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ルミナエクリプス〜光と闇の戦士〜  作者: teamリヴィーシャ
第一章
22/39

第二十二節 黒薔薇と教会


頬に熱気が当たる。眼の前で真っ赤に燃え盛る炎が大きな建物と朽ちた十字架を飲み込んでいく。大きな建物ーーかつての教会を包むそれは怒りの炎、憎悪の炎、悲哀の炎、嫌悪の炎、復讐の炎、懇願の炎。そして、かつて誰かが愛を願ったであろう炎。ふと思い出す。魔女狩りという言葉を。共に見た本に描かれた赤き炎に包まれる醜い魔女、美しい魔女。炎に身を焦がす彼女達をあの時、どう思っていたのだっけ。けれど、彼女達も今のように、こんな風に、炎に想いを馳せていたのだろうか。


人間ヒトへの怒りを。裏切られた憎悪を。癒えぬ悲哀を。全てを嫌悪する意味を。救いの手の懇願を。そして、世界への復讐を。


嗚呼、まるで()だ。でも違いを挙げるとすれば、この炎は俺にとっての手段であり、狼煙。武器だ。幼子のように無邪気に、悪気を持って弄ぶ()()()への。そう考えれば、魔女狩りも俺も同じなのかもしれない。どちらにも正義なんてありはしないのだろうから。そう、世間一般で言えば、きっと俺は悪。だって、世界が忌み嫌う()の一人だから。でも、俺から見ればアイツが悪で、この世界そのものが悪だ。だから、そう、だからーー事情なんて知ったことではないんだ。アイツの事情も、全部。嘘っぱちにすぎない。

悪である彼らとは、()()()()()()()から、アイツよりも信用できた。アイツへ向ける憎悪、向けるべき正当な理由であり復讐とでも言えるもの。教えてくれて、きっと唯一理解してくれた仲間と言えたもの。だがきっと、それだけが本当の理由ではないだろう。だって今までは俺も敵だったんだから。裏がある……でも利害が一致したから、俺は()()()()()()()


思い出す……教会を包む炎で。かつて住んでいた村を襲った戦火。あの時もこんな風によく燃えていた。今にしてみれば本当に戦火だったのか、疑問が残るけれども。不思議に思うほどに燃えて燃えてーー失くなった。全部、あの炎から始まったと言っても良い。あの炎がなければきっと、()()はずっと幸せだった!アイツさえ現れなければ、信じなければ、幸せになれるはずだったのに!全て奪った!僕から、()()から!全て!だから……こんな遊びをするアイツに一矢報いるんだ。引きずり下ろしてその首に、いや、心臓を突き刺してやる。


まぁ今は、それさえ意味がないかもしれないけれど。今、アイツには心臓がない。いわば心、感情。それがない状態のままアイツを殺してもアイツは、理解しない。理解させて初めて殺してやる。アイツがしたことがどういうことだったのか、思い知らせてやる。……不幸になったのは俺だけじゃない。そうして、その不幸を、絶望を生む俺もいつか復讐の的。でもいい。その全ての始まりがアイツだ!全部、アイツのせいなんだから!


手のひらにある小粒のエメラルドがついた十字架。十字架の周りを包むように百合が咲き誇っている。ただ見るだけでは美しいのに、俺にとっては醜悪にしか見えない。これがアイツの心の一部だなんて、笑わせる。俺の胸元にも十字架が揺れている。いや、十字架と言うにはお粗末すぎるし、十字架にも見えない欠けて古びた過去の思い出(形見)。同じではないけれど、かつて似たような思いをアイツに捧げていたと思うと、皮肉と言うかなんというか……。これを壊すことはアイツにとっての一種の敗北であって復讐。天にまで登る煙が、アイツへこの行為を届ける。まぁ、()()()()だろうけれど。


「撤退する!」


短く告げ、かつての敵ーー『魔族』と共に歩き出す。()()部下であり、側近が俺の隣で軽く頭を下げる。耳が尖り、真っ赤な血を彷彿とさせる色が揺れる。


「恐らく、すぐに街の者共に気づかれるかと思われます」

「ねぇ〜今夜はオレらだけどさぁ、全部が全部、本当にオレらのわけねぇってのぉ〜」


もう一人の側近が、俺の後ろで云う。その口調に一縷の望みさえない。もしかしたら、というものは一切。まぁその言い分もよくわかる。アイツのせいなのに、全部敵である自分達のせいにされる。やっていないがやっていようが関係ないと言わんばかりに、例え本当に無関係なことであっても敵なんだからお前らだろ、と。怒るのも無理はない。教会を中心に森が広がっているが、近くに街や村がないわけじゃない。教会だけが燃えるよう魔法は使ったが、煙も炎も誤魔化せない。時期に気づく。側近の言う通り、これはこちらの仕業だ。アイツへの脅迫を込めて、俺のように気づけと小さくーーきっと俺だけかもしれないーー願いつつ。

