表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/88

第三十一話:燃える獣、覚醒す

国営陰陽機関・逢魔。その中心に建つ本部ビルは、今、修羅場と化していた。


「来るぞ……数が多すぎる!」


警戒の声とともに、無数の妖魔が宙を舞い、地を這い、建物を破壊しながら進軍してくる。中でも――明確な脅威と見做された個体が、二体。


一体は、かつて凛夜とカガリが“死の伽藍”で倒した人造妖魔をわずかに上回る力を持つ。その名を、瘴獣『しょうじゅう』。すでに逢魔本部の近くまで接近しており、その瘴気は都市機能すら狂わせていた。


だが、もう一体は――その比ではない。


「……あれは……なんだ……!」


遠隔視を行った高位陰陽師が、青ざめた顔で呟いた。それは、圧倒的な質量と殺意を抱いて進軍してくる、禍々しい“災厄そのもの”。もはや妖魔の枠を逸脱していた。その名を、災鬼『さいき』。


それでも、逢魔は戦った。


若手と新人たちは、ベテランの指示のもとで群れを成す雑魚妖魔と渡り合い、時に命を落としながらも一歩も退かなかった。中級クラスの陰陽師たちは、相応の敵を引き受け、力を尽くして戦い抜いた。


だが、本部に迫った強大な妖魔には、誰もが歯が立たなかった。


ベテラン陰陽師たちでさえ、連携と命を賭した戦法で時間稼ぎをするのがやっとだった。


そこに――


「遅れて、すまない!」


「今、援護するのじゃ!」


凛夜とカガリが駆けつけた。身体はまだ、伽藍での修行の疲労を引きずっている。それでも彼らの目には、確かな闘志が宿っていた。


「カガリ、分かれて二体を――」


「……いや、駄目じゃ。あのもう一体、明らかに桁違いじゃ。今の儂らでは、分散は危険じゃろう」


「……ああ、同感だ。まずは本部のやつから片付ける」


ふたりは迷いを捨て、到達していた妖魔に全力を注ぎ込むことを選んだ。


凛夜の式神術、封印術、攻撃呪。カガリの妖力を増幅した術式と、鋭い爪撃。そのどれもが、以前の彼らより遥かに洗練されていた。


だが、それでも瘴獣は強かった。


「くそ……! こいつ、まだこんな力を――!」


「師匠との修行がなかったら……今頃、やられておったのう……!」


「いくぞ!カガリ!…五行滅殺!」

「うむ!凛夜!…炎天業羅!」


二人の渾身の一撃が敵を穿つ。


激闘の末、ついに瘴獣は絶命する。だが凛夜とカガリは、立ち尽くしたまま息を吐いた。消耗は激しい。これでは――もう一体の“災鬼”とは、とても戦えない。


そのときだった。


――ズゥン……!


大地が低く鳴るような、恐ろしい圧力。力の「爆発」が、空間そのものを撼わせた。


逢魔本部から少し離れた地点。例の“もう一体”災鬼がいたはずの場所から、あり得ないほど巨大なエネルギーが放たれる。


それは、凛夜の身体の奥深くに刻まれた、懐かしい気配だった。


「……この力……!」


「まさか……!」


顔を見合わせた二人は、反射的にその場を飛び出す。


駆けつけた先にいたのは――


引き締まった上半身を露出した、若き獣のような男。


年のほどは凛夜と変わらぬほど。だが、その全身から放たれる威圧感と覇気は、人のそれではない。


炎を宿した黒の瞳。逆立つ髪と、鋼のように鍛え上げられた肢体。そして、その背にたなびくのは、焦げ茶色の羽織――。


凛夜は、言葉にせずとも確信した。


「……紅明……」


そう。目の前の青年は、あの老練で飄々とした“鬼の師”・紅明だった。


彼の本当の姿――力を解放し、若き日の肉体を一時的に取り戻した「全盛の紅明」が、そこにいた。


そして彼の足元には、巨大な災鬼の屍が転がっていた。


完全なる、圧倒的な――勝利だった。


「おせぇぞ、バカ弟子」


紅明はいつものように、ニヤリと笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