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異世界への招待状 おじさんはそれなりにがんばる  作者: りのぺろ
第六章 四大都市ヴェントの街
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第50話 路地裏の出会い

大会への出場を決めたものの、予選まではまだ三日ある。俺たちは特にやることもなく、ヴェントの街をぶらぶらと散策していた。ヴァイスは相変わらずの人混みに参っているようだったが、美味い串焼きで機嫌をとりつつ露店が並ぶ通りを歩く。


「それにしても、ここもいろんなものがあるんだな。あの雑貨もいいな。おっ、この串焼き美味いな……」


俺は独り言を言いながらキョロキョロと辺りを見回していると、プリンが何かを見つめていた。そして何を言う訳でもなく、いきなり路地裏へと走っていったので声をかける。


「ん? どうしたー? プリンー?」


「なんかあの子、泣いてるのぉ」


俺とヴァイスはプリンの後を追った。するとそこで一人の小さな女の子がそこでしゃがんで泣いていた。プリンはその子の頭へ手を乗せて「なでなで」して困ってる様子だった。


「どうした? 大丈夫か? もしかして、迷子になっちゃったとか?」


俺がなるべく優しい声で話しかけると、女の子はびくりと体を震わせ涙で濡れた顔を上げた。その手には古びたパンが一つだけ握られている。


「……パン、落としちゃったの。お腹がすいてる子がいるのに……」


見ると、女の子の足元には泥だらけになったパンが転がっていた。きっと孤児院かどこかの子で、みんなの分の食事を運んでいたのだろう。


「そっか。そりゃ大変だったな。それなら俺が代わりにパンを買ってやる。だからもう泣くな」


「お人好しじゃのぅ。主は」


ヴァイスが呆れたように言うが、困っている子供を見捨てるなんてできない。中身がおじさんだからなのかな? そういう事にしておこう。


「ほ、本当?」


「あぁ。だからちょっとついて来い」


俺は女の子の手を引き、近くのパン屋で焼きたてのパンをいくつか買ってやった。ついでにプリンが食べたそうにしていた果物もいくつか購入する。


「ありがとう、おじちゃん!」


……oh。おじちゃんて。いや、中身はおじちゃんだからアレなんだが、外見はお兄ちゃんなのになぜ!?


「お兄ちゃんな! お兄ちゃん!」


パンを受け取った女の子は、ようやく笑顔を見せてくれた。


「私、リリィ。よかったら、みんなにも会ってほしいな。お兄ちゃんのこと紹介したい!」


うーん。どうしようかな。あまり関わりすぎるのも⋯⋯と考えていたら、リリィは俺の服の裾をくいくいと引っ張ってきた。断る理由はないか。俺たちはリリィに案内されるまま、古びた建物が立ち並ぶ地区へと足を進めた。

そしてたどり着いたのは小さな孤児院だった。建物は古く、あちこちが傷んでいる。俺たちが中に入ると数人の子供たちが駆け寄ってきた。


「リリィ、おかえり!」


「その人だあれ?」


リリィが事情を説明すると、子供たちは俺とヴァイス、そしてプリンを興味津々な目で見つめた。特に、少し大きいヴァイスには少し怯えているようだ。しかしプリンは子供たちにかけ寄りじゃれつき始めた。そしてスライムに戻る。すると、すぐに緊張は解けた。


「わー!」


「スライムだ!」


「かわいいー!」


プリンはあっという間に子供たちの人気者になった。ヴァイスは最初こそ『鬱陶しい』とでも言いたげな顔をしていたが、一人の男の子がおそるおそる尻尾を少しだけ触らしてもらうと、満更でもない様子で目を細め、やがては子供たちの格好の遊び相手(というか巨大な尻尾クッション)になっていた。


「みんな、とりあえずは馴染めたかな。案外いけるもんだな」


俺は院長だという心優しそうなシスターに挨拶をし、ギルドで得た報酬の一部を寄付した。そして、買ってきたパンと果物を子供たちに振る舞う。子供たちは目を輝かせながらパンを頬張った。


「このパン美味しい!」


と歓声を上げた。その無邪気な笑顔を見ていると、俺の心まで温かくなるのを感じた。



**



それから三日間、俺たちは毎日孤児院に通った。

ここぞとばかりに地球の知識を活かして、木の枝を地面にぶっ刺して適当なもので輪っかを作り簡単な輪投げを作ってやったり、あやとりを教えたりすると子供たちは夢中になって遊んでくれた。


「おぉ。以外とハマってくれる子どもが沢山いるもんだな」


ヴァイスは尻尾に掴まってきた子どもをブンブン振ったり、プリンは一緒に鬼ごっこをしたりと、孤児院は毎日賑やかな笑い声に包まれた。


そして、大会前日の夕方のことだった。子供たちが、何かを隠しながら俺の元へやってきた。


「おじちゃん、これ!」


「だからお兄ちゃんだって……ってこれは?」


リリィが差し出したのは、不格好だが、一生懸命編まれた小さなミサンガのようなお守りだった。


「おじちゃんが大会で勝てるように、みんなで作ったんだ!」


「怪我しないでね!」


子供たちの真っ直ぐな瞳に、俺は思わず目頭が熱くなった。


「……ありがとう。みんな! お兄ちゃん(・・・・・)、がんばるよ」


「「「「お兄ちゃんっぽくないのにねー! いいじゃんねーおじちゃんでも! なんでこだわるんだろねー? 不思議だねー? わかんないねー?」」」」


俺は華麗に子どもの言った事はスルーし、そのお守りをしっかりと手首に結んだ。もっとこの子たちに、美味しいものを腹一杯食べさせてやりたいが今はこれ以上はどうしようもない。賞金があれば新しい服や、壊れた屋根を直してあげれたんだがな。



**



そして、運命の日は訪れた。

ヴェントの街の中央にそびえ立つ巨大な闘技場は、割れんばかりの歓声に包まれていた。熱気と興奮が渦巻く中、俺は選手入場口に立っていた。隣にはヴァイスとプリン。そして手首には、子供たちの想いが詰まったお守りのミサンガ。


「主よ。無様な姿を子供たちに見せるなよ」


「分かってるさ。やるからには、それなりにがんばらないとな」


「えいえいお~!」


とプリンも力強く応える。まわりにはゴツい人がわんさかいて俺より弱いとしてもやっぱり少し怖気づく。

そうこうしているうちに時間となり司会者の高らかな声が、闘技場に響き渡った。


「さあ、出場選手の入場です! 今年の栄冠は誰の手に渡るのか!? スクラップ・コロッセオ闘技大会、ここに開幕!!」


観客の大歓声に迎えられ、俺はヴァイスとプリンと共に、決戦の舞台へと一歩を踏み出した。俺のちょっと格好つけた戦いが、今始まろうとしていた。

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