俺は二人の言葉に手を振って答えながら燃え盛る教会から遠ざかる。横目で空に浮かぶ満月を見ながら手の中の十字架に力を籠めた。



「真っ黒だねー」

「燃えたんだねぇ」

「魔物……『魔族』か?」

「その可能性は高いだろうな」


真っ黒に焼け落ちた教会。もはや教会の跡形もなく、辛うじて残っているのは建物の骨組みらしきもののみだ。木造だったらしい、ほとんど残っていない。そんな教会の周りには立ち入りの規制を促す縄が張り巡らされ、人々を近づけさせない。イリヴァの街の教会以上の損害だ。

今彼らは宿泊した街を抜け、別の町に来ていた。以前の町よりも小さい町ではあったが、どこか素朴で懐かしさを感じさせる。そしてその町から少し離れた森の中に黒焦げた教会が鎮座していた。


「……でも、人に被害はなかったんでしょ?」


ルルが不思議そうに首を傾げて言う。町の人から聞いた話では、人に被害はなく、なんなら森にも火が燃え移ることはなかったと云う。教会が燃えたのは昨夜未明。住民が寝静まったあとのことでもあり、この町では教会を集会場などの用途で使用していたこともあり教会に人がいなかったことが幸いした。だが、燃え移る可能性のあった周囲の森が木の葉一枚も焦げていないのは不可解だった。


「魔法を使った、ってことかもな」

「?なんで?」


ソラリスの言葉に再び問いかけるルルに、彼は「知るか」と肩を竦める。魔法を『魔族』が使い、教会()()を燃やす。ナオとユーリは無言で視線を合わせた。おそらくその理由はーー


「『魔族』の考えなんか知るかよ」


首を傾げるルルに言い聞かせるようにソラリスが再び言う。ルルはそれっきり興味がなくなったようで「ふーん」とトコトコと先へと歩いて行く。そのあとをソラリスがため息混じりに追っていく。


「ねぇねぇなおみん。『魔族』って、よくわからないね?」

「だな……人間、いや人類とでも言うのか、が敵なら魔法を使わずとも森ごと燃やせばって思うよな」

「うん……教会、もといカミサマの心が最優先事項だったんだろうね」


ユーリがナオの隣で、前を歩く二人に聞こえないよういつもよりーーそう、いつもより、声量を抑えて言う。おそらく、現在の知性を持った()()()()()()()の最優先事項は「カミサマの心の回収」。魔物も普通に襲ってくることから『魔族』と魔物は違うものと考えることが出来るかもしれない。まぁ『魔族』に従う部下の魔物もいるのだろうし、日常茶飯時的に、ゲームで言う勝手に出没する敵のような魔物もいる。多種多様、と言う事か?


「森を燃やす理由はなかったってことか?」

「多分?まっ!『魔族』に会って話が聞ければ解決ななんだけどねー!」


「無理だよねー!」とケラケラ笑うユーリ。確かに『魔族』に会えば即解決だろうが、もはや敵である以上、それは些か難しい。ケラケラ笑いながら前を行く二人を追いかけていくユーリをナオはどこかのんびりと眺め、着いていく。


「ん?」


その時、ナオはふと見た足元に光るものを見つけた。普段ならば気にならないほど小さな粒。キラリと太陽の光で輝く小粒を拾い上げると、それは美しい翠色をした石だった。誰かが落した装飾品だろうか。いや、小さすぎる。小粒のため、なにかに埋め込まれていたのだろう。


「綺麗だな」


小さいけれども懸命に輝く生命ひかり。きっとなにかの拍子で外れたのだろう。拾っていこうか、どうしようか。というかこれはもしやドロップアイテムなのでは?嗚呼、綺麗だな。ナオはしばし考えーー


「なおみーん!」

「……嗚呼」


ユーリの呼ぶ声で、はっと我に返った。教会の近くで拾った装飾品のおそらく一部。まるで、そういつの間にか吸い込まれていたような感覚。その感覚にナオはブルッと寒気を催し、体を震わせる。そして、やはり気になってしまい、小粒をポーチに滑り込ませると歩き出した。あとで、ユーリにでも聞こう。きっと気の所為だ。こんな美しく力強い小粒(輝き)に悪寒を感じただなんて。


けれどもその輝きは、()()()()()()、消えていた。()()にあったのはーー

今回は此処まで。

とある人物の憎悪。色々少しずつ出していきます…


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