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ルミナエクリプス〜光と闇の戦士〜  作者: teamリヴィーシャ
第一章
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第九節 戦闘チュートリアル

「ユーリ」

「うん」


嗚呼、声が震える。その理由は恐怖かはたまた興奮か。いつの日か夢見たゲームの世界。ゲームでなら、現実で出来ないことが出来る。「出来ない」と断言されたことが叶う非現実世界。そんな世界によく似た世界。空気が揺れる。此処は、二人の現実だ。グルル、と魔物が唸る。地面を抉る鋭い爪、よだれが垂れ刃のような牙が見える口。異形。眼の前の恐怖だ。画面の向こう側ではない、現実。現実離れした現実だ。嗚呼、しかし、この手にある重さは本物で。眼の前で広がった美しさは心を踊らせて。ねぇ、頑張ってみてもいいでしょう?まるで、プレゼントを開ける時のワクワクとした心のように、この好奇心と共に。恐怖を抱えながら、一歩を。


()()()()()、だね?なおみん」

「嗚呼」


ゆっくりと、ユーリが腰の刀を抜き放ち、二刀流となる。大剣と刀が魔物に対峙する。空気を揺らす恐怖。生命の奪い合い。手に汗握るとはきっと、こんな世界のことを言うのだろう。ナオの脳裏にあの青年のーー小さい悲しい笑みが蘇った。


「なおみん!」


バッとユーリが地面を蹴って跳躍する。現実ではあり得ないほどに軽く飛ぶ体にユーリは驚愕を示しながら宙を滑空する。コントローラーを操作するだけの作業が、今自分の身を動かしている。それが少し不思議で心地よかった。空中を蹴ったユーリに魔物が視線を上げる。上段から二振りの刀を勢いよく振り下ろしたユーリの攻撃を魔物は爪で防ぎ切ると、もう片方の爪を振り回す。爪を弾き返し、体を捻ってその攻撃をかわすとユーリは後退。彼女と入れ違いにナオが大剣を勢いよく振り回す。遠心力も利用した攻撃は魔物に反撃の余地も与えず、魔物を吹っ飛ばす。木々を薙ぎ倒し、吹っ飛ばされた魔物ではあったが木の幹に辛うじて爪を引っ掛けると着地し、爪に引っかかった木をブンッと二人に向けて投げ飛ばした。それをナオは大剣で真っ二つに切り裂き、その勢いのまま突進してきた魔物と正面から切り合う。ガキンッと目の前で散った火花にナオは恐怖を追い出すように短く息を吐く。怖い。だが、非現実世界(此処)ではそんなんじゃ、やっていけない!互いに相手の攻撃を弾き合い、そうして何度も刃物を絡め合う。ギリギリと刃物が交差し、不協和音を奏でる。とナオが大剣を少しだけずらした。途端、魔物の体勢が僅かに崩れる。その瞬間をナオは見逃さず蹴りを叩き込む。魔物の顎に叩き込まれた蹴りは、魔物の動きを一時的とは言え止めることには成功したようだ。目が六つもある時点で脳へのダメージはあまり意味がないらしい。詳しくは知らんが。後方に仰け反りながら、どうにか体勢を立て直そうとする魔物の視界の隅にユーリが映り込む。いつの間にかユーリが接近し、斜め上から刀を振り下ろした。回転斬りのように動くユーリの攻撃は、魔物の黒い胴体に傷をつけるが、致命傷には至らない。


「〈攻撃力上昇(パワー・アップ)〉!」


熱い、まるで熱血の塊のごとく燃え上がる光が魔物から空中で距離を取るユーリの指先から放たれる。その魔法を知能を持たない魔物が理解できるはずもない。だが、ユーリのニヤリと笑った表情とまるで道筋のように揺れる光に魔物の視線が動いた。クルッと着地したユーリと振り返った魔物の前方にいたのは大剣を構えたナオ。その大剣には桜の花びらと結晶が舞い踊っている。ユーリが放った魔法はナオを優しく包み込み、彼女の体の内側から湧き上がるみなぎる力。まるで怒りが足の先から噴き上がるような、全身に血液から熱が回るのがわかるような、なんとも言い難い感覚。嗚呼、これが魔法か。ナオがユーリと同じ様にニタリと笑えば、大剣に纏う技が威力を増した気がした。ナオに突進してくる魔物。その魔物に向かい、ナオは足に力を込める。ゲーム同様、属性の優劣がこの世界にも適応されるのかどうか、分からない。だが最初ーーチュートリアル(今回)に関して言えば、力でぶん殴れるだけでも充分な情報だ!というのも基本的な二人のやり方は『力で制す』でもあったりする。


