表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルミナエクリプス〜光と闇の戦士〜  作者: teamリヴィーシャ
第一章
34/39

第三十四節 黒薔薇を一曲


立て続けに起こった音は複数。それら全て、一つの単語を示すものだった。

すなわち、絶望を。


「ッッ!!ソラッ!」

「っ……」


ソラリスの右腕に突如として形容し難い激痛が襲う。それと同時に、右腕に痺れが走る。上手く動かない指先がハルバードを手放し、その反動でカラリと音を立てる。絶叫するかのようなルルの悲鳴を横目にソラリスが右腕に視線を向ければ、大量の血が溢れ出ていた。いや、出血が右腕を覆ってしまっているせいで、何処が傷口かはわからない。だがこのまま放置すれば、確実に出血死する。それをわかっているからこそ、とりあえず痛みが集中する箇所を押さえるソラリスにルルが半ば涙目で回復魔法をかける。しかし、あまり回復魔法が得意でなく、そもそも攻撃魔法に特化しているルルの回復量では回復には時間がかかる。上級を使えばいいが、今ルルが使っているのは初級だ。目の前でソラリスが死ぬかもしれない、そして魔物。そんな危機的状況で頭が回っていないのだろうし、二人時代で回復魔法を担当していたと言えるのはソラリスでありルルはほぼ初級しか使えないと言ってもいい。かくいうソラリスも出血のせいで頭が回っていない。自分も、ルルよりは多い上級の回復魔法をかければいい、と思うのに体がうまく動かない。辛うじて動くのは顔くらいか。動く目で目の前の魔物に警戒を向けるくらいしか、今の彼には何もできなかった。


「ソラ……!ソラ……!」

「ルル、落ち着け。落ち着いて、やれ」


背後からソラリスの右腕に魔法をかけるルルに優しく、落ち着かせるように声をかける。ルルが混乱しつつもゆっくりゆっくりとーー先程よりも慎重に魔力量を調整しながら杖の先を向け怪我にかけていく。仄かにソラリスの右腕を中心に体を包む温かさが先程よりも強く感じる。初級から中級へと回復魔法が変化したのだ。火事場の馬鹿力、とでも言うのか。だがほぼ初見、すぐにルルの魔力とソラリスの怪我に馴染むとも言いにくい。

どうする?

怪我をさせたからか、目の前の魔物が動く気配はない。いや、警戒しているのか。鋭利な剣を思わせる爪と牙に、四足歩行の体。おそらく、疾風の如き速さでソラリスの利き腕を攻撃し、後退したのだろう。ということは脚力に自信がある証拠でもある。ソラリスを攻撃したというその証拠に爪には紅い液体が滴っている。また尻尾らしき部位からは二叉にわかれた蛇が顔を出しており、こちらを威嚇している。夜型の魔物なのか、瞳孔は縦に大きく割れ二人を睨みつけている。明らかに不利だ。負傷しているソラリスを回復させているルルと、出血により身動きが効かないソラリス。出血多量にも関わらず、魔法を放てば、意識を失うか、コントロールが狂う。ソラリスはルルほど魔力量に恵まれていないし、それに今のルルには回復以外に思考をわける余裕はない。魔物がこちらの回復を余裕綽々と待ってくれるはずはない。様子を窺っているのは、太陽が隠れ、夜になるのを待っているからに他ならない。夜行性の魔物なのだ、自らの領域に連れ込んだほうが狩りがしやすい。その考えと血を失った影響か、ソラリスはブルリと体を震わせた。魔物はこちらが光属性に恵まれていないことを察知している可能性がある。


「……くそ」


もしここに、あの二人がいたら……。

思わず漏れたソラリスの舌打ちにルルはそんなことを考える。きっと、もうあの二人は城下町に入ってしまっただろう。なにせ女の子二人組だ、野宿の道具を所持していなかったようだし駆け足で街に紛れ込んでしまっただろう。もしかしたら、街中で二人を捜しているかもしれない。もしかしたら、近くに……なんて安易な希望を抱いて、簡単に崩れる辛さと怖さをルルは知っている。だからこそ、あんなにも光り輝いていた憧れを、恋には程遠い憧憬を抱いた。でも、それを自らの手から溢した。これが、()()()の本当の罰だと言うならば。目の前で()()を失うことがそうだと言うならば、絶対に認めない。ルルは杖に込める魔力を増やし、一気にソラリスの怪我を治そうと試みる。一気に放出したせいか、一瞬目眩がしたが唇を噛んで耐える。ソラリスが急速に治る痛みに小さく呻き声を上げ、未だに痛む腕を叱咤し、落ちたハルバードを拾おうと試みる。魔物の様子を伺いながら、そっと、そっと。だが、それを魔物は決して見逃さない。シャーッ!と二叉に割れた蛇が不協和音を奏でるように同時に鳴き叫び、途端に蛇二匹が凄まじい速さを持ってソラリスの手元を狙う。尻尾の部位のみが伸縮性を持って飛び出し、胴体は別の隙を窺う。まるで一体なのに二体を相手取っているかのような感覚と腕の痛みにソラリスが呻いた。


