第四十二節 とある事実が聞こえて
「あ」
静かな静かな、何処か眠くなってしまうような雰囲気も持った図書館の一角に小さな声が響いた。探し物をようやっと見つけて歓喜する感情を懸命に抑え込むその声の主は、図書館三日目にしてようやく本命を探し当てたナオだった。
噂の内容を探して三日。一日目は全員がやる気に満ちていたが膨大な数の書物と情報にだんだんとやる気を削がれていき、ルルのお腹の虫が抗議を始めた辺りで終了。二日目は「そんな簡単に見つかんないよな……」と、「噂だからしょうがないよね!」と無理やりやる気を上げながら探すもやはり見つからず。似たような噂やら記事やらは見つかるものの、ナオとユーリの求める「魔物に襲撃されたものの生き残りがいた村もしくは町」は中々見つからず。そしてナオの気になった「お姫様の噂」に関するものも片鱗も見つからず。ルルとソラリスには情報源を言えないが、まさかあのカミサマ、からかったのか?とナオが思い始めた本日三日目。やっぱりアイツ一発殴る……!と拳を握りかけたちょうどその時、求めていた記事に辿り着いた。
「なおみん?」
「あった」
「え?」
「生き残り」
「嘘っ?!」
ガタタッと音を立てながら立ち上がったユーリはハッと此処が図書館ーー結構奥ばっている一角であり四人以外はいないとはいえ、音を立てるのはまずい、結構響くしーーであることを思い出し、周囲を見渡すと静かに椅子を直した。そして静かにナオの真横に移動し、身を乗り出した。探すのに飽きて冒険譚を持ってきて読んでいたルルと、同じく探すのを諦めつつも別の事が気になりそれを調べていたソラリスも二人の元へとやってくる。ちなみにユーリは初日に調べ始めた書籍の二冊目を読み込んでいた。そこでも見つからなかったのだから、よほど情報が少なく人目に触れなかったのだと言うことがわかる。
「ホントに?生き残りがいたって聞いたことないけど……」
「そりゃあな。でもこれによれば五年前の出来事らしいぜ?しかも、その周辺では頻繁に魔物、『魔族』との戦争や人同士の小競り合いがあったらしい」
「なるほど。最初はそのどっちかが原因だと思われ、さらに明確な情報ってなると危険地帯に赴くことにもなるからな」
「そんなとこにまた人同士の小競り合いが起こってみろ?後続を危険に晒すのはってなって、真相も遅れる」
「そういうことか」
「多分な」
ルルの疑問に一足先にスクラップブックの一部を読み込んでいたナオが答えれば、ソラリスの納得の声が頭上から響く。そして、ここ、とナオが記事を指し示せば彼女以外の三人が肩を寄せ合うようにして覗き込んだ。その記事は小さな小さな切り抜きでよく読まなければ、ナオの言うように分からなかったかもしれなかった。内容は以下の通りだった。
『ユラヴィス歴****年*月*日某時。一つの村が二人の少年少女を遺し、全員死亡、崩壊した。家々が焼かれ、崩壊し、元の形が分からなくなるほどに変貌した遺体などが散乱していたと助かった少年少女達が証言している。当時、この少年少女達は村近くの森へと遊びに出かけており、幸いにも助かった。少年少女達が丘の上から村の方向で火の手が上がっていることに気づき、判明。救護には隣村の住人らや騎士団が参加したが二人以外全員命を落としていたという。
この村の周囲では魔物等との争い、山賊を駆逐せんとする近隣の都市部の騎士団との争いなど様々な争いが巻き起こっていたという。それらを受け、近隣の村へ避難を検討していた矢先の悲劇であった。魔物か人災関係であったのか詳細ははっきりとしていないが、近隣の都市部の騎士団が捕らえた山賊と関係者に話を聞く方針。なお生き残りとなった二人の少年少女達は避難を検討していた隣村ではなく、別の町へと避難する模様。』
