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第四十五話: ― 凛夜の章6 ―回りだす歯車

黄昏の邂逅、運命の序章


薄曇りの空。日が傾き始めた山道に、獣のような呻き声が響く。


「――くそっ、またか……!」


凛夜は鋭く息を吐くと、結界の札を次々と放った。

木々の間に潜んでいた妖魔が呻き、煙のように散っていく。


残りは――一体。


凛夜が気配を辿るよりも早く、奥の茂みから一条の火が走った。

真紅の閃光。人の手から放たれた術式が、妖魔を一直線に貫いた。


「――……誰だ?」


すぐに身構える凛夜の前に、ふらりと姿を現したのは、輝く銀の髪をなびかせる、一人の妖魔の女性だった。


白衣に似た羽織。古風な装束。

その手にはまだ、術の残光が揺れていた。


「お前……妖魔か」


「お主は陰陽師か? ふふ、しかしお主……妙に殺気立っとるな。そんな顔して戦っとったら、運すら逃げていくぞ?」


女の方は、にこにことした笑顔で、全く警戒していないようだった。


「……お前は誰だ」


「名乗るほどの者ではないが……ま、カガリじゃ。篝火の篝」


凛夜の眉が、わずかに動いた。


カガリと名乗るその少女は、妖魔の死骸に手を合わせると、

静かにその場に結界を張り、地面に残留した瘴気を清めていく。


それを黙って見ていた凛夜が、ぽつりと呟いた。


「……なぜ、祈る」


「……?」


「妖魔は人を喰らい、穢し、滅ぼす存在だ。祈る価値など、あるのか?」


しばしの沈黙の後、カガリは凛夜の方を見て、ほんの少しだけ目を細めた。


「……お主、ずいぶん深く、傷ついとるな」


「関係ない。答えろ」


「……うむ。祈る価値があるか、じゃと? あるとも。

それがどれほど悪しき存在であっても、元は“何か”を失ってここに堕ちたのじゃろう?」


その声音には、冗談めいた調子はなかった。


「わしは、そういうものが哀れでな……できることなら、二度と迷わぬように祈ってやりたいのじゃ」


「……甘いな」


凛夜は冷たく吐き捨てた。

だが、それ以上は何も言えなかった。

その言葉に、かつての自分の影を見てしまったからだ。


カガリは微笑を浮かべたまま、背を向けた。


「お主、名は?」


「……久遠凛夜」


「凛夜か。良い名じゃの。気が向いたら、またどこかで会おうぞ」


その背が去っていく。


凛夜は、しばらくその場に立ち尽くしていた。


胸の中に、奇妙なざわめきがあった。

これまで何百と出会い、別れてきた人間たちとは、どこか違う。


それが、運命の始まりだった。

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