表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/88

第七十九話:決着

――これが、「強さ」か。


打ち倒された凛夜とカガリは、地を這い、ようやく立ち上がろうとする。

だが、指先一つ動かせない。力は尽き、意識すら朧だ。


冥道――芦屋の血にして、修羅へと堕ちた男。

その歩みは、静かで、恐ろしいほどに揺るぎなかった。


「……ここまでか」


冥道は、呟いた。

その声音に、憎しみも怒りもなかった。

あるのは、ただ空虚。長き因縁、復讐、絶望の果てに立つ者の、終わりの声。


「これですべてが終わる……我の復讐も、この因果も……全て……」


凛夜は、立ち上がろうとする。しかし膝が砕けた。

カガリも、地を這おうとするが、思うように動かない。


(くっ……ここまでなのか……)

(凛夜……儂は……儂は……!)


ふたりの心が、闇に呑まれかけた、その時――


「……なに……やってやがる……バカ弟子ども……」


それは、虫の羽音ほどに小さく、かすれた声だった。

けれど、誰よりも強く、ふたりの魂に響いた。


「何を……見てやがった……」


美奈子が振り返る。

その声の主――紅明は、血に塗れたまま、意識を取り戻していた。


喋れる状態ではない。生きているのが不思議なほどの重傷。

それでも、紅明は「生きる」覚悟を、声に変えて放った。


「言った……筈だぜ……強さってのはな……覚悟だ……想いの……輝きだ……」


その言葉に、凛夜とカガリの脳裏に、数多の記憶が蘇る。


修行の日々。

師の背中。

そして、紅明が遺した教え。


「……覚悟を決めろ。絶対に……負けないって、そう決めたなら……!」


紅明は、再び沈黙する。

美奈子が手早く脈を診る。


「……大丈夫、生きてる……!」


紅明は、まだ生きている。

その命の輝きが、ふたりの心に灯を灯した。


(そうだ……何を諦めようとしてたんだ、俺は……!)

(儂は、また……同じ過ちを繰り返すところじゃった……! もう……二度と、諦めぬ!)


冥道は、そのふたりの変化を、黙って見ていた。

その瞳の奥――一瞬、何かが揺れた。


それは、かつて人であった者が、微かに抱く感情。

懐かしさか、羨望か、それとも……。


だが、冥道はそれを押し殺し、呪を紡ぐ。


「貴様らの“想いの輝き”とやら……見せてみるがいい」


その声が落ちると同時に、冥道の手が虚空に印を結ぶ。


「――下天燻りて天を望む。覇道渡りて、修羅へと堕ちる。

六道九相巡りて朽ちよ」


冥道の周囲に、黒雷が奔り、呪紋が空間を灼く。

その一語一句が、空間の理を裂いていく。


対して、凛夜とカガリも立ち上がった。

瞳は恐怖を超え、信念で燃えていた。


ふたりは声を揃えて、術を詠じる。


「――陰を転じて陽と成す、陽を転じて陰と成す。

木が燃ゆり、土を育み、金を生み出し、水が溢れる!」


冥道が、力ある言葉を放つ。


「――冥天外道ッ!!」


黒い光が咆哮のようにほとばしり、地を裂き、空を呑み込む。

この世ならざる力が、ふたりを襲う……その刹那。


「――七天滅殺ッッ!!」


凛夜とカガリの術が解き放たれた。

七つの理を司る術式が、天より降臨するかの如く冥道を包み込む。


凛夜の陽の気、カガリの陰の気が完全に調和し、ひとつの大術式として完成した瞬間――


光が、爆ぜた。


けれど、それは破壊の閃光ではない。

世界そのものを「浄化」する、静かな力だった。


空間が歪み、色彩が消え、音が止む。

すべてが収束し、静けさが訪れた。


そして、光が収まった。


そこには、凛夜とカガリが、並び立っていた。

ふたりの息は荒く、足元はふらついている。


その前方――血に伏している男が一人。


冥道だった。


もはや立ち上がる力も、術を紡ぐ力も、残ってはいない。

その瞳には……初めて、「終わり」が映っていた。


けれど、それは敗北ではなかった。

彼の中に生まれた、かすかな――“問い”。


冥道の瞳が、空を見上げた。


(……強さとは、覚悟……か)


(我が捨てたはずのものが、貴様らにはあったのか……)


凛夜とカガリが、ゆっくりと冥道に歩み寄る。

その心に、恐れも、憎しみもなかった。


あるのは、ただ――“人としての想い”だけ。


ここに、「決着」は訪れた。


だが、物語は終わらない。


冥道の中に残った、最後の“何か”。

それはやがて、運命の奇跡を導く鍵となる――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