第49話 四大都市ヴェントの街
ついに目的地の四大都市ヴェントの街に到着した。
目の前に広がる光景に、俺は思わず息をのむ。これまで訪れたキリスの街などとは比べ物にならないほど巨大な城壁がそこにはあった。
そしてひっきりなしに出入りする人々と馬車の列。活気という言葉だけでは表しきれないほどの熱気が、街全体から立ち上っていた。
「す、すごいな……。これがヴェントか。ちょっと俺には場違いかもしれん」
「すごい人がいるねぇ~♪」
プリンが少し興奮したように言った。対照的に俺の隣を歩くヴァイスは、その瞳をわずかに細め鼻をひくつかせる。
「これだけの人間と獣の匂いが混じり合っては、気分が悪くなるのぅ」
何を今更。魔物の大群の時よりは良いでしょうに。
「飯は期待できそうだから後で行ってみようか。ヴァイスさん」
「なんでもかんでも我を食い物で釣ろうとしないでほしいのぅ」
おっと。言い返されてしまったな。憎まれ口を叩きながらも、ヴァイスが尻尾を微かに揺らしているのを俺は見逃さなかった。
街門をくぐり中へ入ると、人の波はさらに勢いを増した。石畳の広いメインストリートの両脇には、武器屋、防具屋、道具屋に飲食店と、ありとあらゆる店が軒を連ねている。その喧騒に、俺は少々気圧され気味だった。
「こりゃ……下手に動く前に、とっとと宿を確保するのが先決だな」
これだけの人がいるのだ。宿が満室という最悪の事態も考えられる。俺はヴァイスとプリンに声をかけ、まずは宿を探して歩き始めた。
案の定、宿屋はどこも「満室」だった。
「やっぱり? 広い通りのとこは空いてないよね。人多すぎですもん」
「ないなら外で良いんじゃないかのぅ」
「ヴァイスは地球産の飯が食いたいだけな気がするが?」
「まださがす~?」
そんな会話をしながらもさらに宿を探す。いくつかの宿に断られ、少し焦り始めた頃、大通りから一本入った路地で、比較的落ち着いた雰囲気の宿を見つけた。
幸いなことに、この宿は空いていた。何故かというと、少し値が張るせいだからであった。だがラスト一部屋だったので、即決。俺は胸を撫で下ろし、いつものように1週間分の宿代を払った。通された部屋は清潔で、これまでの旅の疲れを癒すには十分すぎるほど快適だった。
「ふぅ……。まずは一安心だな」
ベッドに腰を下ろし、俺は少し休憩をする。プリンはベッドの上でぽよんぽよんと跳ね回っていた。ヴァイスはベットに寝そべり、ふぁあ、と大きなあくびをして目を閉じていた。
「少し休憩したらギルドに行くぞー」
「わかっておる」
「は~い♪」
そして、一息ついた俺たちは冒険者ギルドへと向かった。目的は、森で討伐したゴブリンやオークの換金だ。
ヴェントの冒険者ギルドも、その規模はキリスのギルドの比ではなかった。三階建ての巨大な石造りの建物で、中には屈強な冒険者たちがひしめき合っている。
「汗ばんだ冒険者だらけじゃん……。めちゃくちゃ濃いな。やっぱ売るのやめる?」
「何を言っておるのだ主よ? 少しずつでも売っておいた方がよかろう。お金はいくらあっても困らんじゃろう?」
「そりゃそうなんだけどね」
俺は少し気後れしながらも、受付嬢に魔物の買い取りをお願いする。受付の女性は、次々と質の良い素材を出すことに驚きの表情を浮かべたが、問題なく換金作業は完了。
「よしよし。一気に懐が潤ったぞ!」
ほくほく顔でギルドを後にしようとした、その時、ギルドの中央にある巨大な掲示板に、ひときわ大きな羊皮紙が貼られているのが目に入った。
「なんだろ? 見に行ってみるか?」
「そうじゃのぅ。気にはなるのぅ」
興味本位で人垣の隙間から覗き込むと、そこにはこう書かれていた。
【開催決定! スクラップ・コロッセオ闘技大会! 力自慢、腕自慢の者たちよ、集え! 優勝者にはなんと! あのスキルオーブが! さらに名誉もゲット出来ちゃいます! 出場お待ちしております!】
「あぁ、これか。道中の冒険者が言ってた大会は。にしても名誉って……」
異世界アニメの定番といったらそうなんだが、まさか本当にこれに出る事になるとはなぁ。俺なんかが参加するような場所じゃないんだがな。
まぁがんばってみるかなーと思って、何気に周りを見てみる。
周りの連中はゴリゴリの猛者がうようよいた。こ、これは俺みたいな普通のおじさん(中身だけ)が出るところじゃ……。
「なに怖気づいているんじゃ? 主よ。こっそり鑑定してみるといいぞ」
「ん? どういう事だ? とりあえず鑑定」
名前:ゴリマッチョ
職業:冒険者【武道家】
LV:7
HP:76 MP:0
ATK:47 DEF:19 MAG:0 SPD:14
スキル一覧
武術
……余裕だった。名前はスルーしよう。そうしよう。最初の頃に鑑定したエリンというAランクの冒険者の方が強いじゃん。
「よく考えてみるんじゃ。今まで我の訓練を受けてきて、さらに魔物を数えきれん程に討伐してきた主が、普通である訳がなかろう?」
ヴァイスの言葉に俺はハッとした。
確かに地球にいる頃の俺とは違う。それは俺でもわかってはいる。だが俺はこの世界ではヴァイスにめちゃくちゃ鍛えられ? 殺されかけられ? 魔物を押し付けられ? いくつもの死線? を乗り越えてきた。多分……
「これは……異世界アニメでよくあるチート無双が出来るかも?」
「なんじゃそれは?」
「ちぃとぉちぃとぉ♪」
そして俺は冒険者ギルドを出て、羊皮紙に書いてあった特設カウンターへと人垣をかき分けてその場へと足早に向かった。
「あの、すみません。出場登録をお願いします」
受付の担当者は、俺の姿を見て一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに手続きを進めてくれた。名前を書き、参加費を払う。従魔であるヴァイスとプリンもルール上問題なく、一緒に参加できるとのことだった。
「登録を完了しました。予選は三日後です。お忘れなく」
「おぉぅ。以外とギリギリだったんだな」
「危なかったのぅ」
「わ~い♪」
参加者用のカードを受け取り、俺はカウンターを離れた。周りの冒険者たちが「なんだあのヒョロ男」「場違いじゃね?」とヒソヒソ話しているのが聞こえるが、気にするだけ無駄だと思った俺はスルーをする。
宿への帰り道、俺は空を見上げ片手を上げた。
「ヴァイス、プリン。やるからには全力だぞ! 対戦する時も手を抜いたらダメだからな!」
「当然じゃ。無様な戦いをしたり、我以外に負けるような事があれば、またレベル上げするからのぅ?」
「主もがんばれ~♪ プリンもがんばる~♪」
え? 下手に負けられない事になったぞ? これはやばいのでは?
とにもかくにも厳しい相棒と、愛らしい相棒からの激励を受け、俺の胸には不思議な高揚感が満ちていた。
今週の更新はここまで。ようやく3つ目の四大都市まで書けました。
それではまた来週~♪
いつもより内容を詳しく書いてみましたが、ここまで書くのは大変ですね。
ウェスリー「ちょっとぉ! 1週間も宿取らないでくださいよー! 自分もそっちに行きたいです~」
ムクノキ 「あ……存在忘れてた」




