第十四節 黒薔薇と敵襲
不気味にパキッ、パキッと響き割れていく木の板。参加権である木の板ーー魔法使用不可の魔法の効果がある木の板が割れる、と言うことはつまり。ナオもユーリもその辺りの説明は受けた。だがそれこそまさか、と目を見開き固まるしかない。けれども、この世界にも絶対はない。いつしか起こることで、日常茶飯事の一部でしかないのだ。そう、だからこれも偶然で必然のこと。
「……こ、れって」
小気味いい音が意味するのはーー
「魔物だっ!」
敵襲。
何処からか聞こえてきた鬼気迫る声に一斉に声がした方向を向く。その方向にあったのは二人が大会前まで眺めていた教会。屋根の頂部分に刺さった十字架に降り立っていたのは黒い翼を持った異形な化け物。化け物が人のように嗤ったーーように二人には見えた。いや、実際に嗤ったのかもしれない。歪で残酷で不気味な笑みがまるで合図と言わんばかりに破裂音と共に教会から火の手が上がる。途端、今まで楽しげに興奮気味に大会を観戦していた観客達が一斉に人の大波となって、教会の反対側ーー別の大通りに我先にと逃げ込んでいく。そのせいで大通りはその名の通り広い通路だったにも関わらず、一気に手狭となり、息をするのも億劫になってしまうほどになる。だがそれでも魔物が日常茶飯事の世界だ、我先にと言いながら人々は一方通行で大通りを走っていく。反対方向、魔物がいるこちら側に来る者は僅かしかいない。この大通りの先にある役所と、裏門に向かっているのだろう。魔物発生時の避難、誰がとは言わずに悲鳴をあげつつも逃げ込むその光景は圧巻であり見事だった。
「言っちゃ悪いけど、手慣れてるんだねぇ」
「んなこと言ってる場合かユーリ!」
拍手を送ってしまいそうなほどの光景にユーリが関心しきって言えば、ナオが叫びながら大剣を構える。ナオが再び殺傷能力を持った武器を手にしたことによって、ユーリも慌てて二振りの刀を抜き放ち、彼女の隣に並ぶ。二人が武器を構え、人々が逃げ出す間にも魔物は教会をこれでもかと言わんばかりに破壊し、近くにいた人々に殺意を振り撒きながら襲いくる。恐怖にかられ動けず、悲鳴をあげる人々に魔物は容赦なく襲いかかる。しかし、魔物の凶器が届くよりも早く別の刃物が魔物を襲い、人々を同じように武器を持った冒険者ーー参加者達が救う。教会を囲むように参加者達が武器片手に集結する。
「ひゃー!圧巻!」
「……ホントにお前はなぁ」
何処までも呑気な声を上げるユーリにナオが脱力しながら振り返る。緊張感がビシビシとほとばしる中の声はなんだか冷静さを与えてくる。
「だってそうじゃん!参加者の連携……ううん、臨機応変?っていうのかな、凄いじゃん!」
「へーへーあいつらにとっての日常なんだろ。それに俺達も組み込まれてんだ、そういう規則だからな」
ナオの真剣な言葉にユーリは力強く頷くことで答えた。そう、ナオの言う通り、これは事前に説明されたことだった。参加権である木の板には魔法使用不可の他に特殊な魔法がかけられている。それはこのイリヴァの街に張り巡らせれた透明な結界の魔法と連動しているものだ。「魔物が出現した時、木の板が割れる」というもので木の板が割れる音で冒険者や戦闘ができる者に魔物の討伐を頼み、戦えない民間人を避難場所へ逃がす。という規則でありこの街のルール。郷に入っては郷に従え、である。そして恒例の大会を狙っての魔物の犯行はある意味、命を脅かすにはうってつけではあるがまた別の意味では闘う者がいる時を狙うと言う失態でもある。
