第二十一節 黒薔薇と散歩
あくる日。イリヴァの街を出発した、ナオとユーリの『ブラックローズ』。そして新たに仲間となったソラリスとルルの、四人。何処を目指すこともなく、ただただ気ままに何処までも伸びる道を歩いていく。青空の下、白い雲と暖かい太陽をバックにしながら。
ソラリスとルルも、と言えばいいのだろうか。ナオとユーリのように旅の目的を話そうとはしなかった。いや、言ってはいた。ルルが楽しげに「冒険だよ!」と。だが真の目的とでも言えば良いのか。本心からではないことを二人はわかっていた。ルルの何処かから元気な笑顔と、ルルを優しく見守るソラリスの瞳が物語っていた。
けれども、それはナオとユーリも同様だ。この世界を箱庭と、玩具だと称して絶望を与えては遊んでいた少年ーーカミサマ。カミサマに頼まれたーー強引に、そう、強引にーー二人の目的と言う名の使命をこの二人に言ってはいない。会ったばかりの二人に言って信じて貰えるかどうかさえ分からない。不安だった。この世界に来た時は、相棒が友がいた。だがこの二人は違う存在で、仲間だった。つまり、二人と二人には、時間が足りない。まだ、信頼出来ていないのだ。だからこそ、本当のことを隠して、笑い合う。ゆっくり、ゆっくりと時間をかけて、感情を、気持ちを伝え合い言い合い、信頼していこうとする。きっとそれが一番の近道であり、長い道のり。
職業を聞いた時のルルの表情、自分達と同じ実力者でなければ認めなかったナオ。きっと、きっと、誰もが探していて信じようとしている。初めてのパーティを、初めての直感を、初めての感情を。嗚呼、それはきっと、そうきっとーー
「だからね、ユーリ。倒せないなーって、そういう時は、バーンと大きな魔法をやっちゃえばいいの!」
「えーー?!」
バーン!と両腕を広げて言うルルにユーリが怪訝そうに首を傾げる。『力で制す』、そんな戦法を今の今まで取っていたはずなのだが、ルルとはなんかちょっと違う気がする。
「つまりルルは最初から全力疾走ってこと?」
「ユーリと同じだな」
「ちょぉおおっとうちらと違うと思います!」
隣合って歩くルルとユーリの会話に後ろを歩いていたナオが突っ込めば、ユーリから反論が上がり、ルルがクスクスと楽しそうに笑う。確かに違うと言えば違う、解釈もやり方も人それぞれだ。
「ユーリは素早さを活かして突っ込んでいくもんな」
「なおみんは攻撃力駆使してだもんね!」
「ふふ、信頼しあってるんだね〜」
「でっしょ〜!」
ナオとユーリの仲の良さにルルが何処か羨ましそうに、眩しそうに目を細める。それは自分もそうなりたい、という意思であることをユーリは知っている。自分もそうしたい、いやもうなっていると思っている。だが、少しずつ、だ。急ぎすぎるのは多分よくない。ナオにとってもルルにとっても、そして傍観しているソラリスにとっても。
「あ、そうだ。聞いて良かったらなんだけど」
「?なーに?」
話題を変えようと言葉を発するユーリにルルが首を傾げる。ユーリは「あのね」とルルの顔を覗き込み、続いてナオと同じように後ろを歩くソラリスを振り返る。
「ルルとソラリスって兄妹、とかではない……んだよね?」
「うん、まぁ……そうだね。ソラはボクが妹さんに似てるっては言ってたけど」
「ソラリスってお兄さんなの!?あ、でもわかる〜!」
「お前は妹っぽいな」
「正解」
あっちこっちに会話のボールが飛んでいく。ソラリスの確信を持った答えにナオがニヤッと笑うと、ルルが「一緒だねー!」とユーリとハイタッチを交わす。
「なおみんはお姉さん、なんだけど妹の方が似合いそう」
「あ、わかる〜!」
「おい待てこれどういう話題だ?」
ナオを振り返りユーリとルルの二人が言えば、少し困惑した様子でソラリスが言う。クスクスと楽しそうにナオがその、振り回される様子に笑みを浮かべる。
「っていうか、ルル可愛いもんね!うち、最初アイドルとか、そういう人がいるのかと思っちゃったもん!」
「可愛い……?へへ、ありがと〜」
「アイドル?」
ルルへの褒め言葉にソラリスがなにか引っかかったのか首を傾げる。前方でルルの何処が可愛かったかをお得意のマシンガントークで繰り広げるユーリと、それらに頬を染めて嬉しそうに微笑むルルを横目にナオは問う。
