第十話:日溜まりに咲く
今日は4話です。
楽しんでいただけましたら!
カガリは、変わった。
いや、正確には――ようやく、誰かの前で「素の自分」を見せられるようになったのだろう。
それは、逢魔の中でも最も無骨で、最も鋭く、そして最も優しい男――久遠凛夜が、自分のために怒り、動いてくれたことに他ならない。
それからのカガリは、もう自分の想いを隠さなくなった。
「凛夜、今日も美しいのう……♡」
「おぬしと歩くと、まるで夫婦のようじゃのう」
「儂の心は、すっかりおぬしに囚われてしもうたわ」
日々、言葉の限りを尽くしては想いを伝える。人前でも臆せず、凛夜の隣を歩き、時に袖を引き、時に上目遣いで熱を込めた視線を送る。
傍目には大胆にすら見えるそのアプローチだが、凛夜はまったく動じた様子を見せない。相変わらずのクールな表情のまま、ひとつひとつ受け流していた。
だが――見る人が見ればわかった。
凛夜の視線は、明らかにカガリを追っている。彼女の声にだけ、わずかにまなじりが柔らかくなる。彼女の笑顔にだけ、眉の角度が緩む。
(……あれで、まんざらでもないのね)
(むしろ、嬉しそうですらある)
いつしか逢魔の中では、そんな囁きが当たり前のように飛び交うようになった。
それは、変わったのはカガリだけではなかったという証でもある。
あれほど針の筵にされ、疎まれていたカガリに――今では、話しかけてくる者が増えていた。
それも、男女問わず。年齢も問わず。
「カガリさん、あの符術、もう一回教えてもらってもいいですか?」
「なあ、今度の任務、同行するらしいな。よろしく頼むぜ」
「カガリさん、休憩しません? これ、差し入れの団子です」
最初は、戸惑った。誰かに声をかけられることなんて、長らくなかったから。
笑いかけられても、どう返せばよいのか分からなかった。
だが――カガリは、逃げなかった。
ひとつ、またひとつと、言葉を返し、ぎこちないながらも微笑みを浮かべる。
(……あたたかいのう……こんな日が、来るとは思わなんだ)
かつての憎しみや怒りを抱えていたあの頃の自分からは、想像もできぬ日々。
けれど、変わったのは自分だけではないのだ。
凛夜に救われ、自分を見せ、そして受け入れてもらえた――だから、今がある。
そしてある日。逢魔本庁舎に響いた一報が、さらに彼女を変えた。
「――カガリ殿、正式に、逢魔所属陰陽師として登録が認められました」
それは、彼女の努力と勇気、そして信頼が認められた証。
逢魔の記録に「妖魔出身者」の名が刻まれるのは、史上初である。
その瞬間、彼女はただ、凛夜の方を見た。
そして、凛夜は頷いた。
それだけでよかった。
「ありがとう……凛夜」
そう呟いたカガリの瞳には、もう涙はなかった。
ただ、まっすぐに――新たな未来を見据えていた。
その姿は、どこまでも可憐で、そして誰よりも美しかった。




