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ルミナエクリプス〜光と闇の戦士〜  作者: teamリヴィーシャ
プロローグ
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第三節 始まりのコトバ

ーーユラヴィス歴****年


とある場所。そこは温かい太陽の近くであり、微睡みを誘う月の近く。()()がどんなに手を伸ばしても、欲しても手に入らなければ届かない未開であり未知の場所。そこは雲の上に存在し、天に存在する神殿。地がないにも関わらず、草木は美しく広がり。水源がないにも関わらず、水はいつまでもいつまでも枯れることなく透明さを保つ。生命は、まるで()()()燃え尽きてしまいたいと願うように輝き生き生きしていた。そう、神殿に、そこにいるモノ(いきもの)は全て、ただならぬ生命と()()によく似た欲望を持っている。


「ハァ……全く……」


色とりどりのステンドグラスで多くの絵が描かれた神殿の一角の回廊。太陽を模しているのか、その回廊には橙色や黄色などの暖色系が多く見受けられる。ステンドグラスにも純白の翼を広げた人物が太陽へと向かって飛んでいる。壁際にはオレンジや黄色を基調とした花が生けられており、活気に溢れている。そんな回廊を一人の人物が走っていた。力強く絨毯の敷かれた床を蹴り、まるで飛ぶように一直線に駆けていく。人物の背には、ステンドグラスの人物のように大きく優雅で華やかな純白の翼。人物が駆けるたびに翼が大きく上下左右に揺れ動く。


「……本当に、何を考えてるのですかねぇあの御方は」


背中にある純白の翼で飛ぶことも忘れ、人物ーー天使は駆けていく。それほどまでに天使は何処か淡々とし冷静な声色とは裏腹に焦っていた。暫く長い回廊を走っていると目的地が見えてきた。巨大な純白の観音開きの扉。ドアノブなどはなく、装飾もない、ただただ()()()()。その扉に向かって天使が手をかざし、開け放つように腕を振り払えば、バンッ!と大きな音を立てて扉は開け放たれた。

そうして、部屋の中へと進んでいく。大きな音に部屋にいた大勢の天使達から視線を向けられる。だがそれらには見向きもせず、天使は部屋の中央ーーいや、広間とでも言うべき広さを持つ場の中央に佇む人物に向かって一直線に歩いていく。人物の足元には巨大な鏡のようなものが広がっていた。金色の縁が美しいが、所々錆びており、赤黒い何かが付着している。鏡のようなものの表面は時折、水面に広がる波紋の如く揺らめいておりただの鏡ではないことを表している。そんな不思議なものの前に佇む人物。その人物は幼さを持つ少年であった。だが、幼さが残る顔にはなにも浮かんでおらず、歪な不気味さを孕んでいた。少年は今まで見ていた鏡なのか水面なのかよくわからない物から視線を上げ、天使を振り返った。その拍子に少年を包む白いローブが揺れた。


「遅かったね。君が一番乗りだと思っていたけれど」


ニッコリと笑う少年。しかし、目は笑っていないし、やはり表情に笑みと云うものはない。全力疾走して来た天使ーー少年と同じ白いローブで体格は隠れて見えないがーーは疲れた顔をしながら少年に歩み寄る。


「何をしておられるのです?」

「君なら分かっているだろう?僕がやろうとしていることが」


そう言って少年は再び水面に視線を戻す。少年の言葉を聞き、ざわりと周囲がざわめくと一斉に他の天使達から少年のそばにいる天使へ視線が集まる。そこに集まるのは様々な欲望。全ての原点であり終点の、欲望だった。彼は周囲に渦巻く欲望を微かに一瞥したあと、まるっきり無視を決め込むと、あくまでも冷静に少年に言う。


「そんなことをして宜しいのですか?」

()()()()()?ねぇ、何言ってるの?」


ケラケラ、クスクス。上品で下品で、皮肉で美しくて、馬鹿げていて、なにも映さない瞳が天使を振り返る。瞳の中(そこ)にあるのは何処までも続く無。


「これは僕の為で、君達の為なんだよ?所詮、ここは()()玩具箱。()()()()()をしたって許される……だから、もっと楽しむ為にやるんだよ」


コテン、と無邪気に首を傾げるその姿は何処までも子供だ。だが、決して純粋無垢な子供ではない。少年が見ている鏡なのか違うのか分からない不思議なものの表面には魔物の群れが村を襲っている風景が映し出されていた。炎に包まれ焼け落ちる教会の十字架。炎と煙、悲鳴に包まれる村。幸いなのは、悲鳴の人数が少ないことか。元々廃村となりつつあった村だ。人が少なかったのだろう。燃え盛る家々から逃れるように森へ駆けていくのは、武器などを持たない旅人のように見える。そんな者達を魔物の群れは襲うことなく、建物のみを破壊していく。人間など興味ない、目的は別だと言わんばかりに。規律の取れた魔物の群れの中に異形な姿を持つ魔物とは違い、人間の、ーー魔族の特徴とも言える長く尖った耳をしておらず、また角などの人間にはない特徴を持っていないーー普通の人間の青年がいた。逃げ遅れたとか、人質とか、そういうのではないらしい。青年の顔の右半分は紅く痛々しい火傷の痕で覆われている。その青年の前にある魔族が跪く。そうして彼に差し出されたのは、小ぶりのサファイアが中央に埋め込まれた十字架のネックレスだった。十字架のネックレスの存在に少年は喉から笑い声を上げそうになる。と、その時、まるで少年の笑い声に気づいたかのように青年が()()()を見上げた。決して分かるはずがない。だが、青年の憎悪に塗れた瞳は確かに少年を睨みつけていた。そして、口を動かす。


『首を洗って待ってろ、カミ』


青年の口の動きを読み取り、少年は小さく小さく、口元を綻ばせていく。その笑みは醜悪であって、到底笑みとは言えず見様見真似の笑みだった。少年の笑みに天使と少年の周りにいる他の天使達がビクリと肩を震わせた。


「ッハハ……いいねぇ、その表情。まさにお人形だよ……嗚呼、愉しいなぁ……」

「あの……」


戸惑ったような彼の声色に少年は不思議なものの表面に手をかざし、ある意味残酷で悍ましい風景を消し去る。と、次に現れたのは嬉しそうに笑う二人の少女だ。二人の手には色とりどりの花で構成された小さなブーケと、二十cmほどの大きさのトロフィーが握られている。トロフィーは天使をモチーフにしたのか、翼のようなものがあり、銀色を基調としている。そしてなにより、二人の表情はとても嬉しそうで、満面の笑みだ。少年は二人の笑みをハッと鼻で笑うと、天使を見る。何処までも……そう何処までも愚かしい。


「彼は僕と世界への憎しみで溢れている。だからさ、人間には人間で解決してもらおうよ」

「人間に……ですか?」

「そうだよ人間って云うお人形にね。そうすればきっと、もっと面白くなるよ!」


そこで初めて少年の笑みが動いた。無邪気な子供のように、小さくだが動いたのだ。少年の小さな小さな笑みに天使は仕方ないと言った表情で少年に跪き、こうべを垂れた。彼に続くように他の天使も跪く。


「我が神のお望みのままに」


誰も彼もが跪く何処か恐ろしく壮大な光景に少年は恍惚とした微笑を称えながら、その瞳に歓喜を表した。

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