「どうかしたか?」
「いや……なんで偶像なんだ?どちらかと云うと『ダンサー』、は、違うな……なんというかそういう感じだと思ったんだが」
「……へぇ」
彼の疑問にナオは小さく声を洩らした。ソラリスの疑問のようにこの世界には、似ているとされる『ALUTAPARN』にも、『アイドル』という職業は存在しない。まぁプレイヤーであるナオもユーリも会話などで使うため、どういう存在かはわかるし、先程の会話にも疑問はない。だが、この世界や『ALUTAPARN』では『アイドル』ではなく、『歌姫』などと言う。使用する部位や道具によって呼び名が異なるのだ。『アイドル』と言われて思い浮かぶのはおそらく、詳しくは知らないが、偶像崇拝として偶像と呼ぶ種族やそれら関連だろう。ナオから見てソラリスは博識だ。高度な技術を模擬戦で披露してくれたのだからそう考えても無理はない。その彼が偶像崇拝の方だと認識した。つまり、そういう単語も知っておりなおかつカミサマが自分達のように突っ込ませた者ではなく、正真正銘の異世界人と云うことだ。その事実に少しだけ、ナオは安心した。
「そんぐれぇルルが可愛いから、崇拝者いるんじゃないかって思ったんじゃないか?ユーリのことだし」
「ふぅん、そうか。……まぁ、正解でもあるか」
きっとその呟きはルルの職業が言えない最大の理由なのだろう。ナオは呟きを聞いていなかったふりをしつつ、問う。
「お前も……ソラリスも攻撃できるし魔法もできるしなぁ……同じだったりして」
「んなわけあるか。俺はルルみたいにぶっ放すようなのは向いてないんだよ。ところで」
「ん?」
「よく大剣を、その、よく持てるな」
凄いと言いたいのだろう。言葉というか話題をぎこちなくではあるが選ぶソラリスに、ナオはクスリと笑う。いつの間にか、二人の話に耳を傾けていたユーリとルルを巻き込みながら、会話に花を咲かせていった。
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その日の夕方。日が沈み、空がオレンジ色に染まる頃。四人は道なりに到着した街で一泊することにした。此処にはギルド紹介所などはなかったが、道なりにある街のためか、旅人が休めるようにと宿屋が多くあった。その為、四人は何処にも泊まれないと云うこともなく、一泊をゲットすることが出来た。
「四人部屋でいいよな」
「へ?」
「え?」
受付で告げるナオにルルとソラリスの素っ頓狂な声が重なる。だがナオはそれが聞こえなったのか否や、受付に四人部屋で部屋を取ってもらっている。
「?だって女の子三人だし……二人部屋にしたら男女ペア出来るでしょ?あ、もしかして二人は気にしない?」
対応中のナオに代わり、ユーリが答える。今までルルとソラリスは二人で旅をしていたのだから、気にしてなかったのかもしれない。もしかすると二人は恋人だったのかも?と途中で気づき、「そうだったら余計なお世話だった?ごめんね」と顔の前に手を出し謝った。それにソラリスは大丈夫と首を振っていた、が、ルルは
「……そっか。普通はそうなのか……」
小さく、何処か神妙な顔つきで呟いていた。もっともその言葉は近くにいたソラリスにしか聞こえていなかったが。
「大丈夫だよ!ありがと、ナオ、ユーリ!」
笑顔で告げるルルにユーリは、ほっとしたように笑みを浮かべ、なんとなく察したナオも振り返って頷くことで返す。とそこでタイミングよく受付の人からナオが鍵を受け取る。
「四人部屋は三階になります」
「嗚呼、ありがと」
鍵を受け取り、受付の指示に従い彼らは三階へと階段を登り始める。ナオを先頭にし、その後ろに大きく伸びをするユーリ、ソラリスとルルが続く。
「ねぇソラ」
ルルが自分の前を歩く彼の袖を小さく引く。ソラリスは歩く速度を遅くすると、少しだけ屈んだ。
「大丈夫かもしれないね」
ふふっと、何処か嬉しそうに笑うルルにソラリスは前方を歩く二人の少女を見やった。
パーティを組んだものの、まだまだ互いに手探り状態の彼ら。
たまに説明するのが難しくて、筆が止まってしまうことがあります…文才がほしい…




