第十七節 黒薔薇と憧憬
当たり前、と言えばいいのか。それともさすがだと言えばいいのか。ナオとユーリが二体の魔物を相手取っている間に、教会の十字架を破壊した魔物以外全ての魔物が討伐されていた。そして魔物に襲撃された為、大会は中止となり、大会を運営していた者やギルド関係者によってその被害と全貌が明らかになった。
イリヴァの街は教会を中心に半径数十メートルに渡って半壊。教会は火事もあったせいかほぼ全壊とも云えた。だが大会を観戦するために教会関係者は休日となっており、いたのは責任者の神父のみ。その神父も偶然外に出た途端に魔物が襲来したため、冒険者に保護され事なきを得た。しかし、大会の会場である周辺では避難で怪我をした者が多くいた。逃げ出した際、誰かが転んだのをきっかけに次々と転んでしまったり、魔物の攻撃から身を護ろうと動き転んでしまったようだ。結果、軽傷者と重傷者が多数。回復魔法ができる者によって治療を施されている。あとは魔物を討伐した際に冒険者達が負った怪我。大半が軽傷であり、重傷はほぼいなかった。当たり前と言えばいいのか。イリヴァの街にとってこれは日常茶飯事の一つ。魔物の襲来があった数時間後には、教会関係者は教会の復旧に取り掛かり、住人も後片付けに精を出していた。また運営は大会を中止にしてしまったお詫びにと参加者と、討伐してくれた冒険者達に一週間分の食料を提供した。これには「色々大変な状況なのに大丈夫だろうか」と不安に思った二人だが、この大会の為に余分に準備しすぎたらしい。なので、有り難くもらうことにした。
数時間前まで、魔物で右往左往していたとは思えないほどに人々は日常を過ごしていた。もちろん、まだまだ魔物の恐怖に怯えている者もいるが、徐々に日常に戻りつつあった。これが、この世界の日常であり普通。いつ襲われても可笑しくない日常。それをナオとユーリは改めてそう、改めて知り思い知った。生命に溢れていながら恐怖に溢れている世界を。
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「凄いね〜なおみん」
「だなユーリ」
活気を取り戻しつつある大通りを眺めながらナオとユーリは呟く。あの襲撃から一夜明け。人々は日常を取り戻しながら、魔物に破壊された建築物を建て直していた。重傷であった人々も回復魔法のおかげかはたまた生命力の賜物か、危機を脱したという話は今朝から多くの人々の間でかわされている。皆がホッと胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。ちなみに他の冒険者達は分からないが、二人はユーリが持つ回復魔法で治療した。サブ職の魔法でもあるためあまり多く体力を回復はできないが大きな怪我ではなかったので、大したことはなかった。また対戦相手であった酒場で喧嘩を売ってきた男達のリーダーから回復薬を貰っていた。「ツンデレ?」とユーリが思わず言い周囲が爆笑したのは記憶に新しい。そのおかげで少しは険悪な雰囲気は消えた……かもしれない。
そんなこんな。ナオとユーリの二人は飲食店やカフェが立ち並ぶ飲食店の大通りのとある一角の、とあるカフェにいた。カフェの二階のテラス席、かつてあった全壊した教会が見える店だ。二人以外にもテラス席には多くの客が一時の幸せを楽しんでいる。
「にしてもさぁ、何処行っちゃったんだろうね?」
「ん?」
「あの魔物!」
アイスカフェオレを飲みながら少々声量を抑えながらユーリが言う。「嗚呼」と小さく呟きながら、ナオはアイスミルクティーが注がれたコップのストローに口をつけつつ言う。
「カミサマ関連かもな。で、ユーリ、お前はどう思う?」
ニヤリ、と笑ったナオにユーリもまたにっこりと笑い返す。アイスカフェオレが注がれたコップを置きつつんだユーリは言う。
「うん!えっとね、あの少年が魔物ーー『魔族』の先手を取ってるって説はあの様子からしてないと思う。なーんか遊んでる感じだったし」
「確かにな」
ガンッと怒りに任せてコップを勢いよくテーブルに叩きつけるナオを横目にユーリは続ける。この世界、異世界に落とされた時のことを思い出したのだろうということは、想像に等しい。コップを叩きつけた音に近くのテーブル席に座る数人が怪訝そうな表情でこちらを振り向いたが、すぐに自らのテーブルへと視線を戻していた。
「だから多分、『魔族』側だったんじゃないかなーって!カミサマは、その……うん、なんかね……生半可な結果にしないと思うっていうか……」