雄叫びを上げながら先輩である冒険者達が魔物へと駆けていく。どうやら教会の頂ーー十字架を今まさに真っ二つにまるで棒をポキッと折るように破壊した魔物がリーダー格であり爆破を行っているようで魔物が興奮気味に腕を上げると教会から再度爆音と火の手が上がった。
「おいっ!水!水魔法持ってるやつは水魔法をかけてくれ!」
「魔法使いは消火活動に専念がいいわ!」
闘いに慣れた猛者達が互いの行動を察して叫ぶ。二人のようにチームを組む者達も己の力を鑑みてそれぞれの行動に移る。それでもナオとユーリのように周囲を伺う者や、この街を拠点にしておらずただ大会に参加しただけなのだろう武器を構えたまま立ち竦む者達もチラホラいた。全員が全員、臨機応変に行動できるわけではない、と言ったところだった。
「ユーリ、俺達も行くぞ」
「あいあいさー!なおみん!」
でも、自分達にも出来るならば。眼の前の敵を葬ろう。真実を知りたいがゆえにも。二人が武器を構え、真剣な表情で互いを見据えた。その瞬間、二人の用意が出来たから来ましたと言わんばかりに目の間に現れたのは二体の魔物だった。一体は鳥の翼に身の丈ほどの杖を持ったおそらく魔法を使う人型の魔物、もう一体は四本の腕を持ちそれぞれの腕に短剣を持った同じく人型の魔物だ。魔物に知能はないとされるが、魔法を使うタイプのものはいる。そこで「もうお前知能あんだろ」と思わなくもないが、閑話休題である。魔物の生態は不明が多いということでご理解頂きたい。
この二体は見た目から言っても誰でも倒せるような初心者向けの魔物ではなく上級者向けの魔物だろう。いわゆる初心者の街と言わんばかりのこの街に上級者向けの魔物が現れるということが、如何にここがゲームではなく現実であると言うことを鮮明に伝えてくる。
「どっちやる?なおみん」
「魔法を使うタイプかな」
「殴るだけじゃないのを確かめるんだね?!」
「一応な、い・ち・お・う!」
からかうように言うユーリにナオが少し憤慨した様子を見せながら腰に片手を当て言う。それにユーリは「わかってるわかってる!」とケラケラと笑う。
「はいはいなおみんは、頑張り屋さんだからね〜!はい、〈攻撃力上昇〉」
楽しげに、そして何処か嬉しそうに笑いながらユーリが魔法を唱える。それは今まで何度もナオがお世話になった魔法だ。体の底から湧き上がるような、大剣を持つ手に熱く血が滾るような感覚。魔法を使う、と考えると一応で攻撃力を上昇したほうがいいとユーリも考えたのだろう。まぁどれくらい効果があるかはわからないが。
「じゃあ、うちは四本の腕持ち〜」
「防御いるか?」
「一応欲しい!」
「了解。〈防御力上昇・聖騎士の祝福〉」
ナオがユーリに向けて魔法を放つ。〈攻撃力上昇〉とはまた違う感覚と光、清涼感溢れる、そして激流に微動だにしない力強い光がユーリを包む。心なしか体が重くなったような気がする。ユーリも通常の〈防御力上昇〉は持っているが、『聖騎士』であるナオの方が使う魔法の方が今回は良いと判断したのだ。防御面に優れているジョブであるため、防御魔法の効果が他のジョブより高い。まぁ魔物との差があれば心許ない程度であり、優劣があれば微妙な時もあるが、それでもその多少でユーリは何度もゲーム内でも異世界でも救われてきた。
「ありがとなおみん!」
「いいえ。じゃあ、準備はいいか?」
大剣の切っ先を魔物に向けるナオ。彼女の返答としてユーリは刀の切っ先を自らの獲物である魔物に向けた。そうして両者、暫し沈黙し、跳躍した。
さあ、二回目のチュートリアルの開始だ。
大変お待たせ致しました……戦闘開始です!