その後の村の近況情報はないのか、という視線をユーリがナオに投げかければ、彼女は全員が記事を読み終わったタイミングでページを進め、「ここ」と指を差した。そこには『山賊の証言により、村壊滅に他所の山賊が関わっていたことが判明。数日前にも村周辺にて壊滅に関わったと見られる山賊が旅行者を襲う事件が発生。冒険者と交戦し、捕縛された』とある。ナオの言うように首謀者らしき者達が捕まり、原因は『小競り合いのようなもの』だったとして結論が成されている。小競り合いのようなもので村が壊滅するのはこの世界では日常茶飯事なのだろう。その小競り合いのようなものに魔物やら『魔族』の介入があったかは分からないが。
「でもどうして二人はこれが知りたかったの?」
ナオの隣から覗き込むようにしていたルルが問う。ルルとソラリスがこの話に辿り着けなかった理由はわかったが、何故ナオとユーリがそこまで気にするのか不思議だった。ましてやカミサマのことを言い訳にも行かず、最初は咄嗟に「歌の噂」関連で聞いた「村が消えた噂」を理由に誤魔化したが果たして……。
「世の中には、知らない方がいいこともあるんだよ?」
ルルのアクアマリンの瞳を真っ直ぐに見つめ、淡々と快活な笑みを消してユーリが言った。それにビクリと肩を震わせたのはルルでもソラリスでもなくナオだった。それは笑っていない正真正銘の嘘だったから。ナオが知るかつて見たユーリの笑顔。体の芯から冷えていくような、何処か脅迫じみた真っ直ぐな視線を受け、ルルは自分もそうだからと無理矢理頷く。
「っと、言うのは冗談で〜」
「冗談?もうっ、びっくりさせないでよユーリ!」
「ちょっと怖かったんだからね!?」とユーリの方へ回り込み、ポカポカと叩くルルにユーリがケラケラと笑う。一瞬にして戻ったいつもの笑顔にナオが何処かホッとしたのをソラリスは見逃さなかった。言えないことは多々あるが、結構辛いものだな、と内心ため息をつく。
「まぁ言っちまえば、聞いたことあったんだよ。魔物関連か分かんねぇけど、村が消滅したけど生き残りがいたって。ユーリはそれについて色々調べてくれたんだが、魔物やら教会関連やらが多くてな」
「判別不能だった、と?」
「嗚呼。しかも内容が似たりよったりだったらしくてな」
「『結論としては魔物の仕業でした』!終わり!ばっかりで!うちはっ!その当時の状況が知りたいのっ!噂じゃなくて正確なっ!噂だから全部魔物と『魔族』のせいです、でオチになってるのっ!違う!」
「ゆ、ユーリ?」
「気にするな、ただのユーリの発作だ」
声を潜めて「うがー!」と得意のマシンガントークで鬱憤を叫ぶユーリにナオが遠い目をする。集めた情報全てがそうなればユーリがそう思うのも無理はない。ルルが「落ち着いて?」とユーリの手をぎゅっと握れば、少し冷静になった彼女が怒りの息を吐き出して続ける。
「生き残りがいたか以前に原因が魔物と『魔族』だからさぁ……」
「まぁ殆どの原因はそいつらだしなぁ。そりゃあ埋もれるわな」
心底同情する、と言わんばかりでにポンッとソラリスがナオの背を叩いて労う。礼を言う代わりにその手をトントンと叩きナオは言う。
「ま、これで聞いた噂は本当だったってことだ。もしかすると記事も本当は人でも魔物でもなくて他のなにかの仕業……だったりしてな」
意味深げに言うナオに「なんだそれ」とソラリスが呆れたように肩を竦めた。その表情と仕草にナオとユーリは思う。嗚呼、この世界はなにも知らない。自分達も含めて、なにも。
「ーー全て喪ったとしても、貴方を信じてさえいれば、貴方は助けて下さるのでしょう?」
零れ出たその歌詞のような言葉の羅列の意味も誰も知らない。自らの口が無意識に零した羅列にナオは気にする様子もなく、彼らと共に別の話題で盛り上がる。そう、ソレは、まだ自覚しなくてもいい一歩なんだから。
とりあえず、今回は此処まで。またしばらく空くと思いますが、気長にお待ちいただければ嬉しいです。




