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プロローグ

 いつも手足が冷たかった。

 それはきっと、いつも冷たい石で出来た床に座っていたからだ。

 足は鎖で床に繋がれていて、自由に歩くことさえ許されなかった。

 物心ついたときから、彼女にとって薄暗くて冷たいその部屋が世界のすべてだった。

 ときどき若い黒髪の男やダークブロンドの癖のある長い髪の女がやって来ては、傷つけられた。殴られるなんてかわいいほう。刃物で切りつけられることなんて珍しくない。

 痛みと恐怖で泣き叫ぶと、彼らは嬉しそうに笑った。そして、さらに暴力がエスカレートするので、彼女はいつしか何をされても声ひとつ上げず、泣きもしなくなった。


 やがて彼女は、朝が来ないよう願うようになった。

 夜眠るとき、そのまま命が潰えることを祈るようになった。

 痛みと恐怖に耐える日々のなか、せめて穏やかに死にたいと、焼けつくようにこいねがう。


 そうして、一瞬の隙をついて逃げ出した彼女は、自らの死に場所として選んだ地で、ひとりの青年に出会った。

 まるで絵画を眺めているかのような錯覚をおぼえるほど美しい青年だったけれど、その榛色はしばみいろの瞳はとても空虚で、眺めているとこちらの胸に穴が空きそうなほどだった。

 彼がすべての魔族から恐れられる冷酷な魔族の王シエルだなんて、とても信じられなかった。

 実際、恐ろしい噂とは裏腹にシエルは優しくて、孤独で哀しい青年だった。


「メルクリーズはどうだ?」


 名前のなかった彼女に、シエルは名前を与えてくれた。

 そして、死にかけていたメルクリーズの命を繋ぎ止めるために契約を交わした。

 それは魔族の三つある心臓のうち、一つの心臓をお互いに交換することで交わされる終生契約と呼ばれるもの。

 本来は生涯の伴侶と定めるときに交わされる契約だ。

 このときシエルが心臓を交換したのは、ただメルクリーズの命を助けるためだったのだけれど、契約は契約だった。


 こうしてある日突然、意図せずにメルクリーズは魔族の王たるシエルの伴侶になってしまったのだった。

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