第十八話:夜明けの決意
本日も4話投稿です。次回は主人公の師匠が登場です!
結婚式の喧騒が過ぎ去った夜、二人はいつもの寮ではなく、逢魔庁が用意した一軒家にいた。
凛夜とカガリ――ふたりだけの、誰にも邪魔されない空間。
「……ふぅ」
シャワーを浴び終えたカガリは、白いバスローブを纏い、湯気の残る頬を押さえながらベッドの端に腰を下ろしていた。
心臓が、ひどく高鳴っていた。先ほどの誓い、そして今この静けさが、その現実をじわじわと実感させてくる。
「……ふぅ……ふぁあ……!」
鼓動を落ち着けようと深呼吸を繰り返すも、逆に緊張が増してしまう。
――そのとき、バスルームの扉が開いた。
タオルで髪を拭きながら現れたのは、白いTシャツとラフなズボン姿の凛夜だった。けれど、彼の動きもどこかぎこちなく、緊張しているのが一目で分かった。
視線が交錯し、何も言えずに見つめ合う。
「……」
凛夜が、そっと近づく。
その手が、カガリの頬に触れた。
「カガリ……」
「……凛夜……」
その名前を呼んだ瞬間、感情が溢れて、自然と唇が重なった。
やわらかな接吻は、次第に熱を帯びていく。
戸惑いも、恥じらいも、すべて抱きしめながら――
その夜、ふたりは初めて、真に結ばれた。
◇
窓から淡い陽光が差し込む朝。
カガリがゆっくりと目を開けると、隣にはすでに起きていた凛夜の姿があった。
彼は穏やかな表情で、じっとカガリの顔を見つめている。
「……おはよう、カガリ」
静かな声。けれど、耳元で囁かれたそれは、胸の奥まで響いた。
カガリは一瞬で真っ赤になる。
「う、うぅぅ……! こ、こんな顔、見ないでくれぬかっ……!」
慌てて毛布を引き上げ顔を隠すが、全身がすでに赤く染まっていた。
凛夜はくすりと笑い、額にそっとキスを落とす。
「そう言うな。誰よりも、愛おしいよ」
「~~~っ……!」
カガリは、毛布の中から蚊の鳴くような声で返した。
「……お、おはようございます、凛夜様……」
そんな二人のやり取りは、静かで穏やかな、確かな幸福の時間だった。
◇
朝食は、簡単な和食。
食後、食器を洗いながら、凛夜の表情が少し引き締まる。
「……そろそろ、向き合わなきゃな」
声に出した瞬間、自分の中にある迷いが晴れていくのを感じた。
――自分を引き取り、育ててくれた師。
――かつての自分にとって、全てだった存在。
――そして、今もなお心の奥底に刺さっている過去の影。
安倍紅明。
強く、厳しく、誇り高かった師。
けれど、あのとき自分は師の真意を理解できず、ただ反発し、逃げるようにその場を去った。
「師の“恨みに囚われるな”という言葉――あの時、ちゃんと向き合うべきだった」
今ならわかる。
過去と向き合わなければ、本当の意味で未来は築けない。
そして、何よりも――カガリと生きていくと決めたのだから。
逃げているわけにはいかない。
「……行ってくる。俺の“原点”に」
凛夜がそう呟いたとき、カガリはそっと立ち上がって彼の隣に並んだ。
「――儂も、行くぞ」
「……え?」
驚いたように凛夜が振り返る。
けれど、カガリの目は真剣だった。
「おぬしが過去と向き合うなら、儂も共におろう。凛夜ひとりに背負わせたりはせぬ」
その言葉に、凛夜は少し目を細め、そして微笑んだ。
「ありがとう、カガリ。……頼りにしてる」
「ふふ、当然じゃ」
ふたりは手を繋ぎ、互いの温もりを確かめ合う。
目指すは、安倍紅明が身を置く山深き隠れ寺――
その先に待つのは、懐かしい痛みと、そして新たな希望だった。




