第十五話:かけがえのない日々
カガリが逢魔の一員となってから、季節はゆっくりと巡り――春の名残が、風に揺れる木々の葉にまだ残っていた。
それからというもの、凛夜とカガリは、自然と行動を共にすることが増えていた。
「凛夜、今日はどこに食べに行くのじゃ?」
「……決めてなかったが、和食がいいか?」
「うむ! 和食、大好きじゃ! あの煮物とやらが優しい味でな…ほわっとして…うまうまなのじゃ!」
まるで子どもが遠足を心待ちにしているかのように嬉しそうに語るカガリの横顔に、凛夜は思わず笑みをこぼした。
こんなふうに、自然に笑える日が来るとは――あの日まで、想像もしていなかった。
最初は“見張り”のような意味合いもあったのだろう。上層部から任務の同行を命じられた凛夜だったが、今ではその必要がなくなったにもかかわらず、自分から「同行する」と申し出るのは、もっぱら凛夜の方だった。
カガリも、そんな凛夜の気遣いを素直に受け取っていた。
ある日の任務帰り、繁華街の裏路地にひっそり佇む小さな甘味処――
「この、まっ白いの…“しらたま”と申すのか? むにむにしておる…なんと可愛い見た目…!」
「口に入れてから褒めろ。味も悪くない」
「もっちもちじゃ…! 凛夜、これ、また食べに来たいのう…!」
「……ああ。付き合う」
一緒に過ごす時間は、特別なことなど何もない。
任務をこなして、食事をして、時には本を貸し借りしたり、深夜の見回りを共にしたり。
けれど――そんな何気ないひとときこそが、ふたりにとってかけがえのない時間だった。
◆
ある日。逢魔に突発の依頼が入った。
西の郊外にて、瘴気をまとった妖魔の発生。急行できるのは、ちょうど任務を終えて戻っていた凛夜とカガリのふたりだけだった。
「大丈夫か? 無理をしなくてもいい」
「ふふ、凛夜と一緒ならば、どこへでも行けるぞ?」
現地にて、妖魔の気配を感じ取りながら、息を合わせるふたりの動きに無駄はなかった。
一歩前へ出たカガリの刃が風を切り、凛夜の陰術がそれを覆うように展開される。
「“封神陣・破”」
「“炎纏牙”!」
轟音とともに妖魔が封じられ、静寂が戻る。
互いの呼吸がぴたりと重なるその瞬間――凛夜はふと思った。
(この人が、俺の隣にいるべき人なのかもしれない)
任務の終わり。少しだけ疲れたカガリが肩を預けてくる。
「ふふ…つかれたのう…。だが、凛夜と一緒なら、悪くない」
「……おまえ、懐きすぎだ」
「むっ、文句か?」
「……いや、嬉しいだけだ」
「なっ…////」
言葉に詰まるカガリを見て、凛夜は小さく笑った。
◆
そんな日々が、積み重なっていく。
気づけば、ふたりで過ごさぬ日は、指折り数えるほどに少なくなっていた。
凛夜は、夜の屋上で月を見上げながら、ひとり呟く。
「……おまえが隣にいることが、こんなにも自然になるとはな」
もう“俺の女”などと、照れ隠しに言い捨てるだけでは済まされない。
この気持ちに、名前をつけるとしたら――
それは、もはや愛と呼ぶほかはなかった。