「〈春嵐六花〉!」


突進してくる魔物に向かい、あらん限りの力を乗せて技を放てば、先程よりも威力を増した嵐が魔物を迎え撃つ。二つの、春と雪を纏った嵐はたやすく魔物を飲み込み、動きを封じると手足を氷河の如き冷たさで凍らせ、目元を花びらで覆い尽くしていく。そうしてそれらを形作る嵐は魔物の胴体を引き裂かんばかりに四方八方に引き伸ばし逃げ場をなくす。そこにナオが再び大剣を振りかぶり、そしてユーリが刀を爪のように構え、二人同時に振り下ろす。左右から、上下から逃げ場なく振り下ろされる攻撃にもはや魔物に成すすべはない。怒号のような、唸り声のような声を上げながら魔物が消え行く嵐と共に地面に横たわる。と、魔物はドロッとした泥のような液体へと姿を変え、そうして地面に吸い込まれて消えた。かつて魔物だったものは地面にも何処にもなく、ただただ二人がなにかと戦ったと云う事実だけが残っていた。


「……なおみん」


ぶるぶると刀を持つ両手を震わせながらユーリがナオを見上げる。今更ながらに湧き上がる恐怖、そして生命を奪ったと云う事実。ゲームの向こう側では分からない、きっと実際に経験しなければ分からない感覚。しかし、二人の身体がアバターであるためか、その感覚もあの神様(少年)と出会った時よりは大きくなかった。


「……嗚呼」


ぎゅっと自らの手を握りしめるナオ。嗚呼、それでも自分達は勝ったのだ。強大な敵に立ち向かい、死闘を繰り広げ栄光を勝ち取った時のように。小さな小さな一歩だろうけれども、それだけは真実だった。


「勝ったー!ねぇねぇ勝ったよ!勝ったねー!」


刀を両腰に収めながらユーリが頬を紅く染ながら叫ぶ。嬉しそうに「やったー!」と心の底から喜びを叫ぶユーリにナオは小さくフッと笑みを零すと、大剣を背に背負った。


「嗚呼、やったな。しっかし、ぶん殴る方式でもいけたな」


消滅してしまった魔物がいたであろう地面を見て腕を組みながらナオが言う。ユーリが「うんうんっ!」と強く頷く。


「でもこれからは優劣とか色々調べなきゃねー」

「めんどくせぇ。力の限り殴りゃあいいだろ」

「駄目だよなおみん!防御力が高かったらどうするの?!」

「〈攻撃力上昇(パワー・アップ)〉を大量にかける」

「もぉーー!」


クスクスと楽しげに微笑う二人。二人ならきっと、大丈夫。もう一度、そんな自信が二人を包む。ほぼ一本道の最初の道。ふと戦闘の地を見れば、倒れた木々の奥に舗装された道が見えた。どうやら魔物から逃げている間にもとの道が見えるところにまで移動できたようだ。


「行くか」

「うん!」


地図はない。けれど、あの道を辿ればきっと。そんな確信が二人にはあった。その確信はアバターの能力かそれとも直感か。わからなくてもいい。ただ二人は、自らの望みの為に歩を進めた。



「本当に彼女達でよろしかったのですか?」


ナオとユーリを世界に放り出した少年は、一番と言ってもいいほどの側近である天使の声に顔を上げた。少年は何処か不安そうな表情と喜悦をごちゃまぜにした、なにがなんだか分からない複雑な表情を浮かべる天使に言う。


「いいんだよ。どうせ替わりはまだいるんだし〜」

「替わり……ですか」

「そうだよ〜僕達がフイッて指を振れば、かーんたんに死んじゃう人間(お人形)。だから替わり」


ハハッと口元だけで嗤う少年。その目は依然として笑っていない。残酷で残忍で、優雅で美しく()()()()狂おしい(愛おしい)我らが神様。少年の言葉に天使は今度こそ笑みを作る。


「死んでも替わりはいる、と」

「嗚呼、そうさ。いつか死ぬんだからさ……でさ、お遊びの準備は、できた?」


楽しげに、無邪気にコテンと首を傾げる少年に天使は、あの等身大の鏡を召喚し、「どうぞ」と少年に見せるように促した。少年はズイッと鏡に身を乗り出す。


「自由に、好きにしていいって言ったけど、僕達が動かないとは言ってないもんね〜」

「はい」

「じゃっ、『魔王』との戦争オアソビを始めよっか」


そこに二人(ナオとユーリ)が巻き込まれても知ったこっちゃない。


「いつ死んでもいいでしょ?」


冷たい、何処までも冷たい声と天使の瞳が鏡に溶け込んでいった。

投稿していって誤字とか矛盾などに気づいたら、訂正するかもしれません…内容は全然変わらないんですけど、投稿したあとに気づく時あるんですよね…

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