「っ!」

「ソラ!」


間に合わない。一瞬で、一時で理解した二人の脳裏に最悪の事態が浮かぶ。ソラリスが蛇に咬まれ、動けなくなったところで牙と爪に殺られ、ルルもそれに連なるように翻弄される……暗くなっていく中、仄かに絶望を宿す二人の瞳と状況は、それを決して良しとしない。未だに小さいながらに希望を求める。例えそれが偶然であったとしても、耳に届いた()()()()を求めた。

サァ……と木の葉が揺れる音がした。その些細な、たった一つの音に魔物の動きが一瞬、止まった。伸縮性を持つ尻尾が蛇の部分を少し動かし、まるで首を傾げるように。そうして、その細められた二対の目を暗がりに消えゆく上空へと向けた。


「〈憑依・綾丸あやまる〉!」


途端、鈍い音と衝撃が二人を襲った。思わずと言った様子でソラリスの背後でルルが衝撃波から視界を守る為に顔を背ける。腕に広がった痛みにソラリスが今だと無理矢理ハルバードを手に取る。再び打撃音が響き、先程発生した微かな土埃が晴れていく。その向こう側には尻尾の部分を失い、痛みに怒り狂う魔物が怒号を上空へと吐き出していた。よく見れば、こめかみの辺りから出血もしている。地面には胴体と分かれた尻尾が陸に打ち上げられた魚の如く、活きがよくビッタンビッタンと跳ねている。


「あっ、ちょっとミスった!」


そんな明るい声と共に活きがよく跳ねていた蛇の頭部へと武器の切っ先が突き刺さる。二匹ーーといえばいいのかーーが活きを失うと魔物はさらに怒りを露わにした。その武器の切っ先と戦闘は、僅かに絶望の淵に足を突っ込んでいた二人では決してなくて。何処か場違いな感覚がする明るい声も、もちろんルルやソラリスではなくて。


「ったく、もうちょっと狙いをなぁ」

「ごめん、なおみん!やっぱり、頭上うえからぶっ叩くの難しいねぇ……暗いと余計にさぁ」

「自己分析してる場合か」


緊迫した状況にも関わらず、まるでカフェでおしゃべりしているかのような気軽な会話。それらは二人を守るように前方と、斜め後ろから聞こえてきていた。


「ナオ?!」

「……ユーリ?」


完全に晴れた向こう側、怒り狂いながらもこちらを警戒する魔物と睨み合うユーリと、ルルとソラリスに光属性の魔法をかけるナオがそこにいた。なんで、どうして?嬉しいのに困惑する二人の思考を表すような声が漏れれば、ナオがしょうがねぇなぁと言わんばかりに肩を竦め大剣を肩に担いだ。


「ユーリ、回復頼む。二人でなら早いだろ」

「りょうかーい!」

「え、あ、でも……」


ナオはどうするの?そう言わんばかりのルルの声色と表情に、ナオとさりげなくーー魔物から視線を逸らすことなく警戒を向けながらユーリが位置を交換し、回復魔法をソラリスにかける。二重になった回復魔法が急激に彼の怪我を治し、完全ではないものの動かすことを可能にする。不安そうなルルにユーリはにっこりと、喧嘩別れしたなんて思わないほどの優しい笑みで告げた。


「大丈夫!言ったっけ?だってなおみん、『聖騎士パラディン』だもん!」


ユーリが力強く告げたと同時に魔物がナオに向かって跳躍した。ルルの「危ない!」という悲鳴に似た絶叫を背に、ナオは余裕綽々と云った様子で大剣を横にして魔物の牙を防いだ。だが牙を防いでも魔物には依然として鋭い爪が二つ存在する。まるで下半身を立たせて威嚇する動物のような体勢のまま、魔物は両の爪をナオに振り下ろした。


甘い(あめぇ)


カキンッと甲高い音と共に魔物の爪が弾かれ、大きく後方に仰け反る。そのタイミングでナオが大剣を振り切れば、魔物は後方に飛び退いた。バッと地面に着地し、ナオを勢いよく振り返った魔物の目に片手で〈防御壁ガード・ウォール〉を展開させた彼女が映る。つまりは、魔物の攻撃に合わせて魔物を展開させたのだ。ギリリと歯ぎしりを起こす魔物にナオはニヤリと笑みを浮かべ、片手を覆う魔法を新たに展開させる。


「〈防御壁(ガード・ウォール)聖騎士の盾(パラディン)〉」


そうして、彼女の片手に現れたのは闇に沈む世界にはなんとも美しい月のような輝きを持つ背丈の半分ほどの盾だった。白く輝く表面には大剣『龍神』と対を成すかの如く、今にも飛び出さんばかりに舞う龍が描かれその瞳孔は威圧的を与えるように魔物を睨みつけている。ガンッと盾と大剣を当てて音を立て、ナオがニヤリと笑った。


「さてと、騎士様の()()()でもしてやろうか」


その姿はまるで、闇夜に降り立った騎士に見えた。いや、ルルとソラリスにとってはまさに騎士であった。

ちょっとやってみたかった箇所。うまくできていると嬉しいです。

さて、今回は此処まで。不定期投稿ですので、またゆっくりとお待ちいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