ぜったい助けてあげるんだよねぇ〜☆」


「ふむ……暗殺者ギルドか。厄介な連中じゃが、主が決めたことならば我に異存はない。むしろ実戦としては格好の相手じゃのぅ。腕が鳴るわ」


ヴァイスは不敵な笑みを浮かべ、頼もしい言葉を返してくれた。


「ああ、ありがとう。二人ともそう言ってくれると思ってた。相手がどれだけの手練れでも、きっと大丈夫だろう」



**



時は戻って現在。


「では、作戦を言うぞ?」


その自信に満ちた態度に、ブランクは頼もしさを感じる。


「作戦はこうだ。俺が陽動として正面から突入し、敵の注意を引きつける。その隙に、君に内部に潜入してもらい、捕らわれている子供たちを救出してもらう」


「あんたが陽動か? ちょっと危険すぎるんじゃないのか?」


「俺の隠密スキルは知っての通り逃走に特化している。それに部隊長の俺が囮になるのが、最も奴らを油断させられるだろうと思うのだが」


ムクノキはしばらく見取り図を眺めていたが、やがてペンを手に取ると、いくつかの場所に印をつけた。


「これを見てくれ。これなら作戦を変更しても良いんじゃないか?」


「何?」


「その前に、陽動はするのは前提だ。だが、もっと安全で確実な方法がある。あんた一人に危険な役回りをさせる必要はない」


ムクノキがそう言うと、ヴァイスとプリンが文句を言ってきた。


「我等も参加するぞ? いいじゃろう?」


「参加したいよぉ~」


突然のことに驚くブランクに、ムクノキは説明を続ける。


「紹介がまだだったな。俺の頼れる仲間のヴァイスとプリンだ。潜入は俺とブランク、そしてこの二人、全員で行う」


ムクノキは自らのスキルを指差した。


「俺のスキルの影移動とマップ共有を使えば、全員が敵に気づかれずに内部へ入れる。俺が見た景色をあんたに共有できるし、俺たちの影がある場所になら自由に移動できる」


ブランクは息をのんだ。そんな規格外のスキルがあるとは。


「そして、ここからが本番だ。ヴァイスは俺の従魔で、その戦闘能力はそこらの騎士団長を凌ぐ。陽動が必要なら、ヴァイスが最適な攪乱を行えば完璧だろう」


「ふん、主よ。攪乱ではない殲滅じゃ」


自信たっぷりに言うヴァイスに、ブランクはゴクリと喉を鳴らす。


「プリンは回復魔法が使えるし、いざとなれば分裂して子供たちを安全に誘導することもできる」


「まかせてなのぉ〜☆」


プリンが胸を張って応えた。


「つまりこうだ。俺とヴァイスが先行して敵の戦力を無力化。ブランクとプリンが子供たちを救出、保護する。全員が影で繋がってさえいれば、連携も情報の共有も完璧にできる。これなら、敵に発見されるリスクを最小限に抑えつつ、確実に子供たちを救い出せる」


それは完璧な潜入・救出作戦だった。暗殺者ギルドの鉄壁の警備網を、まるで存在しないかのように突破し、無力化する計画だ。


「……とんでもないな、君は。そして君の仲間たちも」


ブランクは呆れたように笑い、そして力強く頷いた。


「分かった。その作戦でいこう。決行は明日の深夜。月が最も闇に隠れる時間だ」


「了解した」


二人は固い握手を交わした。トーナメントの優勝という栄光は、すでに過去のものとなっていた。


「そうだ、ブランク。一つ頼みがある」


俺は握った手を離すと念を押すように言った。


「俺のスキルのことだが……特に『影移動』や『マップ共有』については、他言無用で頼む。あまりに規格外すぎて余計な面倒を呼び込みそうだからな」


ブランクは真剣な表情で頷いた。


「承知した。隠密部隊長として情報の重要性は理解している。君の秘密は必ず守ると約束しよう。君のような協力者の存在は我々にとっても切り札だ。無用な形で広まるのは避けたいからな」


その言葉に、俺は静かに頷き返した。

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