第三十節 黒薔薇と亀裂
久々の日差しが彼らを包み込んだ。だがその日差しはどちらかというとオレンジ色に染まっていて、長時間ほぼ暗闇にいた彼らの目には眩しかった。
「出れたー!」
「やったー!」
万歳をしながら沈んでいく夕日に向かってルルとユーリが叫ぶ。あのあと、悪魔のような魔物を倒した彼らは何度も別の魔物に遭遇しながらもダンジョンを突破。ようやっと目的地でもある出口に到着した。一応まだ昼間に相当する為か、魔物があの悪魔以上の強敵がいなかったことが幸いした。しかしダンジョン内は暗かったせいで時間感覚が狂ってしまい、どうやら一日中、攻略していたようだ。それほどまでに広大で未知に溢れたダンジョンであるということがよく分かる。出口をユーリが振り返ると、疲れたように首を回すナオと先程の戦闘から何故か無言のソラリスが出てくる。不機嫌な時のナオの仏頂面に似ているなぁと思いつつ、ユーリは手に入れたドロップアイテムーー皆は気味悪がっているーー書籍をポーチから出そうとした。そして一行はダンジョン出口の前方に広がるサークル状の休憩スペースと思われる空間にまで歩みを進める。
彼らを包むオレンジ色の光の先には徐々に整備されていく道と森に続いているのか獣道らしき道が続いている。整備されている道の少し先には森に囲まれた街が見える。いや、ダンジョン出口からでも見える宝石のような巨大な鉱物で出来た十字架や、ここからでは全貌は分からないがなにかが刺さっている建物、巨大な城のようなものも見えることから街というよりは城下町や都市と形容する方がしっくりとくる。
「じゃあ!早く次の街、でいいのかな?そこに行」
「待て」
疲れた〜と言わんばかりにルルが城下町を指差し、告げようとした途端、不機嫌な、地を這うような低い声が響いた。その声に「あちゃぁ〜……」とルルが服の袖で顔を覆う。
「なんだ?」
低い声にナオが少しだけ意味合いは違うが、よく似た低い声で返す。彼女の声色に、先程まで無言を何故か突き通していたソラリスがゆっくりと顔を上げた。その顔に宿るのは、小さくも燃える怒り。不甲斐なさの怒りだった。
「なぁ、オレ達は言ったよな、言えって」
「それが?俺に勝てない奴が言うことか?」
「あ゛?」
「ソ、ソラー!」
ぐっと拳を握りしめるソラリスにルルが慌てて駆け寄る。ナオの挑発的というか、煽っていると言うか、捉え方によっては修復不可能になってしまいそうなほどの低く、低く、ざっくばらんと告げられた事実にソラリスの声に怒りが滲む。
「分かってるのかルル!お前、自分の役割が取られてるんだぞ?!黒薔薇の独断プレイで!」
「……あー」
彼の言葉にルルが可愛らしい表情を歪めた。つまり、そういうことなのだろう。ルルもソラリスも「もっと言え」とは告げた。自己犠牲にも似た動きと、ただただ腕を振るう攻撃力を扱う二人に。しかし、それらがたった一日で解決するわけはなかった。というよりも、そういう戦い方が二人には多かった。いや、二人きりであったからこそ、大雑把な役割分担をし背中を合わせてきた結果なのだろう。しかし、今はチームだ。ユーリの案ではあるものの、別の役割が入った時、傍目から見れば連携出来ているように見えても中身を覗き見れば協調は、出来なかった。歯車が噛み合わずに回りだしてしまった。それを今日の今日まで見て見ぬふりをしてきてしまった。二人と二人であったが故に、ルルとソラリスが決して知るはずもないナオとユーリの悲しみが関連するが故に。
「そ、そりゃあ……ね、ボクだって色々魔法使いたいけどさぁ……ユーリ、悪気がないから余計に……」
「あ、ごめんね……って、あ、これもか」
「強者が強者を支援すれば、能力は上昇し目的が打破出来る。出来ないのは弱いからだろ?」
ツンツン、と両手の指を合わせて視線を彷徨わせながら言うルルにユーリが謝りかけ、二人の動きが止まった。何故なら、ナオの発言にソラリスが彼女の胸倉を無言で掴んだからだった。ナオの発言は強者の驕りで、弱者への批判に他ならなかった。例えそれが事実であったとしても。
「今、なんて言った?」
「もう一度言うか?俺は、強者しか信じない。弱ければ、従っていればいい」
例え、あの時感じた、見てみたいと思った感情を見れなくなるとしても欲しているとしても、求めずにはいられない、自分から壊さずにはいられない。そうしなければ、壊れてしまうから。あの時のように。ねぇ、だから、貴方達はーー