ユーリが言い淀む理由が分かりすぎるナオである。この現実を「神様の箱庭」とまで言う彼のことだ、ユーリの言う通り生半可な結果をこちらに与えるとは到底思えない。
「教会だけを狙ってる感じだったし……まぁ憶測でしかないけどね!教会からなにか盗まれてたら確定だけど……」
「全壊だし火事でほぼ燃えたしな」
ユーリの言葉を受け継ぎナオが言う。それに今、教会は復興作業中だ。火事もありなにが消えたのかはわかるはずもない。とりあえず、この話題はおしまいと言わんばかりに二人同時に飲み物を口にする。確証がないため憶測でしかない。
ゆっくりと二人は飲み物から口を離す。ふぅ、と美味しかったと言わんばかりにコップを置くユーリと静かにコップを置くナオ。二人の性格がよくわかる。はてさてと次なる話題にユーリが口を開いた。
「で、これからどうす」
「あのっ!」
その瞬間、声に遮られた。可愛らしい声だ。なんだと二人一緒に声のした方を振り向けば、そこにいたのは大会の控室でユーリが見つけた人物と少女の二人組だった。とても可愛らしい美少女に他のテーブル席からチラッチラッと視線が注がれている。実はあの襲撃のあと、ユーリは気になったこの二人組のことを話していた。その為、ナオはすぐに「この二人?」とユーリに視線を投げかけると、彼女は何処か嬉しそうに小さく頷いた。
「なーに?」
一応聞いてはいるが、実力が分からない。様子を見たいと言うナオの意図に気づいたユーリが優しく、親しげに返答する。その際に「座る?」と空いた席を促せば、少女は「い、いいえ!大丈夫だよ!」と緊張しているのか震える声で返す。そうして、ギュッとスカートの部分を握りしめながら言った。
「あ、あのっ!パーティに入れてくれませんかっ!」
ド直球で来た。少女の言葉にユーリはまさか直球でくると思ってなかったらしく目をパチクリさせ、ナオは驚きつつも見定めるように二人を見ていた。
「あ、イヤならイヤでいいんだけど、えっと、軍服着たナオの戦う姿見たんだけど、格好良くて!凛々しくて、あの魔法?かな、花と雪の結晶がキミを包んで、キレイって格好いいって、おも」
「わ、わかった、わかったから!」
まるでユーリのマシンガントークのように少女の褒め攻撃に、ナオは顔を真っ赤にしながら制止させようとする。頬を真っ赤に染めたナオに少女が「……格好いいだけじゃなくて、可愛い……」と呟いたのをナオは近くにいたためはっきりと耳に入れてしまい、頬の赤みを消すようにアイスミルクティーを口に運ぶ。ナオのそんな様子にユーリも少女も楽しげにクスクスと笑う。
「パーティにいれてほしいってことだね!……えっと、そっちの人も?」
「あ、うん!」
そうユーリが先程からなにも言わず、ただ佇む人物ーーフードを外しているため分かるが、青年と言うよりも青年から男性へと成長している間のような、そんな感じの人物だーーを見上げて言うと、少女が頷く。「ほらー!」と少女が人物の背を押せば、人物は小さく笑って言う。
「オレもルルと似たような動機だ。それにほら……お前達の攻撃を見てると、二人共に攻撃職なんじゃないか?」
「ごもっともっ」
核心を突かれました。うぐっとユーリが呻く真似をすれば、少女がクスクス笑う。すると照れから回復したナオが言う。
「……だが、俺達が望んでるレベルじゃなきゃ意味がねぇ」
「なおみん!」
いまだ見定めるように言うナオにユーリが声を荒げる。だがその理由をユーリは分かっている。けれどもナオが多少妥協しているのも分かっている。眼の前にいるのは二人が求めていた魔法職。人物はなにか分からないが、二人の穴とも言える箇所を突けるくらいだ、おそらく魔法職だろう。フードとか如何にも魔法職っぽい。偏見だけれども。ユーリからすれば、喉から手が出るほどほしい魔法職。それはナオも分かっているし必要と知っている。はてさて、どうすれば誰もが納得するか。
「そりゃあそうだ。条件があるだろうしな」
「あ、でもね、キミたちは凄いと思うよ!魔物と戦ってるのを見たんだけど、ホントに凄かったよ!」
少女がニコニコと笑って言う。その笑みはまるで花のように可愛らしい。再び褒められたような形になり、ナオが頬を赤くする。と、その時、ユーリは『白銀の星』の建物内で見た場所を思い出した。あそこならば……
「ねぇねぇなおみん」
「なにユーリ」
「なおみんは、ちゃんと実力が見たいんだよね?ならさ、模擬戦はどうかな!?」
今回は此処まで。次回から登場人物が増えます!
このワチャワチャ感が好きです。




