第24話 魔法無双
俺達は高台まで後数百メートル手前までやってきた。
「さて、今から魔物が押し寄せてくる。まず2匹体制、左奥と右中の戦略だが……」
俺は子フェンリル達にこう言った。
まずは後衛が魔法を放つ。ある程度前線が倒れたら前衛は物理で攻撃。不利になる前に下がる。また後衛が魔法を放つ。基本、子フェンリル達はその繰り返しだ。MPが2割になったら前衛後衛交代で繰り返しで行う。どっちもMPが2割になったら、二人共前衛だ。お互いをカバーしながら戦う。
「怪我をして動きが鈍いと感じたら2匹体制の所は即撤退してくれ。集合したのち全員でここから後ろに撤退する。飲み込まれる恐れがあるからな。」
「「「「「ワンワン! ガウゥゥ…」」」」」
「主よ。我らがその程度の魔物に傷を追わせられる訳がなかろう」
あぁ、そのガウゥ~なの? かわいい。
「万が一を考えて行動しないと何かあったら大変なことになるぞ? ヴァイスは子どもがやられてしまったらどうするんだ?」
「む…それはそうだが……」
そう。あくまでも万が一、剣と魔法と魔物の世界。何があっても不思議ではない。俺は少し慎重になりすぎなのだろうか?
「3匹体制の所 左中と右奥だな。そこは前衛2の後衛1でローテーション、繰り返しだ。精霊さんを安心させてあげよう!」
「「「「ワン!ガウ! ぷるぷる!」」」」
「では散開して各自できる限り殲滅! 頼んだぞ! っと! ちょっと待った。忘れてた。子フェンリル達に首輪をつけてやる。首輪の真ん中にはマナポーションを取り付けてある。どうしてもMPが必要な時、これを割るんだ! 前足で割れるだろう。そのマナポーションは飲まなくても微量のMPは回復するみたいだ」
「主は…過保護なのか何なのかわからなくなってきたのぅ」
子フェンリル達は首輪をもらって嬉しそうにしながら持ち場へと移動していった。
「さて、俺達も高台へ急ごう!」
「我には何かあるのかの?」
「ぷるぷるぷる?」
俺はそっと無視して先を急ぐことにした。なにか考えておこう。
**
高台へ着くと魔物が丁度その下に到着する頃だった。遠くでは魔物の叫び声が聞こえてくる。
「子フェンリル達大丈夫かな?」
「主よ。大丈夫じゃ。今は目の前の事に集中した方がいいと思うがのぅ」
「それもそうだな。良し、ヴァイス! 久々に火災旋風もとい、火炎旋風行くか! プリンは火炎旋風から逃れてくるやつをウォーターガンで倒すんだ! ただ、あまりMPは使うんじゃないぞ? 子フェンリルの怪我が治せませんじゃ意味ないからな!」
「ぷるぷるぷる♪」
「ここなら力を抑えなくても思いっきり撃てるのぅ」
魔力を練るヴァイスから大きな風が巻き起こる! そのタイミング俺も火球に魔力をさらに上乗せする。
「主! 準備が出来たぞ! 行くぞ! トルネード!!!!!」
「火球10連!!!」
「ブァアア!!! ゴォオオオオオオオオオ!!!」
いきなり目の前にトルネードの魔法を撃たれた魔物達は慌てふためくうちに風に足を取られ百数匹もの魔物が空中に浮く! そこへ火球は地面付近に10発飛来してくる! 着弾した後、上昇気流は二股に分かれて互いに逆方向に回転する1対の渦になる火はものすごい勢いでトルネードの風と合体した! あまりにも絶対的威力の前に対の渦が火を撒き散らして当たり一面火の海へと変わる。
「ええええ! ちょっとやりすぎた!?」
「主よ。火球10連とはこれまた豪華に放り込んだよのぅ。前は一つでもすごかったのに。魔物もこんな魔法撃たれたんじゃ、どうにもできんじゃろうのぅ」
やりすぎたか! と思いつつ魔法を放った奥を見てみると魔物がまだわんさかいた。
「これでもまだまだいるのかよ」
「ここには500近くいるっぽいからのぅ。だが200は倒したんじゃないかの」
魔法の効果がおさまってきた。焼け跡も悲惨だがその分匂いも悲惨な事になっている。
「ヴァイスの風の加護でこの匂いどうにかならない?」
「我は加護のおかげで匂いがひどくてもどうにかなっておるが、お主やプリンまでは効果はないの」
火も欠点があるよな。こればかりはほんとどうしようもないもんな。
「魔物がまた埋まってきてるな」
「魔力を練るには時間がないのぅ。ゴブリン戦の弱めのトルネードと火球1発ぐらいにしておいて後は物理でいくかの?」
「え? あれ、そんな弱めな感じの魔法だったの? でもまぁせっかくの高台。もったいないから弱めの火災旋風も喰らえ~♪」
的なノリになってしまった。だがオーガやオークは弱めの火災旋風ではさすがに倒れたりはしていない。だが、これで雑魚達は大方一掃できた。
**
その頃、子フェンリル達各部隊は
(いっぱい魔物がいるねー)
(言われた通りにやるよー こっちくんなー えーい)
(よーし。魔法いっくぞー! 離れてー! 風の刃~とりゃー!)
(あー! この魔物お肉まずいからきらーい! えい!)
(ねえねえ! こうたいしてー! 今度はぼくが前いくのだー)
(おりゃおりゃ~ 私の爪で切り裂けないものはないのだ~)
楽しそうにしていたのであった。
**
俺は高台で火球をひたすら放っていた。ヴァイスはトルネードで支援。さすがに魔物が多すぎて少しずつこちらに寄ってこられてきていた。
「ワンワン!」
「お? あそこにいるのは子フェンリル達じゃないか」
子フェンリル達が続々と西と東から中央に向かってやってきた。あらかた横に散らばった魔物は倒したってところか。これなら押し返せるかもな。
「俺達も行くか。プリンは盾に変形! ヴァイスは…まぁ暴れてくれ。行くぞー!」
ある程度魔物で弱らせたので俺達は魔物へと突っ込んでいった。時折外から飛んでくる矢の攻撃はプリンが弾き返してくれたりと、順調にダメージも食らう事はなく倒していった。
「ワンワン!」
「おっ! 順調か?」
「ワンワン!」
子フェンリルとも合流し、残りの魔物をひたすら倒していく俺達。
「主よ! 奥に少し強い魔物がいるが、我が倒すか? どうする?」
「俺が行こう! この中で俺達が一番弱いからな。少しでも強くなっておきたいし」
「わかった。我とわが子らでまわりの魔物は倒しておくからお主は先へ行って倒してこい」
「あいよ! 行くぞ! プリン!」
「ぷるぷるぷる♪」
プリンは元に戻って俺の頭の上に乗った。俺は隠密を使い見つからないように向かう。
すると俺達の視界に入ってきたのはオーガキングだった。
「あいつか、プリン、俺が先に火球で牽制するからウォーターガンを全力でぶち当ててくれ!」
俺は威力弱めの火球を放った。オーガキングはいきなり目の前に火球が出てきて慌てふためく。
「プリン! 今だ!」
「ぷるぷるぷる! バシューン……」
するとオーガキングは一撃で倒れてしまった。
「あ、あれ? 倒しちゃった? まぁいっか」
なんともしまりのない、まったくもってあっけない終わり方をした俺達であった。




