水晶の塔の占い師
水晶の塔と呼ばれる建築物がある。
水晶の洞窟を思わせるその内部。
リラが足を踏み入れたここは鉱物と磨いた水晶からなるタワーだ。
塔の一階から中央にある吹き抜けの螺旋階段を登って上に。
二階三階と周りながら一歩一歩確実に登る。
不親切に外側に手摺はない。
踏み外せばそのまま落下していく造りだ。
足元を見ていれば踏み外す事はないのだが如何せん水晶洞窟の如き室内の美しさに目を奪われてついつい周囲を見てしまう。
透明の美しさが大好きなリラはその透明度の高い音を聴きながら上を目指す。
水晶が奏でるのは涼やかな音だ。
しかし深みのある無音でもある。
そこには記憶が閉じ込められている。
まるで何万年もの間氷山に閉じ込められた空気のようだ。
そして閉じ込められた氷もまた美味なる味と音と色を持ってリラに語りかけてくる。
「着きましたか」
六階辺りまで登ってリラは一息つく。
部屋の奥には占い用のテーブルと椅子が置かれており、その椅子に座る一人のミイラがリラを見ている。
「わざわざご苦労様」
深緑色の占い師衣装…ドレスか、を着てミイラ女は目元に笑みを浮かべ面白そうに言った。
ミイラ、腕は包帯に包まれ顔は目元だけ見える。
とはいえ片方の目は眼帯を付けていてデザインは水晶の目。
頭はベールを被りティアラを付けている。
口元も鼻から下はフェイスベールで覆っており踊り子か占い師の容姿をしている。
占い師のような…というか占い師だ。
名前はマティア。
未来を予知する魔女だ。
過去現在未来。
時の始まりから時間は流れ現在へ、そして未来へと移行していく。
我々が見ているのは現在であり過去には一切手出しできない。
過去とは過ぎ去った時間でしかないからだ。
そして現在は未来と共有できない。
未来は予測出来ても重なる事はできない。
なぜなら未来と思っていた時間は現在であるからだ。
そしてそれは過去になっていく。
時間の流れとは不思議なもので誰もそれを止められないし戻る事もできない。
神ですら時間の流れには逆らえない。
神すら拘束する時間とは何であるのか?。
そして時間は逆行できないのか?。
様々な研究機関がそれについて研究を続けている。
「来ることは分かっていた?」
「もちろん」
事前に連絡はしていない。
マティアの場合は予知夢である。
占いの場合もある。
予知夢とは実に不思議なモノだ。
夢というモノについては解明されているモノもあれば未だに未解明な部分も多々ある。
脳が情報整理の為に夢を見せるという一つの説あるがそれもまた記憶と結びつけられる。
しかし予知する夢とは何だろうか?。
未だかつて未来を正確に緻密に一切外れる事なく予言出来たモノはいない。
予言者なる者はどこか不安定で虚ろでどうとでも取りようのある言葉を吐くものだ。
マティアもまた全て正確に未来を当てれる訳では無い。
リラが来るという事だけであり何をしに来るかまでは視えてはいない。
しかし誰よりも未来透視能力は高いだろう。
そもそも未来を予測出来る能力など五感のどの能力とも違う。
あるいは第六感なるものの能力か。
「視えていた?」
「来ることとその透明の服を着てくる事まではね」
リラの着ている服は透明だ。
透けていて一瞬見たら下着だけの姿に見える。
実に豪快というか露出度が高いというかとにかく派手ではある。
「この塔は相変わらず実に綺麗ね」
「水晶の塔が特に気に入っていたのだっけ?」
「そう」
マティアの住まう場所はここだけではない。
宝石の鉱石を使った建築物が各所にある。
その中でリラが一番気に入っているのがこのクリスタルの塔だ。
「なら悩みを聞いてくれる?」
「いいでしょう」
マティアはそういうとテーブルの上に置かれた丸い水晶に向かって手を差し出した。