最終話:月下に契る
白銀の光が、静まり返った『癒やしの家』の庭をやさしく包み込む。
縁側に並んで腰かけるのは、凛夜とカガリ。
冥道との決着から一年が経ち、ようやく大きな被害を受けた国営陰陽機関・逢魔も復興の兆しを見せていた。
幾多の戦いと別れを乗り越え、ようやく訪れた二人きりの安息の夜だった。
夜風に揺れる木々の音さえも、静かな祝福のように感じられる。
カガリは、そっと凛夜の肩にもたれかかった。
頬にあたるぬくもりと、心地よい鼓動――確かにそこにある“生”の証。
「……幸せじゃのう。まるで夢を見ておるようじゃ」
カガリの声は、微かに震えていた。
凛夜は優しく彼女の肩を掴み、抱き寄せる。
「夢なんかじゃないさ。これは、これからも続いていく現実だ」
カガリは、安心したように瞳を閉じ、微笑みを浮かべる。
だが次の瞬間――ふと、言葉をこぼした。
「……凛夜様。……私は怖くなるのです。いつか、この幸せが終わる時が来るのではないかと思うと……たまらなく、怖いのです」
それは、かつて愛した者に裏切られ、妖魔へと堕ち、すべてを失った彼女だからこそ吐露できる言葉だった。
その声の奥に、長い孤独と喪失の影が揺れていた。
凛夜は、その不安を感じ取ったかのように、カガリの両肩を包むように握り、彼女の身体をそっと正面へと向かせた。
「凛夜……様?」
潤んだ瞳で凛夜を見上げるカガリ。
凛夜の目には、確かな強さと優しさが映っていた。
凛夜は、迷いなく告げた。
「終わらないさ。俺が、終わらせない。たとえ……何度死んで、何度生まれ変わろうとも、俺はお前を探し出して――何度でもお前を愛する」
カガリの頬を涙が伝う。
それは悲しみの涙ではなかった。
「……凛夜様……私もです。私も、何度でも貴方を……貴方だけを、愛します」
ふたりの指が、そっと絡み合う。
過去の哀しみも、未来への不安も、すべてを包み込むように。
凛夜は静かに囁いた。
「カガリ――ここに誓おう。永遠の愛を」
その言葉と共に、ふたりの唇が重なる。
静かな月明かりの下、凛夜は彼女を優しく、強く抱きしめる。
カガリもまた、その胸にすべてを預けるように、しっかりと抱き返す。
幾度も交わされるキスは、単なる愛情の証ではなかった。
絶望の中で出会い、絆を深め、救い合ったふたりが、命と魂を賭して結ぶ――唯一無二の誓い。
その夜、月はただ静かに、永遠の愛を見守っていた。
こうして、凛夜とカガリは――
月下に、永遠の契りを交わした。
これにて、月下に契る・完
これで【月下に契る】完結と相成ります。
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