ピキッという理性が切れる音とでも言うのだろうか。不安を煽る音にルルがソラリスの前方に回り込み、ナオの胸倉から手を離させようとしがみつく。ユーリがナオの片腕に自らの腕を絡めて自らの方へ引っ張り距離を取ろうとする。
「というか、そもそもお前だってそういうこと言うけどな、所構わずぶっ放しすぎなんだよ。弱者は、勝てないならば後ろで支援でもしてろよ」
「あっ、それはボクがごめんなさい……」
「無自覚は認めるが、自覚ありの所業は腹立たしいことこの上ねぇぜ?弱者のくせに。何度黒焦げにされそうになったか」
「あぅ……」
「言い過ぎだろ!?」
「事実だろ?」
言葉の応酬は次第にエスカレートしていく。例え、互いの過去を知っていようといまいと、今この場では関係なかった。ただあるのは亀裂のみ。
ルルが自覚があるが故に少しだけジワリと涙目になってしまう。最近は、そう最近は減ってきたんです……!ユーリがルルの役割を無意識に奪ってしまうのが減ったのと同じで……!言い訳ではあるが。突っ走って行ってしまう二人と同じだ、行動が減ったとしても心の奥までは変わらない。だからこそ、衝突する。
「言わせてもらうけどなぁ、そういうお前だって一人で突っ走って行くだろ。こっちのことも考えろ?独断プレイじゃねぇんだから」
「はぁ?それで勝ててるんだから無問題だろ?後ろから支援が来るんだしな」
「そういう意味じゃねぇ!」
ため息をつかん勢いで息を吐くソラリスにナオはわからないというように、理解したくないと言うように続ける。
「別に困っちゃいねぇんだ、いいだろうよ。その方が安定してるんだからよ」
「……認めたくせにか?」
「認めた、な。それと信頼関係が繋がるか?リーダーは俺だ、従う義務がある……俺とユーリの支援、それで十分だ。不要なものはいらねぇ、解決だろ」
「でも、ナオ?一応ボクたちチーム?だし……ボクが気を付ければいいんだから。ユーリもだけどねぇ」
ナオの言葉にソラリスの声が詰まり、ルルがぎこちない愛想笑いを浮かべる。ユーリもうんうんと頷いてはいる。確かにリーダーはナオだ。だが、それでも今はチームなのだ。損得勘定、個人の考え一つで済ませて言い訳ではない。ソラリスも何処までも頑なで少々淋しげな瞳のナオに気づいていた。だからこそ、聞きたかった。その本質を、例え、黒薔薇が枯れても。ぶちギレたのは、ルルを貶す発言だったからだけじゃない。本当はーー
「なおみん〜ちょっと言い過ぎだよ〜!」
「ちょっと?これがちょっとか?お前にだって当てはまることだぞ?」
「うっえ、こっちにも飛び火したぁ」
何処か当たり前と言わんばかりのユーリの声色にソラリスの鋭い視線が刺さる。
「お前、ただただ従ってばっかで自分の意見くらい言え!チームの問題に首突っ込まないでいるんじゃねぇ!勝手に動いて心配させてばっかで」
「……へぇー?」
一瞬だけ、ユーリの声が低くなったことにソラリスもルルも気づかない。気づいたのはナオだけ。ナオは力の限りソラリスの手を下へ振り払うと、低い声を発した。それは如何にも憤怒していると誰にでも分かるほどの、ルルとソラリスにとって初めてと言ってもいいほどのナオが包み隠さずに見せた感情だった。
「なら、離れればいいだろ。あの時みたいにっ!」
それを知っているのはユーリだけだ。その証拠に彼女の顔が歪んだのを、誰かが見た。
嫌なら、離れろよ。出来ないなら、変われないなら、お願いだから傷つく前に突き放して。例え、心を許しても、大事なら。
「そうか、それが答えか……ルル行くぞ」
「うえっ、あ、ソラ!?」
ナオの言葉にソラリスは鼻で笑うとルルの手を取り、歩き出した。二人に背を向け、まるで拒絶を示すように。頭を冷やせとでも言うように。なにも言わずにズンズンと進んでいくソラリスにルルはなにか言いたげな、それでいて何処か悲しげな表情で二人を振り返るが、彼の手を振り払うことはない。それが答えだとナオは思った。だからこそ、言った。
「ほら、仲間なんて必要なかっただろ」
遅くなりまして大変申し訳ございません…!
最近暑い日が続きますので、皆様お気をつけください…!
そして続きです!この辺りは、彼らが衝突する大事な部分なので……めちゃくちゃ難産でした…リメイク前の、過去作の方はホントにサラッと行った感じだったので、今の力を駆使して書きました…苦悩が伝わってると嬉しいです。




