第33話 国王からの褒美決め
プリンの分裂スキルを確認した俺達はそれからすることもなく、その日はそのまま眠りについた。朝になってもボルガンさんはまだ帰っていなかったので街をぶらぶらしようと家を出てのんびりしていた。ほどなく街の中心に着いて見てまわっていると
「おぉ~そこにおる人間のお前さん、この酒どうじゃ? 買ってかんか?」
「あ、いえ、結構です」
「おぉ! ちょいとそこにいる兄さん、この銀食器どうじゃ? かっこいいじゃろう? 買っていかんか?」
「間に合ってます」
めっちゃ話しかけられるんですけどぉ! めんどくさいんですけどぉ! なんでだ!
と思ったが、俺とヴァイスはこの街では背がめちゃくちゃ高く見えるから声かけられるんだな! しかも俺はここでは珍しい人間だしな。
「観光ができそうにない」
「最初だけじゃろうがのぅ」
俺だけか? こういうのを気にしているのは。
「せっかくのドワーフの街なんじゃ。質のいい剣を探すとか鍛冶師にオーダーメイドの剣を頼むとかしなくて良いのかのぅ?」
確かにヴァイスの言う通りだな。ドワーフの街に来たんだ。このまま帰るわけにはいかんよな! 剣を探すか鍛冶師か。どうせなら腕のいい鍛冶師を探してみよう。そろそろまともな武器が欲しいのだ!
「腕の良い鍛冶師はどこにいるのかちょっと探してみようか」
そして俺達は鍛冶屋を武器屋へと向かったのであった。
「すいませーん」
「はいはーい。まだ納品の品は出来ていませんよー。って、あれ? お客さんだ! しかも人間じゃないか」
ボルガンさんよりちょっと小太りなドワーフさんが出てきた。
「ちょっと聞きたい事がありまして…この街で一番腕のいい鍛冶師さんはどなたですか?」
「そりゃあんた、ボルガンさんじゃ」
おっと? この街で唯一知っている名前が出てくるとは思わなかった。
「え? そうなんですか? あ、この投げナイフください」
「まいど。ボルガンさんよりいい剣を作るドワーフはこの世にいないとワシは思うぞ。ちょっと待っておれ」
そこまでなのか。ドワーフの街に来たついでにボルガンさんに作ってもらおうかな。断られるかな。
「ほれ。これがわしの一番最高傑作の剣じゃ。そして、こっちにあるのがボルガンさんの剣。しかもこれは失敗作らしい。失敗作でこれだ。持っただけでわかる。わしの腕とはえらい違いなんじゃよ」
「なるほど こっちとこっち……」
両方持ってみたがわからん!!!!!!! 見た目と持っただけでわかる訳ねえ!!!!!
アニメで「これは素晴らしい剣だ! 俺の体に吸い付くような……とか剣の重心が丁度いい……」とか言ってるやついるが、剣聖か何かのスキルでわかるのかあれは?
そういう事はプロに任せよう精神な俺じゃ駄目か?
「それじゃ、俺達は行きますね。お邪魔しましたー」
俺は武器屋からさっさと出た。ボルガンさんが帰って来るまで近くに飲食店があったので、そこへ俺達は入り、時間を潰していた。
「ムクノキどこじゃ! どこに消えおった!」
「あ、はーい! ここに居ますよー!」
ドタドタと走ってきた。ボルガンさんだ。
「ここにおったか。国王に伝えておいたぞ。確認が出来次第なにか褒美とか言っておったぞ」
「褒美とか、別にいいんだけどなぁ。あ、とりあえずなにか飲みますか?」
「おぉ、貰おう。じゃがそういう訳にもいかんと思うがの」
「考えておきますよ」
「頼んだぞ」
褒美かぁ。ほんとに今困ってる事ってそこまでないんだよなー。
「そういやボルガンさんって有名な鍛冶師だったんですね」
「有名かどうかは知らんが、鍛冶師ではあるぞ」
「俺に武器を作ってくれません?」
「それ相応の腕があるものだけにしか作っておらん。お前さん、腕はいいのか?」
「魔物に向かって剣を振ってるだけですね」
「この地下をうろつけるほどの腕なんだろうがな。どれ、ちょっと今からワシの家の庭で剣を振ってみろ」
俺達は飲食店を出てボルガンさんの家の庭にきた。俺は剣を取り出しボルガンさんに素振りを振ってみせる。
「ふむ。振る速度は申し分ないが、振った時の刃のぶれがあるな」
「そうなんですか?」
「刃がぶれると、切った時、どうしても刃がまっすぐに入りこまずにそのまままっすぐに切れない。つまり剣の横からぶれた事による力が入る。それで刃こぼれがおきやすくなるのじゃ」
「なるほど。それでしょっちゅう街に来る度に買わないといけない羽目になってたのか」
「そりゃ鉱物で、ある程度は強度も強くできるがの。当然刃こぼれもおきづらくなるが、結局は腕が悪いといくら質がいい剣を作ったとしても長持ちしないのじゃよ」
「つまり、俺の腕ではまだ無理だということか」
「悪いのじゃが」
まぁ俺自体、地球で剣道を習っていた訳でもない。こっちの世界に来てヴァイスの鬼特訓で剣を振り魔物を倒していただけの人間には無理だな。いくらレベルが上がったとしても器用さはレベル依存ではない、という事だろう。
「それにサンドワームの影響で鉱石が手に入りづらくなっておったからのぅ。無駄に消費できんのじゃよ」
あー、それも納得だな。無理で無駄な相談だったな。
「わかりました。無茶言ってすいません」
「いいんじゃよ。サンドワームの影響はお前さんのおかげでなくなったんじゃ。少し経てば鉱石の量が増えるじゃろう。その時はある程度質のいい剣は作ってやるわい」
「ありがとうございます」
「それと、ここから地上に出る時は道をワシが知っておるから案内してやる。地上に出る時はワシに言え」
ボルガンさんはそういうとそのまま家に入っていった。
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俺達は庭にまだ居た。
「なぁ。褒美どうする?」
「ボルガンさんは鉱物が増えれば作ってやるといっておるのじゃからそれ以外じゃろうのぅ」
「そうだな。そうなる聖剣……とかあったとしてそれを褒美ってのもな……うーん。それなら俺達の拠点とか? 建築士に頼む?」
「確かにずっと宿暮らしというのもな。といっても主よ。ドワーフの街が拠点になるのはちょっとジメジメして我は嫌じゃのぅ。我が子ものんびり暮らしていける場所が良いのぅ」
「別にここを拠点にとは言ってはいないんだが。俺のスキル、転移があるからフェンリル達の森にひっそりと家を建てるとか? ヴァイス達がいればそうそう襲われるような事はないんだろう? あ、そうなるといろいろと水回りとか資材とか食料とかどうするか」
「主よ。森に建てるのは我は構わんが、それよりも転移の事がばれてしまうぞ?」
「うーん。この際、俺達の仲間になってもらって開拓してもらう? とか? 仲間になってフェンリルの森に行けば帰る事すらままならないしバラすとかしないんじゃない?」
「主、帰ることすらとか言うでない。物騒な。しかし、建築士で開拓も出来る奇特なやつおるんじゃろうかのぅ」
「ま、だめなら褒美は最悪、金でいいか」
そして俺達も家に入っていくのだった。
え? 話を早く進めろって? 物語の進行上大事なんですよ。多分……
子フェンリル「「「「わんわんわん(僕らの出番が少なーい! ふやしてー!」」」」




